白波恭の小説家Life‼︎

緋月

Vol.1 新たな日常が始まり… ①

外では鳥のさえずりが聞こえ、近所の人達の挨拶する声が聞こえる。

かく言う俺は……


ピピッ、ピピッ、ピピッ


「恭〜、おっはよー!」

「むり。死ぬ。あと1…いや2……さ、4時間寝かせて…」

「その時間になったら恭はもう帰ってきてるって!ほら!起きて!」


睡魔との大激闘に明け暮れていた。

ラノベ『月下の蒼弾』作者五十嵐キザハシもとい、本名白波恭しらなみきょうをゆっさゆっさと身体を揺すったり、俺の頬をつついたりつまんだりして俺の起床を促すこの鬱陶しい女は姉の白波光里ひかり

ただ今、大学二年生。そこそこのリア充生活を送っている。彼氏もいる。めっちゃいい人。あれほど性格良くてイケメンな男は絶滅危惧種なまである。


「恭〜、今日は雨高あまこうの入学式なんでしょー。遅刻するぞー」

「まだいける…」


すると、下からピンポーンと、インターフォンが鳴った。

光里は「早く起きなよ!」と俺の言葉をてんで気にすることなくそう言うと、大きめの声で「はいはーい」と返事をしながら部屋を出る。


「…………」


カーテンを開けようと手を伸ばすがベッドの上から、ましてや布団の中からでは届く事はなく選択肢はすでに1つしかなかった。


「起きるか」


光里の鬱陶しさによって半分覚醒させられた意識を窓を開けて完全に覚醒させる。

まだ、冬の肌寒さを残しながら暖かい光が差し込むこの日は絶好の入学式日和といったところだ。

そして、寝癖をつけたまま寝ぼけまなこで、下へ向かう。


「あ、恭。おはよ!」

「おー、やっぱ結羽ゆうだったのか。おはようさん」

「ごめんねー。私も今日入学式だって事忘れてて。とっとと行かせるからちょっと待ってねー」

「いえ大丈夫ですよ」


光里と楽しそうに話しているこいつは、松宮結羽まつみやゆう。いわゆる、幼馴染というやつだ。

頭が良く、可愛く、スタイルも良く、告白された回数は数えきれなく、断った回数はそれのイコールである。

俺がこのもともと住んでいた一軒家に小6の時に越してきてからよく遊んでいて、受験の時もよくお世話になった。

俺は2人が談笑しているのを視界の端に映しながら朝食のパンを食べ始める。しかしまあ、俺はそこまで朝は食べる方じゃないからさっさとパンを食べ終え二階へ戻る。

そして、顔を洗い、歯を磨き、髪を直して新しい制服の匂いがする雨邦あまくに高校の制服に腕を通し、新品のバッグを肩にかけ待たせている結羽の元へ向かう。


「んじゃ、行ってくる」

「はいはい。行ってらっしゃい。恭が帰ってきたらもう私いないから。どうせ、部屋にこもるんだから鍵とかちゃんとかけてね」

「りょーかい。あと、人をニートみたいに言うな」

「じゃ、結羽ちゃん。お願いねー」

「はい!お願いされました!行ってきますね」


いってらっしゃーいと見送る光里を背に俺と結羽は小高い山の上にある雨邦高校に向けて歩き出す。


「恭、目の下にクマできてるよ?まーた夜通し小説書いてたの?」

「まあ寝たのは夜の28:00くらい」

「それはもう朝だよ。ダメだよーちゃんと寝なきゃ」

「なんかもう自分の書いたものが一個ダメなところが見つかると何個もある気がしてきてな」


俺はため息をつきながら目を擦る。


「まあ、なんか手伝えることあったらいってね。私手伝うよ!」


むん!と結羽は拳を握る。その副作用で親譲りの発育のいい胸が制服のシワを伸ばす。

ああ、こういう無邪気な笑顔アンド無垢な仕草でどれだけの男が撃沈してきたことか。高校でもそうなるんかな。かわいそうに。骨は拾ってやろう。


「結羽、わかってると思うけど学校じゃ言わないでくれよ?めんどくさいから」

「分かってるよ〜。五十嵐先生のご迷惑になるような事はしたく無いからね」

「言ったそばからこれだよ。俺は結羽が悪い人に騙されたりしないか心配よ。お菓子あげるって言われても付いて行っちゃダメよ?」

