防戦
戦線を後退させながら妖魔と交戦していた部隊にヘルトとサウスが合流したことで、戦況は持ち直し始めた。だが、現れた魔女の霧に主力の第一部隊隊員一名と第二部隊隊員二名が襲われ、呪いに犯されてしまっていた。
「一名は妖魔化、もう一名は完全に魔獣化しました」
「ロイドは?」
「半魔獣化状態で現在解呪を受けています」
「そうか」
魔獣化が不完全なら解呪の可能性はある。戻れるかどうかは本人と術者の力量次第だ。
「僕とサウスで霧の相手をする。みんなは可能な限り近づかないように、いいね」
それだけ言ってヘルトは魔岩石目指して走り出し、それを追ってサウスも続く。群がる妖魔を斬り伏せて一直線に走る先に紫の霧が浮かんでいた。集まるほどに力を増すこの霧は少しずつ量を増やして密度を高め、最終的には復活した魔女が宿るという言い伝えだ。
斬り散らすことで時間を稼ぐしかできないうえに、呪いに対する耐性がなければまともに闘うこともできない厄介な存在だ。その霧をヘルトたちが両手で数えられないくらい吹き散らした頃になると、霧の量は増え、逆に妖魔の数は減っていた。ただし、その力は大きく増している。
「下がった第二部隊を前へ、投入第三部隊は下がって五分後に再突入だ。法術部隊再度精霊結界を敷いてくれ」
自らは果てない霧との闘いに身を置きながら、崩れつつある後衛の戦線を保つために頭と体をフル回転させるヘルト。15分経った頃に風の祠(ほこら)からノーツが戻り一時的に盛り返すも、さらに密度を増した魔女の霧が起こす呪術のこもった攻撃に幾人かが呪いを受けてしまう。
完全に魔獣化した仲間を悲しみを堪えて躊躇することなく討つ闘士たち。この街に生まれた者はその覚悟を持って闘いに挑んでいた。
「陣の形成は八割を越えました。もうひと踏ん張りです」
陣の形成状況を叫ぶ伝令の声を聞いて闘志を燃やし耐え忍ぶ者たち。しかし、とうとう戦線保てない変化が起こった。
「陰力急激に増大」
法術部隊の声の直後に大地が鳴動を起こした。それを受けて霧のように散った妖魔は集まってより大きな個体へと合体したのだ。人間の倍程度だった体躯はより倍化し、その強さは主力部隊以外の闘士では対応することさえできなくなった。
「あと少しなんだ、みんな耐えてくれ」
四つの精霊陣は完成し、封印法術陣も完成間近だ。闘士たちが倒れ封印法術陣形成部隊が襲われれば全てが終わる。だが、幸いにも魔女の霧は北の塔だった。仮にヘルトたちがやられても、術さえ発動できればいいという覚悟だ。
妖魔と奮闘している後方では次々に仲間が倒されている。魔女の霧を相手にしているヘルトとサウルとノーツの三人は加勢にゆくことはできない。もしも、この北の塔エリア以外の他の塔でも同じことが起こっているなら、ヘルトが魔女の霧を抑えているのではなく、ヘルトが魔女の霧によってこの場に縛り付けられているとこになる。
「ヘルト、おまえは白の塔へ行け」
そう考えたノーツがヘルトの前へと踊りでた。
「もう陣は完成する、最悪ここはやられてもいいんだ。魔女は俺たちが抑える」
自分がここを離れたら魔女は抑えられないと思ってはいたが、ヘルトは何も言わず白の塔へと全力で走った。少しでも仲間の負担を減らすべく、道すがら目に入る妖魔をなぎ倒して白の塔へと急いだ。
「さてサウス、俺たちふたりだけで魔女の霧を抑えないといけなくなっちまった」
「なんだよ、お前ひとりでやるんじゃないのか?」
「最後の見せ場は弟にゆずってやろうという兄の優しさがわからないのか? ヘルトが居たら美味しいところを持っていかれるからな」
「そんなに気を使ってもらわなくてもいいのによ」
背中を合わせて言葉を交わしているが、お互い肩で息をしていて軽口を叩いている余裕はないほど消耗している。ノーツは腰のポーチから小ビンを取り出してコルクの栓を抜くとそれを一気に飲み干した。
「くー、しんどいときはやっぱりこれだな」
ノーツが飲んだのは濃縮したレモン果汁とハチミツを混ぜたカクテルだった。
続いてサウスも小ビンを取り出だす。その中身は糖度が高いぶどう酒で、それを口に流し込んだ。
「こういうときはぶどう酒が一番なんだよ」
小ビンを霧に向って投げ捨てる。鼻息荒く気合を入れる彼らが飲んだのは数分間能力を底上げする秘薬だ。
「何分もつかな?」
「5分はなんとかもたせたいね」
「なら俺は兄の威厳で6分だ」
そして、同時に叫んだ。
「「モード・サンザー」」
サウスの長剣とノーツの双剣に紋様が浮かぶ。主に瞬発力を向上させる闘技によってふたりの体が淡い光に包まれて時折りパリッと小さく電気が弾ける。
そんな彼らの前方でヘルトによって吹き散らされていた霧が再び収束し、その霧から噴出された呪いの吹雪をノーツの双剣が斬り裂き、切り開かれた空間にサウスが滑り込んで闘技を討ち放った。
「ジンプウセン」
ノーツの双剣によって両断された霧の中でサウスの斬撃が作り出した旋風が魔女の霧を吹き散らそうと吹き荒れるが大きく散り広がらない。
『もう俺じゃ大きく散らせないくらい密度が高くなってやがる』
「下がれー!」
後方から弟を飛び越えてきたノーツは双剣を逆手に持ち替えて密集する霧の足元に着地と同時に突き立て。
「ドゴウレッパ」
轟音と衝撃が突き立てた双剣から発せられ、霧が空に弾け飛ぶ。そこに続けてサウスが放った闘技が穴を穿った。
「駄目だ、ドーピングしても大して効果がねぇ」
霧に空いた穴はすぐに閉じてそのまま上空で範囲を広げていった。
「何をする気だ?」
「広がって密度が落ちたならチャンスだ」
双剣を左右に広げて体を捻り絞ったところでポタリと雨粒が落ちてきた。その雨はすぐに強くなりあたりを濡らす。
「これは……」
その雨の脅威に気が付いたとき、後方の闘士団から悲痛な声が聞こえ始めた。
「呪いの雨だ」
降り注ぐ雨に打たれた者が苦しみの声を上げる。
「ちくしょう!」
ノーツとサウスは仲間の下に駆け寄って再度体を捻り絞って上空に向かって闘技を放った。
「ザンフウラン」
法具から立ち上った青白い光は竜巻となり、上空の霧を巻き込んでいく。だが、決して高くない輝力の闘技は密度の増した魔女の霧を打ち消しきれずに小さな穴を空ける程度だ。呪いの雨の範囲が広すぎてとても庇いきれない。
次々に呪いに飲まれていく仲間に絶望を感じながらも、再度闘技を放とうとしたとき、
「セイング・メガロ・ザンバー」
一陣の斬風が駆け抜けて空に広がる霧を広範囲で巻き込み消し去った。
「遅くなってすみません」
「よう、ホントに遅かったな」
そこにはイーステンド王国から来た助っ人の青年と、その後ろに見慣れぬ少女と小さな獣人が立っていた。
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