第189話 意識すると顔が赤くなるらしい。
今日の3時間目は、1年生と合同で2学期最後の柔道の授業。
学年別トーナメント形式での試合が、先週に引き続いて行われている。
先週の授業では、トーナメントの第1試合のみが行われ、今週は1年生、4年生ともにベスト8に残ったメンバーのみで、準々決勝からのスタートだ。
各学年の人数は18人なのだが、先週は1年生にも4年生にも見学者が2人ずついて、どちらも16人という、トーナメントにぴったりの人数になっていた。
体育の授業は、いつも何人かが見学しているので、先週は、たまたまそうなっただけなのかもしれないし、誰かが根回しをして人数を調整したのかもしれない。
トーナメントの組み合わせはくじ引きで決められ、先週行われた第1試合では、僕は
花戸さんは最初から負けるつもりだったらしく、僕にだけ聞こえる小さな声で、「投げてもいいけど、痛くしないでね」と意思表示し、無抵抗だったので、お言葉に甘えて軽く投げさせてもらった。
上手に受け身をとった花戸さんは、すぐに起き上がり「負けちゃった。てへっ」と僕に舌を出して、おどけた顔を見せてくれた。
アマアマ部屋の僕以外の3名は――というと、天ノ川さんは
ネネコさんは大喜びし、
僕のかわいい妹であるポロリちゃんは、幸か不幸か僕のかわいいカノジョであるネネコさんとの同部屋対決となってしまい、大方の予想通りネネコさんが1本勝ちを収め、ポロリちゃんは初戦敗退となった。
柔道の試合は、体重がある人のほうが圧倒的に有利なので、推定体重が30キロ未満のポロリちゃんには、相手が誰であれ、きっと勝ち目はなかっただろう。
今日の試合では、かわいい妹の分まで精一杯頑張ろうと思う。
「ネコちゃん、頑張ってね!」
「ボクがチューキチなんかに負けるわけないじゃん」
1年生のトーナメントの準々決勝。ネネコさんの対戦相手は、先週、
僕はポロリちゃんの隣に座り、「元カノ」対「今カノ」の試合を観戦する。
ネネコさんもリボンさんも真剣な表情だ。
「始め! ――1本! それまで!」
試合開始直後に、
まさに瞬殺だった。
リボンさんは、1年生のお嬢様方の中でも運動は得意なほうで、体もネネコさんよりは大きい。それでも、ネネコさんには手も足も出なかったようだ。
「ネコちゃん、すごーい!」
「さすが、ネネコさん。カッコ良かったよ」
1本勝ちを決めたネネコさんは、僕の近くまで来て、笑顔を見せてくれた。
「優勝したら、ミチノリ先輩と試合できるんでしょ? ボク、絶対に勝つよ」
「それは面白そうだけど、僕が優勝できるかどうかに関しては、責任持てないよ」
1年生と4年生の優勝者同士は、最後に試合をする事になっているのだが、僕が優勝できるかどうかは運次第だ。
個人的には、4年生の中でも比較的体の大きい、天ノ川さんと
ネネコさんにも
「お兄ちゃん、今度はハテナちゃんとガジュちゃんだよ」
次の試合は、
こちらは109号室の同部屋対決だ。
「始め!」
やや小柄な小笠原さんのほうが腕力もスピードもあり、積極的に攻めている。
ハテナさんは左右に揺さぶられながらも、なんとか耐えている感じだ。
「――抑え込み!」
小笠原さんがバランスを崩した隙にハテナさんが上に
「縦四方固め」という技だ。
大きなお尻を生かした、効果的な作戦と言えよう。
「――1本! それまで!」
「ハテナちゃん、すごーい!」
「負けたー! ネネコと勝負する前にハテナに負けるとは……」
「ガジュは油断し過ぎだよ。ねえ、お兄さん」
「そうかもしれませんけど……ハテナさんは、見事な抑え込みでした」
「まあ、どっちが相手でも、次にボクが勝つことに変わりないけどね」
準決勝では、ネネコさんが宣言通りに、あっさりとハテナさんを退け、いよいよ1年生の決勝戦だ。
「始め!」
ネネコさんの前に立ちはだかるのは、準決勝で熊谷さんを抑え込んで順当に勝ち上がった、大本命の大間
身長差は20センチ以上。体重はネネコさんの倍近くありそうだ。
「――1本! それまで!」
「ネコちゃん、すごーい!」
体格差を無視したネネコさんの鮮やかな投げ技が決まり、大間さんが畳みに転がる。柔道場は大歓声に包まれた。
全て投げ技による1本勝ちで、1年生の優勝を決めてしまったネネコさん。
こんなにカッコイイのだから、同性からも人気があって当然だろう。
続いて4年生のトーナメント。
「甘井さん、お手柔らかにお願い致します」
「僕の相手は
準々決勝の最初の試合。僕の対戦相手は、先週見学していたはずの遠江さん。
先週勝ち上がったのに、今日は見学している
これは、僕にとってはありがたい事かもしれない。矢場さんは手ごわそうな相手だが、4年生で最も小柄な遠江さんが相手なら、楽に勝てそうな気がする。
「――1本! それまで!」
先週、花戸さんに勝たせてもらった試合と同様に、軽く投げさせて頂いた。
遠江さんも受け身は上手で、起き上がってから手早く柔道着を整えると、少し恥ずかしそうな顔で、僕に頭を下げた。
「よろしくお願いしまーす!」
準々決勝の2戦目は、