「流石にそこまでじゃないからね!?」


ニパーっと笑う結羽に指摘し園児の保護者のような接し方をすると両腕をブンブン振って抗議する。

むくれる結羽が「そういえば!」と声を上げる。


「どこのクラスか分かんないや。恭は知ってる?」

「いや?知らないぞ。てか、昇降口に張り出されてるんじゃなかったか?」

「あれ?そーだっけ?」

「結羽、お前学校から送られてきた封筒の中身良く確認してないだろ」


あちゃー、というふうに結羽は額を抑える。


「今年も同じクラスだといいね!」

「だなー。でも、今年は例年より入学者多いらしいからどうだろうな」

「そうなんだ。それにしてもちょいとネガティブ過ぎやしませんかねぇ、恭さんや」

「俺は通常運転ですぜ結羽さんや」


いつもの謎のノリに身を任せていると次第に雨高がある山への道が見えてくる。

はぁ。朝から重労働。すでに一日分の体力を使った。自分。アグロ帰宅キメていいですかね。


そんな俺の考えを察知したのか肩をバシバシ叩き始めた。


「どうしよう。緊張してきた。クラスに馴染めるかな」

「どうだかな。この学校中高一貫校じゃないから大丈夫だと思うけどね」


ここ、雨邦高校はここら辺の学校の中じゃトップクラスでわざわざ電車で1時間半もかけて通う生徒もいるくらいの高校だ。そんな高校に入れたのも結羽のおかげなわけだ。

受験本番前までに納得のいく原稿が出来上がらず、四苦八苦し出来上がったのが受験本番の3日前。そこから不眠不休の結羽先生の講義をして詰め込んだのはいい思い出だ。

だからまあ……


「俺は結羽と一緒であればなんでもいいかな」

「…………」

「え、なにその沈黙」

「い、いや?な、なんでも無いよ!」

「そう?顔赤いけど熱でもあんのか?」

「な、なんでも無いってば!」

「お、おう」


半ば強制的に黙らされてしまった…。なんか変なこと言ったかな俺。

そして、ついに校門をくぐり抜け生徒会と腕章のつけた人たちが挨拶している横を通り過ぎ、クラスが掲示されているところへたどり着いた。


「んーと、私か恭の名前はー……あ、恭発見。あ!」

「どーだった?てか、そのはんの__

「恭ーー!!一緒のクラスだよーーッ!!」

「うるせえうるせえ。あと抱きつくな」


そう、抱きつくな。お前の身体は男には害がありすぎるんだから。周りの男子からの視線が痛いから。


目元に涙を浮かべながら良かったーを連呼する結羽を引き剥がし、俺たちのクラスが1-Bである事を確認し1-Bのプレートがある下駄箱へと向かった。


「泣くほどの事なのかよ」

「いーじゃん!っていうか、また同じクラスだね!」

「おう、そーだな」


さーて、皆さんに問題です。俺らは何年同じクラスでしょうか!

答えはそう!8年間でした!小学校2年で訳あって引っ越してまたまた訳あって戻ってきて。つまり、俺がこの辺にいなかった時以外は幼稚園、小学校、中学校と全部同じクラスな訳だ。

これはもう腐れ縁というより学校側の意図を感じるよね。うん。なんの意図か知らないけど。まあ意図があるなら怖いから絶対聞かないけどね。


心の中で自問自答しながら真新しい上履きを履き、教室へと歩き出す。

そして、その横では上機嫌に鼻歌を歌っている結羽がいる。


「そういえば結羽はなんか部活とか入る予定あんの?」

「私は今のところないかな〜。スポーツに関してはもうやり尽くした感じあるし」

「そこまで来るともはや英才教育なんだよなあ…」

「あはは、確かに」


恭が苦笑いをすると結羽はさぞ楽しそうな笑い声を上げながら同意をする。

そんな事をしている間に1-Bと書かれた教室に着いた。結羽と駄弁りながら教室へ入ると一気に視線がこっちに向く。俺ら2人はそれに気がついたが「おはよう」とだけいうと、依然と喋りながら自分の席を探す。そして____________


