レター
あね
レター
こんな僕にも、友達と呼べる人がいた。
1人だけだけど。君に届くと嬉しい。
僕の人生は君に出会うまで、本当につまらないものだった。つまらない、と言うか酷い人生だった。
長い人生の、半分も生きていない僕が言うことではないが、酷い人生だった。
クラスメイトと両親の暴力は当たり前だった。毎日が過酷だった。出来のいい弟は僕をクソだと罵った。先生にイジメを相談すれば思い違いだと諭された。そうじゃないと分かっていても、そうかのかも知れない、と思うようにした。
後日のホームルームで、先生は僕がイジメられてると相談した事をみんなに話した。
先生は、そんなことないよな?とみんなに聞いた。
みんなは笑顔で、そんなことないよ、と言った。
その後、僕は大勢の男子からトイレで制裁を受けた。
クラスメイトか親か、誰につけられたか分からない身体中の痣を見ても、教師も助けてはくれなかった。世の中は本当に腐っている事を、確信した。
君と初めて話した日を覚えているだろうか。
学校から帰っても居場所がない僕は1人、市営の図書館に通っていた。そこに君はいた。
君は僕の斜向かいの席で、紙飛行機を折っていた。
隣のクラスの生徒だとわかっていたので、僕は本で顔を隠して息を潜めていた。
君は突然僕に声をかけ、『すごい速さで飛ぶ紙飛行機』を自慢した。
僕は同級生と普通に話す事が久しぶりだったので、緊張で声が震えていた。君はそんな僕を笑ったが、嫌味のある笑いではなかった。
翌日も、翌々日も君はいた。君は僕にいろんなバリエーションの紙飛行機を自慢した。
僕は作り方を習って、たくさんの紙飛行機を作った。お喋りの声で図書館の人に怒られた。僕はそんなに喋れるようになっていたのか、とびっくりした。何か変われるような気がした。
嬉しかった。ありがとう。ありがとう。
けど、君もイジメの標的になってしまった。
僕と仲良くしたから。
学校で、僕と同じように暴力を受けていた。
僕が殴られていない時間は君が。
君が殴られていない時間は僕が。
殴られた。
僕は悔しくて、惨めで、たくさん泣いた。
僕と仲良くしていなければ。君は標的になる事はなかった。
純粋で、いつも楽しそうにしていた君の顔から、笑顔と入れ替わりで大きな痣ができていた。
そのうち、君は図書館に来なくなった。
しばらくして、君は自ら命を絶った。
僕は全てが壊れるような音を聞いた気がする。
君との思い出を綴る事以外、書く事はない。
これ以上生きる気力もない。
救いのない世界を壊すような事も、僕はしない。
また君と、紙飛行機を折りたい。
…ここまで書いた紙を、僕は、折る。
君から教わった、『どこまでも飛ぶ紙飛行機3号』。
君と僕で改良を重ねた、2人の自信作。
きっとこれなら、君の元へ届くだろう。
足元で首から血を流して倒れている家族。
助けてほしかった。
けど、もういい。
僕は父の部屋から持ち出したジッポオイルを毛布に振り撒いて、火をつけたジッポを投げる。床に広げた毛布に炎が上がる。
窓を開け、君と練習した投げ方で紙飛行機を飛ばした。斜め上の良い角度で、紙飛行機は飛んでいく。
君の元まで、届いてくれ。
僕は家族の元へ戻り、包丁を持って座り込む。
火災報知器を壊したのは正解だったかも知れない。
今は静かに、思いを巡らせたい。
ありがとう、また紙飛行機を作ろう。
レター
レター あね @Anezaki_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます