第109話 自分のしたいこと。相手に望むこと。
それから俺は、全てを話した。
まずは能力について。信じられないという立花さんには未耶ちゃん達に行ったように一言一句言い当てて証明した。対照的に操二はそれ程驚いた様子はなく、そう言われたら納得したと一人合点していた。
次に能力を身につけたタイミング。語弊を正す意味で少し仰々しい言い方をするなら、それが発現したタイミングだろうか。小六辺りからの俺はともかく四歳から持っていたという事実に、今度は流石の操二も目を丸くしていた。
そして現在、愛哩がそれを失ってること。
「頭良さげに言うと、アイデンティティの崩壊ってやつだよな?」
操二が上手にまとめてくれる。愛哩は心を読める状態で、俺なんかじゃ比にならないくらいの時間、それを背負って生きてきたのだ。今更“当たり前”を押し付けられても、すぐには順応出来るものではない。
「だけど、それだけじゃないんだ」
この先を話すのはやはり躊躇われたが、話さないと本題に入れない。
俺はなるべく簡潔に、両親との一件を説明した。
「……愛哩先輩に、そんなことが」
まず初めに口を開いたのは未耶ちゃんだった。俺を除いたここの三人じゃ一番近くにいたのだ、未耶ちゃんも未耶ちゃんで違和感を抱いていたのだろう。
「……愛哩は両親に信頼してもらうために、具体的な肩書きを得ることとして生徒会長になることを見出したんだ。でももしそれでも、まだ両親が愛哩に対して少しでも恐怖心を抱いていたら」
「長岡先輩は良くない方向に暴走してしまうかもしれない。……いや、そもそもその事実に耐えられないかもしれませんね」
立花さんの言う通りだ。今の愛哩は自分の何を犠牲にしてでも“両親から自分への恐怖心の解消”を成し遂げようとしてしまうだろうし、いつかはわからないけど、いくら頑張っても無駄だと思ってしまったら、愛哩自身が耐えられるかわからない。
……と、その前に。俺はふと感じたことを口走ってしまう。
「操二も立花さんも、凄い普通に俺と会話してくれてるけど、嫌じゃないの?」
見透かされ過ぎるとかつての俺のトラウマのような拒絶心や愛哩の両親が抱いた恐怖を少なからずは感じるはず。
それが二人からは、不自然な程に伝わってこなかった。
「オレは悟クンなら別に良いかなって思ってるだけだぜー。こう言うと変に聞こえるかもだけど、悟クンって滅多なことじゃ引かないっしょ? 良い感じに言うなら素のオレでも受け入れてもらえるって信頼してるってかさ」
受け入れてくれた未耶ちゃんとはまた違った理由。操二のその言葉に、俺は何だか無性に恥ずかしくなった。
「……えっと、見透かされちゃうんで本音を言うんですけど。正直あずは長岡先輩の件に集中して誤魔化してます」
操二とはうってかわり、立花さんは言外に受け入れきれてないことを伝えてくれる。
知ってか知らずか、そう思ってるならそう言ってくれる方が俺としても気が楽だ。
「騙されていた……とはまた違うんですけど。今まであずが隠してたような内面も知られてるって考えると、語弊を恐れずに言うなら怖くもあります」
「そっか。無理はしなくて良いからね」
「いえ。今後どうなるかはまだわかんないですけど、頼まれた生徒会長選挙が終わるまでは協力するつもりです。じゃないとあずは多分一生このことを引きずると思うので」
立花さんらしい発言だ。俺はお礼でもなくただ「わかった」とだけ返す。
話すべきことは説明し終えた。
ここからは、この後具体的にどう動いていくかだ。
「さっきまでのを受けた上で、俺は自分が生徒会長になってそもそも愛哩が自分の想像とのギャップで潰されないようにすることを選んだ。だけど途中結果はこのザマ」
そもそも俺自身が自分の想像とのギャップで取り乱してしまった。
正直、打つ手が思い浮かばない。
「……そこで、恥を忍んでお願いするよ。他に何か良い方法があれば、ぜひ聞かせて欲しい」
俺の言葉に、生徒会室はしんと静まり返る。
こう言うのは傲慢かもしれないけど、俺も俺で考えた末に思いついた手段だ。簡単に思いついてたら苦労しない。
「オレから良いかな」
挙手したのは操二。当然俺を含めた三人は異を唱えなかった。
「単刀直入に言うけど、悟クンが求める結果って何?」
「それは勿論愛哩が潰れないことだよ。だから俺が生徒会長になれば……って、この話はさっきしたね」
「だね。だけど多分悟クンのそれは一個前のやつだと思うぜ」
一個前。どうにも理解が追いつかない言い回しに、俺は沈黙で続きを待った。
「悟クンは何も長岡さんにその場しのぎの方法を教えたいわけじゃねえだろ?」
「それは……そうだね。一番は俺が介入せずにそうならないように出来るのが理想だよ」
「だったらさ」
操二はふと柔らかい笑顔を浮かべる。
既視感があった。それはかつてソラちゃんへ向けていた心からの優しさを可視化したような安心感そのもので。
「悟クンのやることは勝つことじゃねえぜ。長岡さんを信じさせてあげることだ」
今度は俺を、器用と言うには感情が現れすぎている笑顔で安心させてくれた。
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