異世界から来た美少女と素手喧嘩をするだけの物語

二点の読前情報

　真家原（まかはら）市という街がある。人口およそ一五〇万人、それなりの発展を見せる地方都市だ。

　この街に暮らす一人の女子高校生「貴堂儚子（きどうはかなこ）」は、代々貴堂家に伝わる秘匿された闘争術、「貴堂異闘流戦闘術（きどういとうりゅうせんとうじゅつ）」をその細身に修めていた。

　武術に携わる者なら……誰しもが求められる「戦闘への謙虚さ」を、しかし彼女は持ち合わせていない。

　とにかく、とにかく誰でも良いから闘いたい。出来るなら――相手を気遣わずに思う存分、闘いたい。

　少女は日々の鍛錬をこなしつつ、心奥深くで願い続けた。積み重なる技術は熱を持ち、鍛え込まれる身体は疼いて止まない。

　そして……出生から一七年と三ヶ月目を迎えたある日の事。

　貴堂儚子は「念願の闘争生活」を送り始める。

　相手は繁華街を彷徨く不良少年、列車で出くわした痴漢――では無い。

　彼女の暮らす世界、その外である「異世界」からやって来た少女である。

　当然ながら、何故に貴堂儚子を目掛けて異世界出身の少女がやって来るのか、それにはキチンと理由が存在する。しかし、闘争の前に面倒な理由はどうでもよろしい。

　問題は如何に少女達が戦うか――それのみだ。

　これより始まる物語に、劇的な成長も、ハンカチを涙で濡らす話も無い。

　唯々、苛烈な暴力を激烈な暴力で捻じ伏せる、少女の記録に過ぎない。

　さぁ、御託はもう止めにしよう。

　読者諸兄に憶えて欲しいのは二つだけだ。

　燃え滾る闘争欲に駆られた少女がいる事。

　灼熱の欲求に惹かれ、同じく闘争欲に突き動かされてやって来る、異世界の少女達がいる事。

　これらの情報を頭の片隅に置いて頂いたなら、貴方の準備はすっかり整っている。

　お待たせした。

　それでは出発しよう、蠱惑的闘争の世界へ――。