第62話 デートの順番決め
目を丸くする俺達をさらっと受け流して空いた椅子に腰を下ろす立花さん。俺の右には上座の音心、正面には長岡さんでその隣に未耶ちゃんがいるため、必然的に俺の隣だ。
「えっと、立花さん。今の俺の話を聞いてたって言うけど、どこまで?」
「全部ですよ全部! 妹ちゃんが宮田先輩のことを好きーってところから全部!」
「……それで、デートをして決めるってのは?」
「簡単ですよ。宮田先輩と一人がデートをして、それで尾行してる他の人でどうだったか決めるんです! 基準は勿論誰が一番彼女っぽかったか!」
頭が痛くなってきそうな立花さんの提案。てっきり俺は話し合いで決めるものだとばかり考えていたから面食らってしまう。
「そこの……えっと、立花さん? 正直アタシは事情を知ってて仲も良い愛哩がするものだと思ってたんだけど、それじゃダメなの?」
「えー? だってそんなの面白くないじゃないですかー」
「面白くないってアンタね……」
「それに、初めっから決まってる勝負なんて不公平ですよ! ね!」
立花さんは音心へ宣言した直後、一瞬正面へと流し目を向け口元に笑みを浮かべる。
向けられたのは未耶ちゃん。未耶ちゃんは唇を内側に巻き込み、ふいっと視線を逸らした。
(立花さん……そんなことしたら変に思われちゃう……!)
(ふふっ、未耶ちゃんかーわいっ! 相談してもらってるんだもん、これくらいはしてあげなきゃね!)
「!」
未耶ちゃん、立花さんに相談してるんだ。目立つ存在と静かな存在、真逆のタイプだと思ってたけど、繋がりがあったんだね。
ただまあ、相談内容に関しては多分そういうことだろう。安易に口は挟めない。
ふと正面を見ると、長岡さんも俺と同じように驚いていた。
(相談したのがみゃーちゃんってことは、自分から立花さんに声掛けたんだ。成長してるなぁ)
人見知りな未耶ちゃんがって考えると、ちゃんと成長してるんだよね。本当に良いことだ。
「な、何ですか? 急にみなさん黙りこくって。あず変なこと言いました?」
「そりゃ、提案は変だろうけど……」
「えー? そう言って宮田先輩、長岡先輩とカップルしたいだけなんじゃないんですかー? みゃーちゃんとかもいるんですよー!」
「ちょ、ちょっと立花さん! だからわたしはみゃーじゃなくて未耶だって……!」
そっちかとツッコみたくなる衝動を抑え、俺は一度考えてみる。
デートをして考える、っていうのはつまり放課後にってことなのかな。立候補だとあれだから(というかそもそもそれで誰も居なかったら俺が精神的に死ぬわけだけど)、多分生徒会のメンバー? に立花さんも加えるのかな?
ともかく三人か四人で考えるとすると、三日か四日。タイムリミットの一週間には間に合う計算だ。
問題は、それをしたとしてどう差をつけるかだけど。
「私は立花さんの意見でも良いと思うよ? やっぱり問題の性質上、違和感のある偽装カップルだと解決にはならなさそうだし」
「わ、わたしも賛成です!」
「あずは提案者だし勿論賛成!」
「ま、アンタ達が良いならアタシも反対する理由はないわよ」
「まあ、みんなが良いなら……」
思ったよりもみんな乗り気だ。だったら俺に拒否する理由はない。
ただ、本当にどうやって差をつけるんだ……?
そんな俺の思考を読んだのか、長岡さんは立花さんへ一つ質問をした。
「ね、立花さん。みんなが一度デートするのは良いんだけど、肝心の採点基準はどうするの?」
「……どうしましょ?」
「うーん、すぐ思いつくのは匿名の投票とかだけど……。あ、それとも宮田くんに選んでもらう?」
「絶対角立つよねそれ」
「んふふ、そういう依頼をしてきたのは宮田くんだけどね?」
「それを言われたら何も言えないけどさ……」
「ちょっと先輩方ー? あんまり二人でイチャイチャしないでくださいよー! ね、みゃーちゃん!」
「えと、は、話を進めた方が良いと思います!」
確かにいつまで経っても話が進まないか。俺はコホンと咳払いをする。
「じゃあ、そういうことでお願いするね。選び方は……匿名の投票が良いかな」
「そうね。アタシもそれが良いと思うわ」
「わかりました! じゃあ次は四人でデートする順番決めですね!」
「……ん? 四人?」
立花さんの言葉に眉をぴくっと動かす音心。
「アタシも入るの?」
「当然ですよー! だって女子じゃないですか! ……あ、それとも女装してる男子、とかですか……?」
「アンタ今どこ見て言った。明らかに顔より下を見て言ったわよね」
「い、いえいえ! そんな失礼なことしませんよー!」
「失礼なこととは言ってないわよ」
「……さ! 早く決めましょう! 希望がないならあずが一番で二番がみゃーちゃんが良いです!」
強引に音心をスルーして立花さんは自分の希望を述べる。
……四人が順番を決めてる間、俺は暇だなぁ。スマホを取り出そうかなとも考えたけど、流石にそれは協力してもらえる手前義理が立たないとやめる。
そう言えば明日ってテストなんだよな。また長岡さん罰ゲームを賭けて挑んでくるのかな。
「勿論そのつもりだよ宮田くん。明日のテストは絶対負けないから」
「……急にこっちに話を振ってくるのもそろそろ慣れてきたな……」
「なーがーおーかーせーんーぱーいー! 宮田先輩のことは放っておいてください! それよりも順番ですよ順番!」
「ごめんね。順番なら私はそれでも良いよ」
長岡さんはすぐに戻って立花さんの希望に頷く。立花さん、未耶ちゃんの順番も指定するなんて何か意図があるのかな。
「会長はどうします?」
「アタシはどこでも良いわよ」
「なら会長は最後で長岡先輩が三番! 良いですよね!」
「まあ、大トリって柄でもないけど……」
てことは順番としては立花さんから始まって未耶ちゃん、長岡さん、最後に音心か。今日はもう時間が経ってたりテスト前ってことを考えると、明日から一人ずつやっていくのかな。
「じゃあそういうことで! 生徒会の皆さんはこの後お仕事はありますか?」
「仕事ってほどじゃないけど、連絡事項とかはあるわね。でもそんなに時間がかかるものではないわよ」
「じゃああずはどうしよっかなー。……あ、みゃーちゃん一緒に帰ろっか! 終わるまで適当に時間潰してるけど大丈夫?」
「あ、はい。じゃあちょっとだけ待っててくれる……?」
「はーい!」
終始元気だった立花さんはそう言ってピシャンとドアを閉めた。
相談がきっかけなのかはわからないけど、いつの間にあんなに仲良くなってたんだろ。考えても答えは出ないだろうけどさ。
「じゃ、文化祭までにやらなきゃいけないことを整理していくわよ。まず初めに、今年は他校と交流ある分ちょっと面倒臭そうなんだけど……」
その後は文化祭準備や当日の動きについての簡単な確認で、さっきまでの空気は一気に消え去った。
こんな忙しくなる時期に四日も俺の依頼に使わせて悪いなと思いつつ、俺はせめて文化祭では力になれるようにと真面目に音心の話を聞いた。
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