第9話 おやおや…ワシと一緒に寝たいのかぇ?

 陸人の作戦は見事成功した。鬱蒼と生い茂る木々と暗闇のおかげもあってか、白銀の氷輪団の連中から無事に逃げおおすことができたのだ。


さらに幸運なことに、灯りのともった屋敷まで発見した。


外壁は蔦だらけで、かなり年季の入った屋敷のようであるが、人も住んでいるようだし、一晩くらいなら泊めてくれるかもしれない。


陸人は軽やかな足取りで屋敷の正面玄関へと向かった。


ところがドアノッカーを鳴らして呼びかけてみるも、中からは誰も出て来てくれない。


「ごめんくださーい!」


陸人は扉をドンドン叩きながら、何度も大声で呼びかけた。


が、相変わらず反応はない。


「おかしいな…。灯りはついてるのに」


試しにドアノブを回してみると、驚いたことになんの抵抗もなく開いた。


陸人はドアからそっと顔を覗かせ、一応一言「お邪魔します」と断りをいれてから中へと足を踏み入れた。


広々とした玄関ホール。中央には幅の広い階段が設置されている。


近付いてよく見てみると、段板はかなり腐食が進んでいるようで、ちょっと足を乗せただけでキイキイと危うげな音を発した。


「じいちゃんの家みたいだな」


身の安全のためにも、二階へは上がらない方がよさそうだ。


というわけで、ひとまず一階を見て回ることにした。


玄関ホールには左右両側にそれぞれ廊下が続いている。


手始めに右側の廊下へ進んでみることにした。


灯りのともっていない廊下は薄暗く、足下がよく見えない。


ひたすら前進していくと、大きな扉へと突き当たった。


が、その手前で、陸人は何かに足を引っ掛けて顔面から見事に転んだ。


どうやら木箱のようなものに躓いたようだ。


ぶつかった拍子に木箱が倒れ、中に入っていた棒のようなものがドンガラガラガラーンとド派手な音を立てて床に散らばった。


「やばっ…」


陸人は慌てて散らばった棒をかき集め始めた。


「あれ?」


ふと妙な違和感を感じ、棒に顔を近づけてじっと目を凝らしてみる。


よく見ると、それは骨の一部であった。


そう、木箱の中に入っていたのは棒ではなく、骨の残骸だったのだ。


「うわぁっ!」


陸人はすぐさま後方へ退き、できるだけその周辺から遠ざかった。


「何なんだよ、この大量の人骨は?なんでこんなところに置いてあるんだ?」


なんとなく嫌な予感を感じたが、疲労と眠気には敵わなかった。


「大丈夫、大丈夫。これは人骨なんじゃない。たぶん、千歳飴かきりたんぽだ。うん、そうに違いない」


何度も自分に言い聞かせ、思い切って目の前の部屋に足を踏み入れる。


壁に取り付けられた蝋燭の火が、部屋の中をぼんやりと照らしていた。


どうやらここは寝室らしく、中央に大きなベッドが一台設置されている。


ベッド以外には特にこれと言って目立った家具や装飾はない。


強いて言うなら窓にかかっているショッキングピンクのぶ厚いカーテンくらいか。


「ベッドもあるし、一休みするにはちょうどよさそうだ」


陸人は「ひゃっほう!」と叫びながらベッドに思いきりダイブした。


が、マットレスに着地した瞬間――


「うげぇっ」


魔物のような低い呻き声が布団越しに聞こえた。


陸人はぎょっとして身を起こし、ベッドからドアまで一気に後ずさった。


布団の下から、得体の知れない生物がモゾモゾと這い出てくる。


大きく裂けた口、黄ばんだ鋭い歯、引きずるほどの長い白髪、シワだらけの枯れた土気色の肌。生気のない巨大な眼が、ギロリと陸人に焦点を当てる。


「おやおや…。ワシと一緒に寝たいのかぇ?」


「けっ…!結構ですぅぅ!!!」


陸人は部屋を出て全速力で駆け出した。

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