第166話 イジメだと思われていたらしい。

 小学生2名がトランポリンの上で跳躍する姿を、リーネさん達と一緒に見守る。


 6年生にもなると、胸の大きさも中学生のお嬢様方とさほど差はなく、それなりに胸のある小瀬こぜさんは、揺れを気にしているようだった。


 2人がトランポリンから下りた後、リーネさんが感想を聞いていたが、小瀬さんは「胸が少し痛ぁい」と恥ずかしそうに胸の膨らみを押さえていた。


 一方、「オモシロかったー」と答えた三輪みのわさんの胸はとてもささやかで、その辺りには全く問題がなかったようだ。


 僕が預かっていたおそろいのフリースを2人に返す際には、どちらが誰の物か分からなくなってしまったのだが、三輪さんは両方のフリースに顔を当ててにおいを確認し「こっちがニータンので、こっちがシロの」と容易に判別できたらしい。


 リーネさんと僕は案内係なのでトランポリンは「またの機会に」と遠慮し、最後に長内おさない先生が、みんなの前で模範演技を披露して下さった。


 去年まで体操の選手だった長内先生の跳躍は、とても綺麗きれいで技も多彩。そして、ハイレグのレオタードでの大開脚は、僕にとっては最高のファンサービスだった。






「ノリタン、次は2人をどこへ案内したらいいかしら?」

「それなら、中吉なかよしさんお薦めの『ぬいぐるみ作成教室』でどうですか?」


 中吉さんは手芸部の活動よりもネネコさんの代役を優先してくれたようだから、ここは僕も手芸部に恩返しをしておくべきだろう。


「そうね、リボンちゃんのお薦めなら、面白そうよね」


「ニーレもさんせー!」

「シロもー!」


 というわけで、手芸部の活動拠点である被服室に向かっていたのだが、渡り廊下を通って校舎まで来たところで、校内放送が入った。


「――4年生の甘井ミチノリさん、至急『美術準備室』まで来てください。繰り返します。4年生の甘井ミチノリさん、至急『美術準備室』まで来てください」


「お姉ちゃんの声だわ。ノリタンが呼ばれているみたい」


 声の主はリーネさんの姉である広報部のヨシノさんだ。呼ばれている場所が美術準備室なのが気になるが、校内放送で呼び出されたのなら行くしかないだろう。 


「すみません。被服室には3人で先に行ってて下さい。僕も用が済み次第、そちらに向かいますから」


 僕は3人に頭を下げ、急いで美術準備室へと向かった。






「失礼します」


 校舎2階の奥、美術室の手前にある美術準備室に到着すると、美術部の5年生である影口かげぐち先輩、上佐うわさ先輩、乙入おといり先輩の3名が、しおらしく椅子いすに座っており、机を挟んで向かい合うように新妻にいづま先生が座っていた。


「甘井さん、来てくれてありがとう。ちょっと確認したい事があるのだけど」


 新妻先生は一度立ち上がって、自分の隣の椅子を引く。

 ここに座れという事らしい。


「はい」


 僕が着席すると、新妻先生も僕の隣の椅子に着席する。

 先生と僕で、5年生の3人と向かい合っている状態だ。


「悪いようにはしないから正直に答えてね。あなた、ここでいじめられている?」

「はい?」


 僕には先生が何を言っているのか、意味が分からなかった。


「美術部の5年生達から服を脱ぐように強要されたのでしょう?」

「いえ、そんな事はありませんけど……」


「正直に答えなさい。ここに証拠があるの。誰に脱ぐように命令されたの?」


 新妻先生の前には、僕のハダカの絵が3枚置かれていた。

 おそらく、5年生の先輩方が描いてくれた絵なのだろう。


「それは、僕が美術部のみなさんへのお礼にヌードモデルを引き受けただけであって、命令されたから脱いだわけではありません」


「本当に? いじめられたりはしてない?」

「はい。5年生の先輩方には、いつもかわいがってもらっていますから」


 先生に説明しながら先輩方の顔を見ると、先輩方は、うんうんとうなずいてくれた。


相撲すもう部屋の『かわいがり』では死んじゃった人もいるのよ。本当に大丈夫?」


「何の話ですか。僕は上佐先輩にいつも髪を切ってもらっていますし、乙入先輩には両手をケガした時にトイレの世話をしてもらいました。影口先輩からは、モデルのお礼として素晴らしい絵を頂きましたし、イジメだなんて、とんでもないです」


