許可
ドンドンドン
なにやら音が聞こえる。
ドンドンドン
激しく扉を叩く音のようだ。
「お嬢さん、ラグナ君、起きてくれ。緊急事態なんだ!」
何度も叩かれる音でようやく眠りの呪縛から抜け出した。うつ伏した体を両手で持ち上げると、隣のベッドで寝ていたアムも体を起こしていた。
「なんだろうな」
あくびをしながらそう言ってベッドを降りた俺たちは寝室を出る。
「なにがあったっていうんだ?」
「夜分にすまん、入るぞ」
勢いよくドアを開けて入ってきたハーバンは血相欠いて俺の肩を掴んだ。
「お、おう」
「ハーバン殿、どうしたのですか?」
俺の肩を掴んだまま首を斜めに倒して後ろのアムを見たハーバンは、唇を震わせ息を飲んでから大きな声で叫んだ。
「さっき、王都からフォーレス侵攻の許可が出ちまった」
「え!」
「なんだって?!」
「侵攻開始は明後日の日が昇る前、国や街、村などそれぞれの騎士団、闘士団、自警団、それに亜人たちも各自のタイミングでフォーレス西部の静寂の森に向かい待機。移動は日が沈んでいるあいだで、明日の深夜までにフォーレス国領土の静寂の森に身をひそめて、合図と共にフォーレス城に突入する手はずだ」
「ばかな、奇襲するというのか?!」
宣戦布告もせずに他国を襲うというのは卑劣極まりない。そう多くない国々の闘争の歴史でも奇襲をおこなったのは二度だけだと歴史の授業で学んだ。奇襲によって戦争に勝った国のその後は、隣国からの経済制裁に等しい状況になり、国力は衰退して王制が維持できなくなり、民衆も去ってしまったと学校で習った。
「そんなことをしたらその後この国が……」
「その心配はない」
ハーバンは俺の言葉をさえぎり断定した。
「ブンドーラ周辺はほぼ協力関係にあるんだぞ。その後の経済制裁を受けるようなことはない。とは言え王の許可が下りてしまったとなってはこの戦争を止める手立てはもうない。勝ちさえすれば今後の心配は必要ないのだから俺たちも腹をくくって闘いに挑むしかない」
確かに始まってしまってはもう部外者の俺たちにできることはない。俺とアムはこの戦争に参加する意思はないのだが、だからと言ってアムはフォーレスで暗躍する聖闘女を放っておくわけなどないはずだ。
「というわけで、俺たちもこれから奇襲のための待機地点に向かわなければならない。対聖闘女との決戦に君らの力を借りたかったが、それは叶わないのは承知している。だが、できるならこの闘いが終わるまでブンドーラに残って、万が一のフォーレスの強襲に備える防衛隊に手を貸してもらえないだろうか?」
「それなら協力してもいいよな?」
と後ろを振り向くと、腕組みして考え込んでいるアムが俺たちを見た。
「ハーバン殿、王はフォーレス侵攻の許可を出しんでしたな?」
「そうだ。もうブライザ率いる先行部隊は静寂の森に向っている」
「その言葉通りならまだ止められるかもしれない」
「おい、そりゃ本当か?!」
「侵攻の許可が出ただけならそれは命令ではない。指揮を執っているブライザが中止の命令を下せばいいんだ」
アムは薄暗がりの部屋で力強い視線を向けて言った。
「それができれば苦労はないぜ」
期待に胸を膨らませていたハーバンは、膨らんだ胸をしぼませて、その期待を吐き出した。
「わたしたちがブライザを止める」
「たち?」
当然俺のことなんだろう。
「大丈夫だ、わたしたちがブライザに話しを付ける」
「だからどうやって?」
リリサ組と対立してフォーレス侵攻を訴えてきたブライザ組の念願がついに叶ったのだから止められるはずもないだろう。言動から自信満々とも取れるアムの策とはいったいどんなモノなのか。
俺たちが見守る中でアムが口にした作戦は「ブライザに勝負を挑む」 というとんでもない策だった。
「なにバカなこと言ってんだ!」
バカげた策を聞いた俺はすっかり眠気が覚め、アムに突っ込んだ。
「お嬢さんが強いのはわかるがブライザだって相当なもんだぜ。勝つにしたってお嬢さんもただでは済まないだろうし、軍が止まる保証もない。下手すりゃ……いや、間違いなく殺気立った仲間たちに袋叩きどころかぶっ殺されちまう」
ハーバンの言う通りだ。そのぶっ殺されるであろう中に俺も入っているのは明白だ。
「そんな無駄に命懸けで止めるくらいなら、軍に加わって戦争に参加した方がましじゃないのか?」
本末転倒なことを言ってしまう俺と、やれやれと首を振るハーバンに対してアムは冷静に返す。
「なにも力尽くってわけじゃない。相手が乗っても損がないような条件を付けてやるんだ」
「条件?」
ハーバンと一緒に首をかしげる俺の肩を叩いてアムはハーバンに言う。
「ハーバンどの馬車の用意をお願いします。森の中に入られたら見つけるのは困難です。その前に追いつかないと」
「わかった」
ハーバンは馬車を用意するべく足早に部屋を出ていった。
「グラチェも乗れる大きな馬車でお願いします!」
「まかせとけー!」
大声で応えながら階段を駆け下りていった。
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