さよならを告げて、朝を迎えて。

心結

第1話 地獄の始まり

 病院で目が覚めた時、私は思った。

 ああ、この世界はなんて――


 27歳。100錠以上の向精神薬を一気に飲み、意識を失った私は、父に発見され病院に運ばれた。


 何故、過量服薬をしたのか。



 死にたかった。



 そう言うには、生への執着が強過ぎた。



 生きたかった。



 そう。だから飲んだ。

 誰かに助けて欲しくて、辛い自分をわかって欲しくて、だから飲んだ。


 自分で自分がわからないままに、他人にわかって欲しいなど、どの口が言えるのか。

 ただ、言い訳をするなら、当時の私は苦しみから逃れる方法を模索していた。

 何をしていても、目に映るもの、耳に入るもの、全てが私を苦しめる。


 ――強迫性障害。


 そんな病があることも知らなかった21歳頃、私はお風呂に3時間入っていた。

 髪を洗ったか、体を洗ったか、顔を洗ったか。

 洗った直後には本当に洗ったのか、という不安に襲われ、何度も洗って何度も確認して、やっとお風呂から上がっても、本当に全て洗ったか、ベッドに座って考え続けた。


 不安の対象は移り変わっていく。


 今では全ては思い出せないが、移り変わっていくうちに、どんどん不安が増えていき、どんどん確認行動が酷くなっていき、いつしか目に映るもの、耳に入るもの、全てが私の苦しみとなった。


 生きたかった。


 苦しかった。


 死にたくなった。


 でも足掻きたかった。


 気付けば大量に薬を飲んでいた。

 朦朧としていく意識の中、私は機械的に口に薬を運びながら、ただ、


 薬より、お水でお腹が苦しい……


 そんなことを思っていた。

 それが意識を失う前の最後の記憶。


 病院で目が覚めた時、私は思った。

 ああ、この世界はなんて――


 私に甘いのだろう、と。


 これがさらなる地獄の始まりとは、この時私も、私の家族も、誰も思いもしなかった。


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