「じゃあ、この絵は何? こんな状態の絵を描かれていて恥ずかしくないの?」


「それは僕の自業自得というか、先輩方から『いいもの』を見せてもらったから、そうなってしまっただけであって……恥ずかしくないわけではないですけど……」


 3枚の絵はどれも僕の欲棒が誇張され、実物よりもずっと大きく描かれている。

 僕としては寒さで縮んだ状態の絵を描かれてしまうよりは、ずっといいのだが。


「女子だったら、愛液で潤ったアソコを『くぱぁ』している状態って事でしょう? 影口さん、あなた、男子に囲まれた状況で、そんな事出来る?」


「無理です。ダビデ君、ごめんなさい」

「そうかぁ。それは、たしかに新妻先生の言う通りかも。ごめんね、ダビデ君」

「私も『くぱぁ』までは無理かなぁ。ダビデ君はエライね!」


 女性のヌードモデルの場合は手で広げない限り性器までは見えないのかもしれないが、男性の場合、元々丸見えなので、それほどハードルは高くない気がする。


「いえ、僕はエロいだけで、全然偉くはないです」


「美術部の顧問である私からも謝罪します。甘井さん、ごめんなさい」


「新妻先生、僕は気にしていませんし、いじめられてもいないですから……」


「それじゃ、イジメの件については3人とも『おとがめなし』という事で。この絵は芸術ではなく、わいせつ物なので、顧問の権限で没収します」


「えーっ!」

「そんなあ! せっかく描いたのに!」

「私たちの表現の自由がー!」


 僕の欲棒が、うっかりそそり立ってしまったばかりに、先輩方の絵が没収されてしまうなんて――これでは僕がヌードモデルになった意味がなくなってしまう。


 ここは、僕が何とかしなければ。


「新妻先生、その絵は、どうなさるおつもりですか?」

「しばらく私が預かります」


「その絵が、わいせつ物なら、僕はまだ16歳ですから、それは『児童ポルノ』という事になりますよね? 18歳以上の人が所持していたら、犯罪になってしまうのではないですか?」


「そうですよ、先生。モデルのダビデ君が訴えたら、単純所持でも犯罪ですよ」

「それに、ダビデ君のハダカはわいせつ物なんかじゃないです」

「私達は美術部員で、その絵は芸術なんです!」


「それは……たしかにそうね……」


「新妻先生、どうかその絵を先輩方に返して頂けませんでしょうか?」


 相手の心を揺さぶってから、最後に「お願い」する。

 僕が美術部の部長である口車くちぐるま先輩から学んだ交渉術だ。


「甘井さん本人がそう言うのなら、仕方ないわね……最後に、もう1つだけ確認させてもらってもいいかしら?」


「はい。何でしょうか?」


「あなたの『エクスカリバー』は、本当にこんなに大きいの?」


 新妻先生は、真剣な表情で、僕に質問してきた。

 5年生の先輩方は爆笑だった。


「そんなわけないじゃないですか。『エクスカリバー』がその大きさだとすると、僕のは、多分『ショートソード』くらいだと思います」


 今度は新妻先生も含めて、みんなで大爆笑だ。


「ふふふっ……そうよね。いくらなんでも大きすぎるわよね。私の旦那だんなのが小さすぎるのかと思って、ちょっと心配しちゃった」


 ――こうして、5年生の先輩方の「イジメ疑惑」は晴れ、3枚の絵も無事に先輩方の元へ返却された。


 リーネさん達の所へ急いで戻ることにしよう。

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