「隣なんだよなぁ…席…」

「えへへーよろしくね〜、恭〜」

「なんかもう、ここまで来るとおかしいよな」

「そう?私は嬉しいよ?」

「そりゃどーも」


割と本気で学校が仕組んだのでは?と思いつつも自分の席に着く。

そして、一番最初にやる事。それは!寝る事なんだよなぁ。まじ眠い。死にそう。今の俺は寝る早さならの◯太君には負けんぞ。

今まで結羽と喋ってたからいいものの結羽は席に着いた途端、周りはクラスの女子で固められ自己紹介&アドレス交換の嵐に見舞われていて静かになったからか猛烈な睡魔に襲われる。よし、寝るチャンスだ!と、意気込みバッチリで寝ようと寝る姿勢に入り寝よう。と、思ったがそれは儚い夢だったとでもいうように前の男子とそいつと話してた長身の男が振り向いてきた。


「よっ!これからよろしくな。俺は氷野翔也ひのしょうや。んで、こっちは今仲良くなった尾野海斗おのかいと

「よろしくな!んで、お前の名前は?」

「俺は白波恭。よろしくな」


これは寝かせてくれなそうだ。と思いながら至極無難な挨拶をすませると翔也が耳を貸せ、というように人差し指をクイっと曲げた。

仕方ないので耳を貸すと__


「さっき、恭の隣の席の女子と一緒に入って来たけどどういう関係なの」

「あ、俺もそれ気になった。めっちゃ仲良さげだったよな」

「あー、あいつは松宮結羽。普通に俺の幼馴染って感じだよ」


恭が答えると2人は目を輝かせおお!という。


「じゃあ、お前ら付き合ってないんだな!?」

「あるぞこれ。ワンチャンあるぞ」

「翔也じゃ無理だよ」

「じゃあ、海斗はいけるってのかよ」

「無理ですごめんなさい」


あ、早速その話しちゃう?その会話自体が既にバッドエンドフラグなんだけど。

まあ、今の会話で何となく2人の性格が読めた気がする。氷野翔也。こいつは自分の思った事をすらっと言え、且つノリが良くクラスの中心になりそうな性格だ。そして、尾野海斗。相手の言葉の意図を的確に汲み取る聞き上手であり、話題を広げ落ちまで持っていく話し上手のダブルウェポンを装備してるようだ。

