撃破
妖魔王に翻弄される俺、ヘルト、アム、グラチェ。そこに偉大なる聖霊仙人のはずのハム=ボンレット=ヤーンが参戦する。
「ぼくにまかせるお!」
ハムも本来の力とは程遠い状態であろう上に、ノラという親愛なる者を失った真新しい心の傷があるはずだ。そのハムが勇んで叫び手を上げると、光が灯って5匹の精霊幻獣が現れる。だが、かなり小さい。
「さぁ、あいつをやっつけるにゃ!」
様々な姿をした精霊幻獣たちは飛んだり跳ねたり走ったりしながら妖魔王に飛び掛かっていく。
あんな小さくて弱々しくてはすぐにやられると思ったが、予想に反して上手く注意を引いていた。
なんやかんやと応援するように精霊幻獣に指示を飛ばすハムに気付た妖魔王は大きく息を吸い込んだ。
「グラデ・ロッグ・ウァール」
俺の心力を込めた強固な岩壁が伸び上がる。
妖魔王から吐き出されたのはグラチェが使うものと同じ圧縮空気弾。巨大な空気の砲弾が衝突し、弾けたが土壁はその威力に耐えハムを護った。
「ありがとにゃ」
だが、40センチの厚みで高さ2メートルの土壁も10メートルの巨体にはさしたる効果がなく、続く妖魔王のひと蹴りで無残にもぶち砕かれた。
「うおぁ」
砕けた土壁の破片が散弾となって俺たちに飛んでくる。俺はハムに覆いかぶさった。
「うにゃぁ、本気出すにゃ!」
ハムは俺の下敷きになったまま手のひらで地面を叩く。叩かれた地面から妖魔王に光が走りその足の裏から何かが押し上げてひっくり返した。
それは丸っこい奇妙な姿の土人形、ゴーレムだ。巨大な妖魔王の半分ほどの全長だが丸い体はそれなりの重量に見える。手足の短さとそのたたずまい、どことなくハムっぽい雰囲気をかもしだしていた。
俺とアムはこれが好機と次に備えてそれぞれ力を高める。
「行くにゃっ、ハムボット3号!」
1号と2号が少し気になるハムボット3号が倒れた妖魔王に飛び掛かる。
馬乗りになって妖魔王をボコボコと殴るハムボット3号。
妖魔王は天を仰いだままの状態でハムボット3号を
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
盛大に飛ばされたハムボット3号は大きな弧を描き、ハムが声を上げて見送る中で地面に接触し、粉々になり土に還った……。
だがおかげで時間が稼げた。大きな法術を錬成するだけの心力を高めたところでヘルトが戦線に復帰する。
「このままじゃジリ貧だ」
「だけどデカいくせに動きがいいし、狙い場所が高すぎる」
打つ手を欠いている俺たちがあれこれ言っている間に立ち上がった妖魔王は、腕を上に持ち上げた。その手にはシャレにならない高圧な陰力が集束されていく。
「防御法術障壁全力発現、急げ!」
おだやかな彼からは想像できない爆声で後方の法術部隊に向かって叫んだ。
「ラグナ、僕たちも後退だ」
妖魔王がこれからおこなう攻撃は恐らく全方位の広域陰力衝撃波の類だろう。ヘルトもそれを察し、できうる最善の対処を講じようとしている。
「にゃっ」
俺はハムを脇に抱えてヘルトのそばに駆け寄り、後退しようとするヘルトを掴んで覆い被さった。
「何をっ?!」
その行動に驚くヘルトに、俺は意を決して答えた。
「チャンスだ、ヘルトはあいつを倒すために闘技の準備を。俺があの攻撃を防ぐ」
「そんなの無理だ」
「多少後退したところであの攻撃は影響は変わらない。距離が開けば反撃することはできない。だからここで耐える」
「仙人様、俺が吹っ飛ばないように固定してくれ」
「わかったにゃ」
ハムが地の精霊を操り地面から伸びた手が俺の足を掴む。妖魔王を背にした俺の背中を大地の甲羅が包み込み、ヘルトの背後には押されても吹き飛ばされないように分厚い支えが盛り上がった。
アムは負傷したノーツさんを後方の法術師団に退避させると、魔女の闘いで傷ついて倒れているサウスさんの前に立って剣を振り上げた。
『まさか打ち合うつもりかよ』
護りの俺と攻撃のアム。莫大な陰力が妖魔王の腕に凝縮されたと感じたとき、その腕が大地に向って振り下ろされた。
「頼むぞリンカー」
『やってやるさ!』
リンカーの威勢のいい声に続いてアムが法技を撃ち放つ。
「グラデ・エアロ・リッパー」
「ぐもぉぉぉぉぉぉぉ」
アムの発する法文の声が妖魔王の叫びにかき消されたと同時に、意識を刈り取る衝撃と心を浸食する陰力の波が押し寄せる。
最初の一撃でハムの作った土の甲羅は吹き飛び鎧に亀裂が入った。
「ああああああああああ!」
高めた心力を全て鎧の護りに注ぎ込み、陰力と衝撃波を打ち消していく。
この攻撃はエイザーグの咆哮よりも物理的な衝撃の割合が大きく、鎧にかかる負荷も強い。
5秒、6秒……。わずかに力が弱まっていくが、こちらの護りも同じように力を失って、俺の意識も遠のき始める。
『耐えきれないのか』
薄れゆく意識の中でそう呟くと、体の側面を圧する強く温かな波動。その波動が俺の意識を少しだけ引き上げる。
「耐えきったよ、ありがとう」
その声は、遠く闇の彼方から聞こえた。
横向きに倒れた状態で薄っすら開けた俺の目に見えたのは、体を小さく縮めたままで槍を体の側面で引き絞るヘルトの姿。
「ヘル……ト」
体は燃え上がるような赤い光が包んでいて今にも爆発しそうだ。その力が俺の体を圧しているのだ。
槍の向く先は膨大な陰力を破壊の力に変え、大地へと撃ち放った妖魔王。
「ぶちかませ」
「ソウエンゲキ……ダン」
頷いたヘルトは倒れる俺とハムをお構いなく吹き飛ばして突撃した。ヘルトの体は炎の砲弾となって飛んでいき、大地に両手を叩き付けた妖魔王の額に飾られた法具へ槍を突き刺した。
ズンと体に響く衝撃と、バシッと赤い光が弾ける音をが広がり、貫かれた法具が小さな法術陣を展開。
妖魔王の額がボコボコと内側から膨らみ、それが全身に達したところで黒いしぶきを上げて妖魔王は弾けて消えた。
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