23.将器
「さあて、どうしよう勝ち
開始線につくなり
「いきなり士気を下げないでください!」
「だあって一度は
「ご、ごめん」
顔をあげたその目がニッと細められました。
「いいって。それに勝てないとは言ってないし、ふふん」
「前置きのヒマ、あるの」
地面を剣先で引っかいて
ないけど、ととぼけて香耶乃は腰に手を当てました。
「しばらくは手探りかな。タイムアウトのフラッグが無限にほしいね。パトリツィア選手の底は見えないし弱点らしい弱点もみあたらない。放置もできないけど幸い四夏っちゃんにご
状況のわりに
「わたしがエサになるってこと?」
「どっちかと言えば
水を向けられて
「とにかく
「重い武器は使う方も体力を消耗す、る。まずは直撃させないこと」
うなずきながら
「よっし、じゃあやっぱり様子見でいこう。ただし守備的にはならない。主導権をうばって結果的に安全も確保する。んで、できるだけ多くの情報を」
身振り手振りでかきこむ動作。都合の良すぎるような方針も彼女が言うとできるような気がするので不思議です。
「作戦名は〈カーテンタッセル〉でどう? 広がった相手をキュッとまとめて……そうだねまずは、
◇
陣形は
右端に向かい合うのは四夏とパティ。四夏が軽く動いてみてもぴたりとマークが離れないのは
『
何度目かわからない号令。
『
黄旗がふられ進出する両軍。
四夏は
狙うは司令塔たるナタリア。相手の足並みが戸惑うように
「シィ――ナツうううう!」
四夏を追うパティによって押し詰められていました。行く手を
「総員、
号令一下、四夏たちはダガーを抜き構えました。
「「っ!?」」
不意のことに急制動するチームポーランド。四夏は片手に持った剣先を足元へ向け、その影に隠れるように構えます。香耶乃は丸盾の内側にダガーを隠し、朔は長短二刀の切っ先を近づけた
ヒット即クリティカルのダガーは持つだけで圧力が増すもの。同時持ちは
「よぅし引っかきまわすぞ、はいポイ!」
四夏たちは即座にそれを放棄しました。足元に捨てたダガーをまたぎ、剣身の中ほどへと持ち手を滑らせます。
「ハーフソード……ッこいつら!」
「イッヒヒ、両手剣で二刀流なんてできるのは
ダガーは相手の大振りを抑止するための見せ
浮かされたレオのぶんだけ余裕のできた四夏と朔でナタリアへと殺到します。
「くっ……トリシャ、自重して!」
「どうして? このために来たって言ったじゃない!」
唯一、ダガーにも
「パトリツィア・スヴェルチェフスカ――」
ハーフソードの代名詞というべき彼女が横撃していました。
「――
中央に切り込んだ四夏と入れ替わる変則の〈
「わっビックリした! すごい殺、気――ッ!」
勘と反射で防いだパティの喉を
――うそ。最初の技、フェイントじゃなかったわ?
――殺気をキャッチしているなら当、然。私は常にあなたが憎い。
「そう、アナタ。シナツに一番ができてほしくないのね?」
「っ」
かき抱くように寄せられた
「皆を愛してる彼女が好きで。たくさんの大切の中のひとりで充分なんて
「――だ……ッ!」
まるで触れた剣から心が読み取られるような。
慈母のごとき瞳に
◇
ほぼ時を同じくして、四夏は朔と二人がかりでナタリアを封じていました。
ポールアクスの間合いは中央を持っても腕一本より長く、対するハーフソードは肘から先くらいの距離でも取り回しできるもの。とはいえ突きを頼みとした構えであるのでルール内では決定打に欠けるのも事実。
「……?」
「――!」
声を殺した裂ぱくの気合がその背後へすべり込んでいました。
香耶乃がアントニー・ミハウ相手に防戦。それによりフリーになったのはただ一人、このためにダガーを捨てなかった杏樹。
(1×1!)
「っそこ!」
「ぇあ!?」
しかし腋下へと突きこまれたダガーは不発。シャットアウトするように落とされた腕によって。
(嘘、なんで見えて……?)
