第38話 今まで生きてて本当に良かった!もういつ死んでもいい!

 会場には小さな円卓と椅子がいくつも設置されており、料理を皿に取った後は好きな席に着いて食事を楽しめるようになっている。


陸人達も空いているテーブルを見つけてそこで食事を取っていた。


「このローストビーフヤバいよ!舌も歯もいらないくらい柔らかい!」


「うむ、最高だ!いくらでも食べられるぞ!口の中でアイスのようにとろけてゆく!今まで生きてて本当に良かった!もういつ死んでもいい!」


陸人とオーガストは感動の雄叫びを上げながら、ひたすら肉料理にがっついていた。


「ったく…。肉くらいでいちいち大袈裟なやつらだな」


シメオンは焼き鳥を片手に冷ややかな視線で二人を見つめている。


「あなたは食べるよりも、飲む派だものね」


そう言って、エレミアが得体の知れない液体の入ったグラスを彼に差し出す。


「なんだその黒いドリンクは?」


「めんつゆよ」


「だから飲まねーよ!!」


ちょうどその時、二人組みの男女が陸人達のテーブルにやってきた。


一人は大柄で筋骨隆々の青年、もう一人は胸元の開いたドレスを纏ったナイスバディの美女。妖精にも色々とタイプがあるらしい。


「よう、祭りは楽しんでるか?」


青年が気さくに声を掛けてきた。


「あんたらのことはロティーから聞いてるぜ。なんだかワケありなパーティーみたいだな」


「なんだ、貴様は?」


シメオンが忌々し気に眉を寄せる。


「そんな怖い顔しなくても、取って食ったりしねーよ」


男はヘラヘラ笑ってシメオンの肩を叩き、勝手に自己紹介を始めた。


「俺ぁロック。ロティーの兄貴だ。で、こっちが従妹のアレーナ」


「よろしくね。人間様は大歓迎だよ」


女は胸を突き出すようにテーブルに身を乗り出し、オーガストやシメオンに秋波を送った。


「おお…」


言うまでもなく、オーガストは彼女の豊満な胸に釘付けになっていた。


「ねぇ、あたし達もここで一緒に食べていい?」


アレーナが甘えるようにオーガストの腕に両手を絡める。


「ももも…勿論いいとも!」


「おい、ここはもう満員だぞ!」


「君がもう少し詰めれば座れるだろう」


オーガストは無理やりシメオンに席を詰めさせ、二人分の席を作った。


「あたし、皆の飲み物取ってくるよ」


アレーナはロックを残していったんテーブルを離れていった。


「じゃあ俺達は楽しくお喋りでもしようか」


ロックが慣れ慣れしくシメオンの肩に手を回す。


「おお…。お前、中々良い筋肉してんじゃねぇか」


「気安く触るな。この変態野郎」


「はは…照れなくてもいいんだぜ。本当は嬉しいくせに」


「ちっとも嬉しくねーよ!」


シメオンはロックの手を払いのけ、陸人に視線を送って席を代われと命令した。


「ほら、早くしろっ」


「面倒くさいなぁ、もう…」


陸人は渋々立ち上がり、彼と席を代わってやった。


「おまたせ~!」


ちょうどアレーナが盆に飲み物を乗せて戻ってきた。


「おお…」


彼女の胸が揺れる度、オーガストは興奮の吐息を溢していた。


「数量限定で提供されてるスペシャルカクテルだよ。あ、坊やにはこっちね」


未成年である陸人にはオレンジジュースが手渡された。


「え~。僕もそっちのカクテルが良かったなぁ」


陸人はオレンジジュースがあまり好きではないのである(※第一話参照)。


「ははは!お前にカクテルはまだ早いだろう」


オーガストは笑いながらカクテルを一気飲みした。


「あんたいい飲みっぷりだね。気に入ったよ」


「いやぁ、それほどでも…あるかな?ははは!」


オーガストはアレーナにおだてられてすっかり舞い上がっているようだが、シメオンはさっきからずっと神妙な顔つきでパーティー会場を見回していた。


「おい…」


シメオンは声をひそめ、両隣りにいる陸人とエレミアに囁いた。


「今ならモヒカン野郎に近付けるんじゃないか?あのロティーってガキもいねーし」


「え…でも――――」


「これはまたとないチャンスだ。ちょっと行ってくる」


そう言って意気盛んに人ごみの中へと進んでいったシメオンであったが、五分と経たずに席に戻ってきた。勿論手ぶらだ。


「くそ…!見つからねぇ…!」


「モヒカン長官、石持ってなかったの?」


「違う、肝心のモヒカン野郎がどこにもいねーんだよ。奴だけじゃなく、手下もだ」


「上手く人ごみに紛れてるんじゃない?」


「あの馬鹿みたいに目立つ頭で隠れられるはずがないだろ」


「髪型を変えて出席しているかもしれないわよ。髪型で探すよりも、花の首飾りをつけているかどうかを見た方がいいと思うわ」


「確かにそうだね。今度は三人で探しに行ってみる?」


「そうだな。行ってみよう」



しかし三人掛かりでいくら探せども、ワイト長官らしき人物は見つからなかった。


「もしかしたらもう部屋に戻っちゃったのかもしれないね」


「チッ…」



 円卓に戻るとロックの姿はなく、オーガストとアレーナが二人だけでイチャイチャしていた。


シメオンはあからさまに不快そうな表情を浮かべ、席に着かずに踵を返した。


「シメオン、どこ行くの?」


「寝る!これ以上エロ河童のやに下がった面なんて見たくないからな」


「確かにそうだね。じゃあ僕ももう部屋に戻ろうかな…」


「私も一緒に行くわ」


陸人達はオーガストを残して会場を出た。










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