カミ様のライト
六連 みどり
第一話 小さな光
––––プツリッ
ボクの世界から音が消えた。
まるでボクの鼓膜が切れてしまったかのように突然に。
ボクの世界から色が消えた。
まるで失明してしまったかのように真っ暗に。
一人きりでそこに立っている。音も色も失った真っ暗な空間に一人きり。隣にいたはずの相棒も見当たらない。
––––ここは、いったい。
ハッとなって喉をおさえる。
ボクの声ですら音にはなっていなかった。どうしてこうなったのか、十二年間という短い人生で経験したなかから必死に考える。
魔法の類か薬でも飲まされたのか……あるいは夢の中か。
もし、薬を飲まされたのなら、周りが木々ばかりでボクと相棒以外の人影ひとつなかったというのにどうやって薬を盛るのだろうか。
もし、夢の中だったならボクはどこからどこまで起きていて、いつから寝ていたのだろうか。
––––魔法……なのかな
けれど、空間ごといじったかのようなこんな魔法などボクは知らない。魔法に詳しいわけではないけれど、一般的には聞いたことがなかった。
––––もしかしたら、禁術とか……?
だとしたらボクが知らないのも納得だ。
魔法であろうとなんであろうと、とりあえずこの状態をどうにかして打開したい。そう思ってキョロキョロと辺りを見回すと少し先に一筋の小さな光が差し込んでいるのがみえた。
––––あれは……?
近づいて、恐る恐る足元に手を触れる。壁のようなものに指先が触れ、何もない空間ではなかったのだとホッと胸をなでおろす。
そのまま光の先をみた。針で開けた程度の小さな穴が空いていた。穴の先に何があるのか一応覗こうとしてみるけれど、数ミリ程度の穴じゃよくみえない。
––––もう少し、穴を広げてみればわかるかも
ボクはその穴に向かって自身の腰についていた短剣を突き刺した。
***
何度も何度も短剣を突き刺して、ついに刃が折れてしまった。その代わり、覗けるくらいの大きさまで穴は広がっていた。
––––今まで、ありがとう
旅のはじまりからずっと一緒に戦ってきた愛剣を撫でるように指を滑らせ、感謝の言葉をかけた。
ポケットからスカーフを取り出し、折れた刃と一緒に短剣を包むと大きく空いた穴を覗き込んだ。
どこかの部屋の中だろうか。上質な真っ白いシーツと紺色のふわふわとした暖かそう布団。床はピカピカと光沢がある木材に柔らかそうな布が敷かれている。裕福な人が住むようなそこに、寝具に背を預けるようにして座り込む青年がいた。
ここからだと表情は見えないが、男性にしてはだらしなく肩まで黒い髪が伸びている。その印象は、陰気そうな人だった。
彼からは魔力のようなものは感じない。耳もとんがっているわけではないので、エルフなどの妖精の類ではないだろう。
––––…………人間?
《……––––っ! だ、誰だ!?》
彼は突然顔をあげると立ち上がり、辺りを見渡す。やっと見えたと思った表情は、長い前髪で隠れていて見えなかった。
––––あんなに伸ばして、前が見えているのかな?
《う、うるさい! 関係ないだろ。さっきから誰なんだ。どこに隠れている》
シーツを取り布団の中を覗いたり、ガサガサとボクを探すような音が聞こえる。
––––ボクは、上にいるよ。小さな穴から君を見てる。
《上……天井か?》
彼はどこからかイスを持ってくるとそれを台の代わりにして天井の穴を探し始めたようだった。途中、彼と目があったが気づかなかったのかそのまま彼は目線を外してしまった。
《穴なんてないじゃないか》
––––さっき、目が合ったんだけどなぁ
《お前、本当はどこにいるんだ。警察には突き出さないでおいてやるから、出てこいよ》
––––ケイサツ? ボクは、真っ暗なとこにいるよ。暗くて冷たい場所。ここから出られないみたいなんだ。
《……暗いところ? タンスの中か?》
視界から彼の姿が消えるとキィ……と何かを開く音が聞こえた。どうやらタンスを開けたみたいだ。
––––だから、ボクは君を見下ろしてるんだって
《……なるほど》
––––あ、わかってくれた!? そしたらここから出られるよう手伝って欲しいんだけど
しかし、彼はボクの言葉を無視して布団の中へと潜り込む。
《慣れない面接ばかりして疲れてるんだな……幻聴が聞こえるなんて》
そう呟いて、静かな寝息をたてながら彼は眠りについた。
––––え!? ちょっと待ってよ……おきてー!!
ボクの叫びは届かず、彼は深い眠りへと落ちていった。
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