繋がりの部屋 1

 揺れるカーテンの隙間からときおり光が差し込む部屋に俺はいた。その対面には、白い巫女装束を着た銀髪の少女が背を向けて立っている。彼女は裾をひらひらとなびかせて振り向いた。


「また会えたな」


「また会えたってどういう意味だよアム」


 口元を優しくほころばせた笑顔ながらも、アムの瞳は強い意志を感じさせる。


「そうさ、わたしはアムサリア。ラグナの心と共にいたアムサリアだ」


「なんだよそれ。説明くさいな」


 妙な言い回しはまだ続く。


「奇跡の鎧ラディアは生まれ変わってラグナとなり、死んだはずのわたしの心は、君と共に十八年以上一緒にいたんだ」


「そうだけど、それがどうしたっていうんだ?」


 俺はアムがなにを言いたいのかわからずに首を傾げた。


「ここは『繋がりの部屋』という名前にしよう。わたしのイメージを具現化した場所だ」


「イメージ? どういうことか意味がわからないぞ」


「以前はなにもない殺風景な場所だったから、わたしたちふたりに共通する場所にしてみたんだ。覚えがあるだろ?」


 よく見ると、壁の柄や装飾家具など、遠い昔にこことよく似た部屋を見たことがある気がする。


「ラグナ」


「ん?」


 部屋を見回している俺の名を呼び視線を合わせたアムは、俺を数秒見つめてから視線を斜め上に外して言った。


「生まれ変わったキミと再会してひと月ほど経つのだが、以前にもここ・・で会ったことを覚えているかい? そのとき、なぜわたしたちがここ・・で会うのかについて話したんだ」


 そう言われてだんだんと以前ここ・・でアムと話したことや内容が思い出されてきた。


「そういやそうだった。たしか、目が覚めたときにこのことを覚えていないのはなぜかって話をしたな」


 俺たちは今、眠っているらしい。そのことも含め、じわじわと蘇ってくる記憶の中に重要な要素があった。


「そうだ。アム、おまえは!」


「思い出したかい? そうだよ。さっきも言った通り、わたしは十八年と数ヶ月キミと共にあった半心。聖闘女だったほうのアムサリアだ」


 願いを叶える神具である蒼天至光によって、アムの英雄願望は無理やり叶えられた。それは、アムの心と魂をふたつに分け、一方を宿敵であった破壊魔獣エイザーグとしたのだ。


 その宿命の戦いは相討ちに終わり、聖闘女だったアムの心は俺と共に十八年一緒にあった。


 エイザーグの復活によってアムの心が目覚め、なんやかんやあって失っていた半心半魂を取り戻す。闘いの果てにアムの心と魂は元通りひとつになり、現世に復活したはずなのだが……。


「聖闘女だったわたしとエイザーグだったわたしは元通りひとつになっているはずだ。なのにここ・・では、聖闘女だったわたしだけになってしまう。その理由は謎のままだ」


 ここ・・で何度かアムと会っていろいろなことを話しているが、どうしてこんなことになっているのかなど、現状ではなにも解決していない。


「ということで、今回の議題だが」


「議題?」


 頭を捻っている俺にアムはそう告げた。


「そうさ、なんだかんだと毎回いろいろ話しているだろ。今回もひとつの議題を挙げて話そうじゃないか」


「で、今回の議題ってのは決まっているのか?」


 アムは「ふふふっ」と笑みを浮かべた。


「今回はな、この謎の状況が少し進展しそうな出来事についてだ」


「ほんとか?!」


「いい反応だ」


 期待通りの俺の反応を見て浮かべたドヤ顔から察するに、よほど確信を得た出来事なのだろう。アムはひとつ咳払いを入れてから話し始めた。


「このひと月ほどラグナと一緒に過ごしていたあいだに、キミと離れていたときが何度かあったろ?」


「イーステンドを旅立つ前にハリゥ先生とアムがふたりで街に出かけたとき。ウォーラルンドに向かっている途中に立ち寄った隠れ里での闘い。それと、魔女が生まれた研究施設でウラの姉であるノアの遺品を探していたときだな」


 俺の答えに「うんうん」とアムはうなずいた。


「これはキミに言っていなかったことなのだが……」


 言葉を切って視線を下に外し、チラリと俺を見る。


「キミと離れているときになにかモヤモヤするんだ」


「え?」


「なにか心が不安定というか、物足りなくなるというか、かなり極端に言うと恐怖を感じているような。ともかく、なんとも言いえない感覚が心の奥底にあるんだ」


 予想もしないアムの告白(?)に俺はどう反応したらいいものかわからず固まった。


「隠れ里でひとりになったときにそれを顕著に感じた。そして、ウォーラルンドでその影響であろうと思う出来事が起こったんだ」


「俺と離れると……」


 ゴクリ


 俺は生唾を飲み込んで、そのことによる影響がなんなのかという答えを待った。

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