第50話 からかい上手の(ry

 それから俺達は暫く遊び、ソラちゃんの門限に間に合わせるため結構早めの時間にお開きとなった。

 俺と琴歌はどこに寄るでもなくそのまま家に帰り、夕食も終え俺は自室でスマホを意味もなく弄る。夏休みの宿題もやる気分じゃないし。


 今日は何だかんだあったけど楽しかったなぁ。遊園地なんて久々だし、それに結構操二とも話合うんだよな。琴歌もソラちゃんもいるから会話が止まるなんてこともなかったし。


「ただ結局、琴歌の問題は進展無しか……」


 人の相談に乗るのも良いけど、俺の方もどうにかしなきゃなぁ。それこそ誰かに相談するか……? つっても事情を知ってるのは長岡さんだけだし……。


 そんなことを考えていると、突然スマホがブーッと振動する。慌てて画面を確認すると、長岡さんからの着信だった。

 操二なら今日の流れでわかるけど、何で長岡さん……? てか電話は心見えないから好きじゃないんだけどなぁ……。

 しかしそんなことを言って居留守を使うのはダメだよね。生徒会とかの緊急の可能性もあるし、というか長岡さん相手ならそれすらバレそうで怖い。


「……」


 通話をタップして電話に出る。スマホの奥からは意外そうな声が聞こえてきた。


『あ、出た。居留守使うかと思ってたよ』


 一瞬考えたのは言わないでおこう。


『ふーん? 一瞬考えはしたんだ』

「え!?」

『んふふ、宮田くんわかりやすすぎ。心読まなくてもわかっちゃうよ』

「相変わらず長岡さんは怖いなぁ……」

『何それ失礼。女の子に怖いはダメだよ?』

「あ、ごめん」


 そりゃ良い気はしないか。電話の向こうの声が明るいことだけはまだ幸いかな。


「それでどうしたの? 生徒会?」

『ううん。用がなかったら電話したらダメ?』

「っ! いや、別にそんなことは……」

『ふふっ、宮田くんってば本当に面白いなぁ。からかいがいがあるよ』

「またか……。心臓に悪いからやめてほしいんだけどな……」


 くすくすと笑う長岡さん。透き通った綺麗な声だ。


「あ、そうだ。話題提供ってわけじゃないんだけどさ」

『どうしたの?』

「操二ってソラちゃんと一応付き合ってるだろ? あれってそのままで良いと思う?」

『あー、まあ世間体を考えたら良くはないかも。高槻君も大っぴらにはソラちゃんが彼女だって言えないだろうし。ただ別れるとかは二人で話し合うことだと思うよ?』


 俺と殆ど同じ見解。やっぱり結局は二人の問題なんだよね。

 もしも俺が操二ならどうするだろうか。ソラちゃんはまだ六年生で、これからいろんな人と出会っていく。当然異性との交流も増えるだろうし、それを付き合うという形で縛っても良いものなのか。まして自分は百パーセント恋愛で付き合っているとは言えないわけで。

 ここをソラちゃんに話すかどうか。多分そこが今後の選択に大きく関わってくるはず。


「場合によっては嫌われる覚悟もしなきゃ、だなぁ」

『嫌われる覚悟?』

「あ、ごめん。口に出てたか」

『何のことかは流れで察したけどね。ソラちゃんに罪悪感を与えないためには嫌われるのも手かも』

「それが正しいかはわからないけどね」

『だね。でも急にどうしたの? 高槻君に相談された?』

「今日遊園地に行ったんだよ。俺と琴歌、操二とソラちゃんで」

『絵面凄いね……』


 ドン引きの長岡さんの声とか初めて聞いた。でも俺も同じこと考えてたから言い返せないな……。長岡さんも操二とソラちゃん、それに琴歌の事情とどっちも知ってるから余計なのかも。


『あ、前に生徒会室で言ってた花火大会なんだけど』

「生徒会のみんなで行くって言ってたやつか」

『そ。あれ来週の木曜日にあるから予定空けておいてね』

「了解。花火大会なんていつぶりかな」


 中学の二年が最後だっけ。三年は既に孤立してたし、高校では今年までろくな友達どころか話し相手すらいなかったからね。


『もしかしたらみゃーちゃんに告白されちゃうかもね?』

「い、いや流石に……」

『そう? みゃーちゃんああ見えて案外むっつりだからあり得ると思うよ? んふふ、気利かせてあげよっか』

「別にわざとはぐれたりとかしなくても良いから」

『はーい。にしても楽しみだなぁ』

「うん。俺も楽しみだよ」


 嘘偽りのない本音。女子三人に対して男が俺だけというのは多少の気後れもあるけど、それでも誰かと出かけるのは楽しいから。今日だって楽しかったし。


 ……つい三ヶ月前までは腐ってたのにね。俺でも話せる相手が出来た途端にこれってのは、少しばかり現金かも。


 それもこれも長岡さんのおかげだ。次に会うのは来週の花火大会。一度しっかりお礼を言ってみようかな。


『じゃあそろそろ切るよ。遅くにごめんね』

「ううん。こちらこそ連絡ありがとう」

『はーい。みゃーちゃんにもよろしく言っておくね!』

「あっ、ちょ……!」


 言うも虚しく、声を漏らした時には既に通話は切られていた。等間隔の電子音が無情に響く。

 ……何だかんだ言って長岡さんも別に変なことは言わないと思うけど、万が一そういうことを言われてたら花火大会気まずいぞ。

 しかし俺に未耶ちゃんへ連絡する勇気はなく、スマホをベッドに投げ出しては大丈夫なことを祈るばかりだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る