2人ともいい奴そうだから少し助言しておいてやろう。


「結羽を彼女にしようってならやめとけよ〜。あの処女神は難攻不落で完全無欠だから付き合っても劣等感しか残らんぞ」

「なんだよ処女神って」

「まさか松宮さんは月の女神アルテミス様だったのか」

「三大処女神かよ。あと2人、ヘスティア役とアテナ役を見つけてこーい」

「行ってきます!」


海斗の知らない人からしたらわけわからんボケにうまくツッコミを合わせた俺に嬉しそうにオーバーな敬礼を見せる。

その隣で翔也はお腹を抱えて笑っていた。

いまのそんなに面白かったか?どうやら、翔也はツボが浅いらしい。


「あ、翔也じゃん。久しぶり〜」


抱腹絶倒している翔也を見つけ声をかけたのは、茶色がかった髪のいかにも活発そうな女子だった。


「あれ?麻里まりじゃん。お前もここに来てたんだ」

「知らなかったんだ。まあ、言うつもりないし聞かれてもないからね」


慣れた様子で話す2人を前に、俺と海斗がきょとんとしてるのが目に入ったのかすまんすまんと言ながら翔也がその麻里と呼ばれた女子を指差す。


「こいつは土田麻里つちだまり。中二の時同じクラスだったんだよ」

「よろしくね〜」


ヒラヒラと手を振る麻里。


可愛いな。というか、なんだろ。なんか翔也と並んでるのが絵になる。因みに、見た感じだとうちのクラスで一番のイケメンは翔也だろう。その次は海斗だろうか。


「ねぇ、見てよ。あそこの3人。結構イケメンじゃない?」

「ね!私も思った」


聞こえてるんだよなぁ。嬉しいけどね。そーゆーのは聞こえないトーンで話してほしいよね。変に意識しちゃうから。


「麻里はなんかスポーツとかやってたの?結構脚引き締まってる感じだけど。あ、俺は白波恭。恭でいいから」

「オッケー。バスケやってたよ。それにしても恭は初対面の女子によくそんな事言えるね。ちょっと引いた」

「いやいや、そんなことなくない!?なぁ?海斗」

「いや、俺は分かんなかったけど。あと、俺は尾野海斗な。海斗でいいから」

「うわー、恭ヘンターイ」

「海斗と翔也ぶっ飛ばすぞ。俺は海斗みたいに大雑把気な男にはなりたくないんだよ」

「なっ!?お、俺は意外と繊細だぞ!」

「そんなカミングアウトはいらんのだよ。海斗くん」


俺と海斗のふざけを見て笑っている2人はやはり絵になる。写真撮って売ったら金になりそうなくらいだ。

そんな事をしていると教室の前のドアがガラッと開き、巌のような筋骨隆々としたいかにも体育教師っぽい人が入って来た。


「よし、お前らー、俺は担任じゃないがとりあえず入学式までよろしくな!とりあえず廊下に出席番号順に並んで待機しといてくれ」


「んじゃ、行きますか〜」


気怠げに海斗が言うと短く「そだなー」と翔也が答える。


「じゃ、戻ってきたらアドレス交換しよーよ」

「お、いーねー。麻里ナイス提案」

「でしょー」


麻里の提案に俺はニッと笑いながらサムズアップすると、誇らしげに胸を張りサムズアップ返しをしてくる。このクラスは結構楽しくなりそうだな。と思いながら廊下へ整列しに向かう。

うちの学校は何故か最初の席順は出席番号順にじゃないため周りとコミュニケーションを取りながら並ばなければ自分の場所がわからない。


「ねー、君、名前なんて言うの?」

「私は篠谷琴音しのやことね。あなたは?」

「俺は白波恭。よろしくな他にはしから始まるやっぱりいないっぽいから俺は琴音の後ろか」

「そうっぽいね。よろしく。白波」

「あー、恭でいいよー。苗字で呼ばれるのあんまり好きじゃないんだ」

「わかった。じゃあ恭ね」


篠谷琴音ねぇ。なんか見たことあるなぁ。気のせいか?可愛いって言うか綺麗って感じかな。声も透き通っていて心地いい。やっぱうちのクラス偏差値高いわ。なんのとは言わないけど。


「てかさ、そのスマホについてるストラップって今期やってるアニメのやつじゃん。好きなの?」

「え?う、うん。そうだけど。このアニメ観てるの?」

「おう。毎週リアルタイムで観てるよ。俺さ、茅野みなみ先生の作品めっちゃ好きなんだよね。ラノベも全部買ってるし」

「ッ!そ、そうなの。へぇー」

「なんつーの、戦闘ものなんだけど心理描写が繊細だったり、派手なところは大胆に戦闘シーンを書いてて、それに__

「おーい、静かにしろー。移動すんぞー」


えぇ、もうちょっと語らせてよ。めっちゃいいとこだったのに。


「この話はまた後でな」

「え、えぇ。そうだね。また後で」


やっぱりこの声も聞いたことあるような。んんー。思い出せん。


モヤモヤしたまま列について行くとめちゃめちゃでかい体育館に着いた。山を切り開いて作られたこの学校はこの山自体が学校の所有物らしく敷地も使い放題で全体的に建物がデカイ。全くとんでもない学校だ。山を所有してる学校なんて聞いたことないぞ。


入学式開始のアナウンスが鳴り入場が始まる。琴音の後ろについて歩き出すと、フワッと歩き出しとともにたなびく黒い長髪から鼻腔をくすぐる香りが漂ってきた。

そして、それをきっかけにずっと引っかかっていた琴音の既視感の正体が判明し、目を見開く俺は口から出かけた絶叫を慌てて抑えた。

あっぶねー。叫びそうになった。後で確かめてみよ。


Aクラスから前の列に並んで行く。だから、Bクラスは二列目だ。そして、席に着くなり琴音の肩をちょいちょいと突いて、耳貸してジェスチャーをする。そして、一言。


「ねぇ、琴音ってさもしかしてラノベ作家さんだったりする?」


その言葉を聞いた琴音は目を見開き驚いた様子でこちらを見てきた。





















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