第41話


 追い詰められた小鬼族の一匹が、背後から斬りかかってきた。

 武人らに囲まれ逃れてきた小鬼族一匹、退路にいたアオイに斬りかかった。


 後ろ目で見、片足廻してかわした。つんのめった敵背後に回り込み、太刀一閃。小鬼は地に沈んだ。息絶えてはいないが背骨を断ち切られ、もう立てない。血の泡を吹いている。


 アオイの回転は止まっていない。さらに一匹の懐に飛び込み、血刀胸板に叩き込んだ。側方に抜け出、リバース、逆回転、さらに一匹を斬り捨てる。


 円を描く足さばき、加えて間合いに入りざま複雑なステップを刻む。フェイント。迸る水のように速い動きを目で追っていた敵は、思わずそこに虚像を見る。虚像に釣られた瞬間、容易く刃の餌食となる。しかもこの相手は本当に消える。消えれば何処に現れるか分からない。虚像残像入り混じる。捉えられない。次々と討たれる。


 武人らが目を丸くして見ていた。


 初戦、萌芽として芽生えた彼の剣術は、一夜にして、回転殺法とでも呼ぶべきモノへ成っていた。重い斬馬刀は足枷だった。くびきを解かれた今、軽やかに飛翔した。さらに。


 呪文効果で無敵感に包まれている。敵の動き、太刀筋、全てミリ単位で捉えることが出来る。容易く躱せ、自在に動けた。飛燕の如く。


 一瞬、アオイは剣を止め、跳躍呪も止めて、自分が背後に築いた屍の山をふり返った。いや、屍ではない。こときれずのたうち回っている者、痙攣し断末魔の苦しみの中にある者……。漂う強烈な血と臓腑の臭い……。自身が作り上げたその光景にやはり眉曇らせたが。唇かたく結ぶ。剣を握りしめ。再び敵懐へと飛び込む。


 回転する視界の中、一瞬で見て取る。周囲の敵。位置、動き。見て取れなければ、宙に跳び、見る。地に降りた時には脳内にイメージがある。人形遊びの成果。イメージの通り剣を足を運ぶ。鈍重な斧の雨かい潜り、血刀浴びせていく。


 気づけば小鬼どもの姿はまばら。方々で武人らに、討たれ、トドメを刺されている。アオイは剣を止めた。彼が撃つべき小鬼族はもう側にいない。離れた場所にまだ少し残っているが、追い詰めれ取り囲まれている。手は貸さなくとも大丈夫そうだ。


 アオイは懐から紙を出し、刃についた血を拭った。ラナイのかけてくれた呪文のおかげか、サラリとした感触だった。


 その時には、門の前は武人らで埋まっていた。皆、殺気立っている。命を賭した戦いがこれから始まる。本当に危険なのはこれから。即ち。


 人垣の向こうに一騎の騎兵駆けつけた。オニマルサザキベ。凛々しい若武者の声が戦場に響く。


「開門っ! 門を開けえ! 迎え撃つ」

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