第41話 目立つ二人との昼ご飯

 四時間目終了のチャイムが鳴り、先生が出ていったことを確認して机に突っ伏す。


 どうすれば未耶ちゃんに避けられなくなるのかなぁ……。


「はぁぁ……」

「どうしたの? そんな疲れた声出して」


 正面から声をかけられ、重い身体をゆっくりと起こす。目の前には長岡さんが不思議そうな顔をして俺を見ていた。


「今日の朝さ、未耶ちゃんが一人で登校してたから声掛けたんだけどね」

「あ、もしかして逃げられた?」

「そうなんだよ……。話すしかないとはわかっているんだけど、それでも落ち込むものは落ち込むというかさ……」

「ふーむ……、なるほどね」


 唇へ人差し指を添える長岡さん。いつもの考える時のくせだ。


「ね、宮田くん。お昼一緒に食べれない? 色々アドバイスとか出来ればなーって思うんだけど」

「それはありがたいんだけど……、教室で?」


 さっと見渡しただけでも少し注目されている。そろそろ俺も生徒会の一員として知れ渡ってきた頃だけど、まだ人気者の長岡さんと一人でいる俺とのアンバランス感は拭えない。


「確かに注目されちゃってるね」

「ほんじゃさ、前みたいに生徒会室で飯食べれば良くね? そんでオレも混ぜてくれると嬉しい的な!」

「あれ、高槻君?」

「居たのか」


 後ろを振り返ってみると、いつの間にかうちのクラスに来ていた操二が良い笑顔で立っていた。サッカー部関連で島本に用……ってわけではなさそうだな。


「ほら、オレ朝悟クンから大体のことは聞いたじゃん。んでソラちゃんの時は助けてもらったし、今度はオレが悟クンの力になってあげたいなーって」

(女の子の話だし、やっと恩返しのチャンスが巡ってきたってね!)


 クイ、と服の袖が引っ張られる。長岡さんからのいつもの合図だ。


(高槻君、本心からそう言ってるみたいだし受けてあげれば?)

(うん。俺も断るつもりはなかったよ)

(雰囲気は遊んでる人っぽいけど、やっぱり良い人だね)

(そりゃソラちゃんが好きになるくらいだから)


 子どもが懐く相手は本当に良い人。まあ付き合うことを懐くって表現するのはソラちゃんに失礼かもしれないけどさ。


「じゃあ操二にもお願い出来るかな」

「おけおけ。バッチリ任せてよ! ほら、早く行こうぜ」


 操二に身体を押され無理やり立たされる。それを確認した操二は一人先に生徒会室へ行ってしまった。

 ……相変わらず、読めないなぁ。俺は長岡さんと一緒に操二の後ろをついて行った。




「んで本題なんだけどね」

「とりあえず喋るか食べるかどっちかにしろって」

「……」

「食べるのかよ」


 使い古された流れ。俺達三人は生徒会室に移動し、長机に弁当を広げて昼食を摂っていた。席は依頼スタイルで、俺と長岡さんが隣、正面に操二だ。


「にしても宮田くんと高槻君、いつの間にか仲良くなってたんだね。正直二人は合うタイプだと思ってなかったよ」

「うんにゃ、長岡さん。悟クンってこう見えて実は意外とノリの良い人なんだよ。何でボッチなのかわからないくらい」

「まあ、その辺は色々あってさ」


 中学のトラウマの話はせず適当に躱す。操二だって今は関係の無い重い話なんて聞きたくもないだろう。


「で、未耶チャンだっけ? その子と仲良くなりたいと」

「前は仲も悪くなかったし、どちらかと言うと仲を戻したい、かな」

「んー……、だとしたらオレならウザがられても話して、そんでデートまではいかなくとも下校くらいはするかな?」


 下校か。デートに比べればハードルも低いし良いかも。

 ただ朝の逃げようを見る限り、受け入れてもらえるかは難しいところだろうなぁ……。


「はぁ……」

「宮田くん、溜め息をついたら幸せが逃げて行っちゃうよ? それにみゃーちゃんだって宮田くん自身のことを嫌いなわけじゃないんだしさ」

「だと良いんだけどね……」

「そだ、長岡さんなら悟クンにどんな誘われ方したらオッケーする?」


 唐突に長岡さんへ話を振る操二。急で驚いたのか長岡さんは目を丸くしていた。


 ……いやその、別に個人的に気になってるとかはないからな? ただ何て答えるかなーって、純粋に疑問を持っているだけで。よこしまな感情は抱いていないから。


「私は回りくどいことは言わずに直球で来て欲しいかな。そういうのって何となくわかっちゃうし」

(私なら余計にね)

「なるほどなー。そういう子も結構居るよね。てなわけで、これを踏まえて悟クン!」

「キラーパスも良いところだな」

「んふふ、みゃーちゃんしか誘ってくれないの?」

「またからかって……」


 いたずらっぽく笑う長岡さん。逆に本当に誘ったらどんな反応をするんだろうね。そんなこと出来る度胸はまだないけどさ。


「まあでも、やっぱり真正面から行くしかないかな」

「私もそう思うよ」

「そういうことなら悟クン、オレから秘策を伝授してあげよう」

「「秘策?」」


 思わず俺と長岡さんでハモる。操二は良いか、と何も摘んでいない箸を上に向けながら。


「誘うのは必ず二人きりの時にするんだ。間違っても断りにくい状況を作るとか言って人前とかはNGね」

「それはわかるけど、他の理由は?」

「その未耶チャンって子は多分静かなタイプでしょ? てことは周りに人が居ると視線とかで助けを求めちゃうと思うんだよね。それはつまり悟クンと目が合わなくなる」

「目が合わないと何か問題でもあるのか?」

「そりゃアレだよ、どんな人でも目見たら大体意図は通じんじゃん? まして悟クンは未耶チャンのためなんだし、真っ直ぐな気持ちが伝われば受け入れてくれるよ」


 操二はいたって真面目に言葉を並べていく。

 ともすれば美辞麗句にも聞こえるそれらだが、他でもない操二の目はそれが真実だと心を読むまでもなく伝えている。

 そしてそれを聞いて、長岡さんは顔をぱっと明るくした。


「それなら丁度良いかも。実は今日会長狙いの例の人が来ることになっているんだけど、その時未耶ちゃんを外へ連れ出しておいてくれない? その時誘ってみなよ」

「今日は音心を同席させるのか。でも大丈夫?」

「その人の件は今日にでも終わらせるつもりなの。だから会長も一緒にいてもらって、依頼に来るそもそもの理由を無くさせようって思っててね」


 依頼に来るそもそもの理由を無くさせる、か。長岡さんがどんな算段をつけているのかわからないけど、まあそっちは任せておいても大丈夫だろう。自信もあるっぽいしね。


「二人ともありがとう。上手くいくかはわからないけどやってみるよ」

「うん。頑張ってね」

「オレも応援してるからさ、また何かあったらいつでも頼ってよ! 別に女の子の問題じゃなくても、愚痴ぐらいは聞けると思うし!」

「はは、頼もしいね」


 力こぶを作るジェスチャーをする操二に、思わず笑ってしまう。本心でそれを思ってくれていることが何よりも嬉しいや。


 その気持ちを無駄にしないためにも、ちゃんと成功させなきゃね。

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