この試合で勝った方が、僕の準決勝の対戦相手だ。
技を仕掛けるたびに「やーっ!」と大きな声を出す熱血タイプの馬場さんと、相手の動きをよく見て、静かに技を受け流す南出さん。
声楽部員と書道部員の対決は、馬場さんの攻撃に合わせて、カウンターで投げ技を決めた南出さんの一本勝ちだった。
そして、準決勝。
僕は南出さんの
「――抑え込み!」
今までに僕との接点が、ほとんどなかった南出さんは、男子に対しての耐性もなかったようで、僕が体を重ねて抑え込みの体勢になっただけで、畳を連打した。
「――1本! それまで!」
南出さんに嫌われてしまったのではないかと心配ではあるが、勝ちは勝ち。
クールな南出さんの恥ずかしがる顔も見られたので、素直に喜ぶ事にしよう。
準決勝の2戦目は、天ノ川さんと脇谷さん。
勝った方が、僕の決勝戦の対戦相手となるが、どちらが勝っても強敵だ。
2人とも柔道着からおっぱいがこぼれ落ちそうな激しい試合で、勝負は時間一杯までもつれ込み、投げ技で「技あり」を取っていた天ノ川さんが勝利した。
これで、決勝戦は天ノ川さんと僕の同部屋対決だ。
「始め!」
連戦の為、まだ息が整っていない天ノ川さんが、息を荒らげながら、僕に寝技を仕掛けてくる試合展開となり、会場は大いに沸いた。
「お兄ちゃん! がんばって!」
ポロリちゃんのかわいい声は、いつだって僕に力を与えてくれる。
「お姉さま! そこそこ! いけるいける!」
しかしながら、僕と試合をしたがっていたはずのネネコさんは、お姉さまである天ノ川さんの応援をしている。
ネネコさんが気まぐれなのはいつもの事だが、これは考えてみたら当然の事だ。
ポロリちゃんが僕を応援している状況で、ネネコさんまで僕を応援してしまうと天ノ川さんが孤立してしまう。アマアマ部屋では「仲間外れは禁止」なのである。
「――抑え込み!」
ネネコさんの声に気を取られている隙に、天ノ川さんに抑え込まれてしまった。
この
僕は体を
「――解けた、待て!」
僕も抑え込み狙いで、積極的に寝技に移行しようとするが、なかなか難しい。
しかし、天ノ川さんのほうが、僕よりもっと苦しそうだ。
「――技あり! 抑え込み!」
「――技あり! 合わせて1本! それまで!」
長内先生の右手が上がり、柔道場に黄色い歓声が響き渡る。
対戦相手や試合の順番に恵まれた感じではあるが、これで優勝だ。
両手骨折の大怪我から復帰して、約1か月。
ここまで回復できたのも、天ノ川さんや、応援してくれた皆さんのお陰である。
「ボクのお姉さまに勝つなんて、なかなかやるじゃん!」
「あははは、これは、たまたまだよ。漁夫の利ってやつ?」
「次の試合は、お兄ちゃんとネコちゃん、どっちを応援したらいいのかなぁ?」
「ふふふ……、私と一緒に、2人とも応援するのがいいと思いますよ」
いよいよ、ネネコさんとの最終試合。
お互いに悔いの無い勝負をしたいところだ。
常識的に考えて、高校生の男子が中学生の女子に負けるはずもないのだが、相手はネネコさん。油断は禁物だ。
「始め!」
試合開始と同時に、ネネコさんは僕の柔道着を
僕はネネコさんの柔道着を掴んだまま、ネネコさんの出方を伺う。
ネネコさんが、やや前傾姿勢を取ると、ネネコさんの襟元から見えてはいけない何かが見える。
Tシャツも下着も、地球の重力によって薄い胸からは離れてしまうのである。
大きな胸もいいが、小さな胸もいい。平らかでもいい。これが、その理由だ。
「――技あり! 抑え込み!」
アポ●チョコのような何かに
体格差のお陰で1本取られずに済んだが、そのままマウントを取られる。
ネネコさんの仕掛けてきた技は横四方固め――にしては顔が近すぎる気がする。
僕の首に左腕を巻き付け、僕の胸に薄い胸を重ねている。
そして、右腕で僕の下半身を固定する――のではなく、ネネコさんの右手は、僕の股間を
「うほっ! ネネコさん、それ、ちょっと違いませんか?」
「ここまでしか手が届かないんだから、しょうがないじゃん!」
ネネコさんは、わざとやっている訳ではないらしい。
しかし、このままでは負けてしまう。少し気持ち良かったが、一時撤退だ。
「――解けた、待て!」
長内先生の合図で両者立ち上がる。
僕の欲棒も立ち上がり、どうやらエッチなスイッチが入ってしまったようだ。
「――抑え込み!」
今度は僕が攻める番だ。相手は僕のカノジョなのだから、「柔道の寝技」という大義名分さえあれば、このくらいは許されるだろう。
「ちょっ……マジ? これ、エロ過ぎじゃね?」
「これが、縦四方固め。さっきハテナさんが、小笠原さんに掛けてたでしょ?」
僕の下でネネコさんが激しく抵抗しているが、ネネコさんの顔は真っ赤で、冷静さを著しく欠いているようであった。
僕は勝利を確信し、ネネコさんの首を力強く抱きしめる。
「――1本! それまで!」
柔道場は、先ほど僕が天ノ川さんに勝ったとき以上の大歓声に包まれていた。
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