核心

 こんな奇跡の物語をホイホイ信じる奴もいないだろう。だが、これを信じて貰えないと最悪の場合は血を見ることになる。それは俺もアムも望まない。


 俺は頭を捻り説得、いや納得してもらう言葉を探す。


「ウォーラルンドで起こった出来事だって同じように信じられない話だと思うぜ。信じる気がないのなら聞いたところで情報に価値を見出すことはできないだろうさ」


 隣同士でぼそぼそと話す面々にもうひと言付け足してみた。


「あんたらはアムが法具を使わずに法術を使うところを見ただろ。あれは復活したアムの体が肉体と高密度の陰力が結び付いているためだ。つまり、体が法具と同じ作用を持っている。そんな奇跡を目の当たりにしたのに夢物語を信じられないなんて小せえこと言うなよな」


 このうんちくは、クレイバーおじさんの受け売りだ。俺がそんな説明をしているさなか、ハーバンたちはアムのことをじっと見ている。


「なっ、そんなに凝視するんじゃない」


 アムは腕で体を隠した。


 しばしアムを見ていた者たちは再度ぼそぼそと話し出す。ハーバンは一度首を捻ると少し唸ってから自分の後ろに座るリリサさんに耳打ちして話し合っていた。


 その間も当然部下たちは武器を構えたまま俺たちから視線を外すことなく警戒をおこたらない。


 最悪の展開を予期して心の準備だけは万端にしていると、ハーバンは奥さんに手を握られてから溜息をひとつ吐いて立ちあがった。


「これから俺たちも秘密を話す。もし、君らが俺たちを騙していたならば凄惨な結果になるだろう」


 ティーカップを掴んだハーバンの手は激しく震え、ソーサーとカチャカチャ音をさせている。ひと口飲んで再びカチャカチャ音をさせながらテーブルに置いた。


「はっきり言う……。俺たちはフォーレスと戦争をしようとしている」


「戦争? この国はフォーレスの傘下に入ってるんだろ? そんな国を裏切る反乱をしたら……」


「うむ、自国からも裏切り者として狙われることになる。例えこの城下町の多くが仲間だとしても、とても戦いになんてなるとは思えないな」


 眉をしかめるアムの表情は驚きではなく心配だ。それもとうぜんだろう。勝ち目などあるはずがない。


「さっき言っただろ? 我々は義賊だ。このブンドーラが支配する小国や町や村などと結託をしている。聖都直属のフォーレスの傘下であるブンドーラは、フォーレスの名のもとに重税や厳しい支配をしている。その割に外的や災害などに対しての対処や支援はおこなってはいない。それをおこなっているのは我々城下街の組織。支配に対しての不満や怒りは溜まりに溜まって爆発寸前だ。戦いとなればこの領土の者たちがすべて立ち上がる。そういう繋がりを作ってきた」


 なんと、厳しい支配を逆手にとって、ブンドーラの支配する領土の者たちを反乱軍として仲間にしていたというのだ。


「そんなことを二百年もか?」


「そうだ」


「二百年ものあいだ、ブンドーラ王にバレることなくそんなことが可能なのか? ひとりの裏切り者も出ないなんてこと……」


 それは俺も信じられない。例え裏切らないまでも、そこまで情報統制が二百年ものあいだ完璧におこなえるとは思えなかった。


「それには理由がある」


「ホントかよ!」


「なぜなら、この領土を支配し悪政をおこなっているブンドーラ王国こそが反乱軍だからだ」


「は?」


 その回答に俺は頭が混乱してしまった。


「だからブンドーラに領民の敵意が漏れたとしてもなんの問題もない。それによって裁かれる者もいないんだ」


 確かにこの国が反乱軍であるのなら、反乱軍に加担する領土の者たちの敵意や情報が漏れようとも問題ない。だが、それにどんな意味があるのか?


「ブンドーラの悪政はフォーレスの意思。だが、実際におこなっているのはこの国だ。強い敵意はフォーレスには向かずにブンドーラに向く。だから時がくればその怒りをフォーレスや聖都に向けさせる。人間だけじゃない。獣人の集落や森の妖精といった亜人たちとの繋がりもある。すべての準備が完了したとき、我々反乱軍はブンドーラ王国と力を合わせてフォーレスと闘うことになるんだ」


 滅茶苦茶だと思った。なにがそこまでさせるのか? フォーレスを倒すためにこんなことを二百年。


「戦争を肯定することはできないが、他国のことだ。わたしたちがどうこう言うことではない。だが、聖都がヌストを潰したのは二百年も前。それも侵略しようとしていたのはヌストのほうだろ? そんな長きにわたって聖都を恨み、滅ぼそうなどと思うのは間違っていると思うぞ」


「最終目的は聖都ではあるが、現状で我々の目的はフォーレス王国自体を倒すことじゃない」


「どういうことだ?」


「倒すべきは、今現在もフォーレスに君臨している聖闘女なんだ」

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