廃校学園!
邪神眼鏡
転校生
日常とは常に同じ日が繰り返されていることを言う。
否、そんな日常はつまらないと、刺激を求めることは自由だ。
しかし、それはもはや日常とは言えないのではないだろうか。
日常は、常に同じ事をする事を指すのだから。
先ほど、日常は、常に同じ日の繰り返しだと言ったが、普通、そんな事を気にする事などいない。
日常が日常である限り、俺たちは常に同じ事を繰り返す。
同じ事を繰り返している限り、それが日常であることすら気がつく事はない。
刺激を求め、実際に刺激を得た場合、その瞬間、それは日常では無くなる。
そうなった場合、つまり、今までの日常が崩れたとき、人は初めて日常の大切さに気がつくのだ。
それが自分の責任か、それとも否かは大きな違いだが、俺の場合は、両方だった。
「なあ、俊。この高校、廃校になるって聞いたか?」
7月上旬のある日の朝。
俺はいつも通りに起き、朝食を食べ、そして学校に来た。
しかし、教室に入るとすぐ、いつも通りではない言葉を聞き、俺は思わず聞き返す。
「……まじでか」
「……ああ……。俺も今朝聞いたんだけど」
そう言い頭痛を抑えるようにこめかみに手をやるのは、俺の親友、高野和也だ。
ちなみに、俊というのは俺の事だ。
神藤俊。
それが俺の名前だ。
この高校は田舎にあり、生徒数は、三年生は46人、二年生は36人、一年生は26人と、年々減ってきている。
このまま行くと、来年の入学生は16人になってしまうだろう。
しかも。
「まあ、俺らの学年からは大勢が転校していったしな……」
「ああ。……そうだな」
俺らの学年、つまり二年生36人の内、19人が転校した。
実際、俺の幼馴染の子も転校していってしまった。
中学一年生までは、とても仲がよかったのだが、ある日事故に会い大怪我をしてしまい、大きな病院のある都会へと引っ越してしまった。
名前は星宮葵。
とても可愛い子だった。
……話がそれたが、とにかくうちの学校は人が少ない。
……さらに。
「不登校3人、か」
「ははは……。この学年、というかこのクラス、14人しかいないからね……」
和也が力なく笑う。
実際、いまこのクラスには14人しか居らず、いつ廃校になってもおかしくない状況だった。
「……廃校っていつなんだ?」
「わからないけど、多分今の一年生が卒業したら、とかじゃない?」
「つまり、新入生はもう入ってこないということか」
俺らの代で学校が無くなることはないのだが、なんというか、二年間過ごしてきたこの学校が無くなるのは結構寂しい。
「なあ、どうする?」
和也が俺の顔を覗きこむ。
「どうするって……何を?」
「廃校の事に決まってるだろ!何とかしないと」
何とかってなんだよ。
俺らが何かやっても、状況が良くなるとも思えない。
それなら、廃校を止めるとか、そんな事はせずに残りの一年半を有意義に過ごした方が良いだろう。
「だいたい、オレら生徒の事なんて考えてないんだよ、大人は」
「ほう、聞こうじゃないか」
俺が適当に返すと、和也は気分が良くなったのか、嬉しそうに。
「いいか?大人っていう生き物は、自分のことしか考えてないんだよ。自分が疲れていれば、この世で自分が一番疲れていると言い、オレら子供にその考えを押し付けるんだよ」
おっと、何か語り始めましたよ?
しかし、その熱弁も誰かが言った、『おい!先生が来たぞ!席に座れ!』という一言に遮られた。
するとすぐに、担任の先生が教室に入ってきて、教卓の前についた。
「今日は二つのニュースがあります。一つ目は悪いニュースです」
担任は、女の先生でとても若く、童顔巨乳、そして可愛いという、俺の好みにクリティカルヒットな感じで、とても生徒に慕われている。
また、彼女はとてもおっちょこちょいだ。
そんなおっちょこちょいで温厚な先生が顔を曇らせている。
生徒達もそういう先生の顔を見て、悲しそうな顔をする。
きっと廃校の事だろう。
「……この学校が廃校になる事が決まりました」
先生は、皆と過ごした思い出の校舎が無くなってしまうのが寂しいだとか、残りの一年半を大切にしていこうだとか、だいたいそういう事を述べた。
一一一廃校の話が終わると、先生の顔がいつも通りの笑顔に戻った。
いいや、笑顔に戻った、というよりは、無理矢理笑顔を造っているように感じられた。
先生は極めて明るい顔をして、
「……えっと、それで二つ目のニュースですが………なんと!このクラスに転校生が来ましたー!」
笑顔でそう告げる先生に生徒たちは、マジか!何でこんな時期に?廃校になるんじゃないのー?フ……転校生が来ようが、この学校の支配者はこの俺だあああ!など、様々な声が上がる。
って、最後の誰だよ。
そんな中、先生は教室のドアの方を見ながら。
「入ってきていいわよー」
きっとドアの向こうに転校生が居るのだろう。
先生がそう言うと、教室のドアがガラガラと開けられる。
「おお!転校生って女子なのか!?」
わずかに見えたスカートに、男子の一人が叫ぶ。
まだ転校生の顔を見ていないが、もし可愛ければぜひお近づきになりたい……と、そんな事を考えていると、転校生とおぼしき少女が、教室の中に一一一
「なあ!めっちゃ可愛くないか!?オレの好みかも……」
後ろの席に座る和也が一目惚れする中、俺は別の事を考えていた。
一一一何であいつが一一一
「さあ、自己紹介して!」
先生がそう言うと、少女が教卓の前に着き、こう言った。
「転校してきた星宮葵です。宜しくお願いします!」
その瞬間、俺の目の前は真っ暗になった。
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