ふと四夏はポーランドキャンプでナタリアと戦った時のことを思い出します。まるで後ろに目があるような
まさか本当に見えているのかと、疑ったところで。
『――
「へっ?」
ホイッスルが鳴り響いていました。戦闘が止まり香耶乃が
敵陣奥。レオが自陣フラッグを引き抜いていました。
◇
「レオ! どうして止めたの!?」
ポーランド陣。
「ぃゃいや、なんか相手のペースだったし? お姫だって初撃が
その
「僕がお願いしたんだ」
遅れて戻ってきたミハウがこともなげに言いました。
「怒らないで姉さん。チームみんなで勝つためだよ。もう姉さん一人の戦いじゃない、でしょ?」
「ワタシは……っ」
「きっとあの子はまず
「…………」
長い沈黙のあとパティはレオをにじっていた足をどかします。
「心配いらないよ。軍勢として戦えば敵も思い知る。小手先の戦術なんて意味ないってことを」
「そう、ね」
「さあ座って。脚を休ませなきゃ」
「ありがとう。ミハウ」
腰をおろしたその膝をマッサージするミハウ。横でレオがホッと胸をなでおろすジェスチャーをするとナタリアは鼻を鳴らします。
どちらが年上かわからないほどパティは弟に従順なところがあります。まるで大きな借りがあるかのごとく。ミハウはミハウでそんな彼女の負い目でかげったまなざしを甘受しているフシがあり。
「ふんふん、兄弟愛だな?」
「どうだか。まあ……」
自分のこれは同族嫌悪かもしれないけど、と口にするかわりに視線を外します。
パティの中にあるまばゆいまでの無邪気さと残酷さ。そのコントラストに苦しむ彼女の背中を、自分は押そうと決めミハウは支えようとしている。
「ナタリアさん」
「ええ、わかっているわ」
どちらもきっと彼女には必要で、そう信じるからこそ協力することに迷いはないと。
「完膚なきまでに叩き潰す。〈
◇
柵に寄りかかるなり脱いだヘルムに額をぶつけた香耶乃。らしからぬ感情的な様子に一同の視線が集まります。
「……ふう、よし。リセットした」
わざとらしいほどの笑みはしかし、そうさせるだけのマズい状況があるということ。
「まさか撤退するとは思わなかった。あっちの指揮官も慎重だね」
「ごめんあたしっ失敗して、」
「問題は、なに」
凛がさえぎり、泣きそうな
「情報も戦果もとれないままタイムアウトを使われたこと。私たちは作戦ごとに相手を
四夏はやや離れた敵陣奥をみやります。座り込んだパティが膝をミハウにゆだねているところでした。
(足、悪いのかな。今までの試合でも全然そんな感じはしなかったけど)
「四夏っちゃん、聞いてる?」
「えっあっ何?」
じろりと突き刺さる視線。大きな体を
「だから、戦況判断を各自に任せるってこと。具体的には全員が立ち位置チェックの
それは他チームとの差別化をはかるうえで香耶乃が打ち出した方策でした。身体のトレーニングと並行して全員が共通する戦術観をもつこと。ヘルムの
「最初の動きだけ私がハンドサインする。そこからは流れ次第ってコトで」
四夏がアンドラ救援では口にしなかったもう一つのポジション、
「全員鼓笛手はあくまで補助的なポジショニングです。長引くほど形を保てなくなりますよ」
「できれば最初の陣形だけで有利にもっていきたいけど、そう上手くはいかないだろうね。形勢不利になったら私か朔っちゃんの判断で
全員の同意を得て状況ごとの作戦が共有されていきます。最後に四夏だけは特別の一策が授けられ。
「
全員のうなずきが応じます。タイム終了を告げる笛の音が響きました。
四夏たちは敵陣クォーターラインから再開。ですがその優位を捨て後退します。
――クラクフのフサリアが
高く掲げられた五本の長斧が、砂塵を上げる
――長槍やマスケット銃を構えた歩兵がどれだけ強固な戦列を作ろうと、フサリアは易々とそれを粉砕した。きらきらしく敵陣をなぎ倒す彼らはときに神の嵐とさえ呼ばれた――
「中止ッ! 散開ぁあああああいっ!」
がむしゃらに振り向いた香耶乃の大号令。散り散りとなる四夏たちの前方で
前三人、後二人が同時に放つ1対5の集中攻撃。単身しのぎ切る超人が存在しない以上、速度で劣る対手にそれを防ぐ
「
後列、ナタリアの号令とともに向きを変える突撃陣形。密集陣の強みは意思疎通の容易さにあるといえましょう。目標は凛。
「上、等……ッ!」
剣をふりかぶり彼女は突っ込みます。衝撃突撃の
黒鎧は低く地を
「あはっ」
「――な」
完全に見切ったうえで上空にかわされるなど想定していなかったというだけ。
両ひざを曲げてジャンプしたプレートブーツが首の後ろを踏みつけ、はね上がった視界の中で浮かぶ雲が奇怪なマーブル模様を描きます。次の瞬間には凛は地面につっぷしていました。
「りっ、ぃんちぃっ!」
「
立ち止まった杏樹に向けられるナタリアの目。我に返った杏樹は転がるように危地を脱しようと走ります。ルール違反ではないとはいえ背を向け逃げるその様に会場からは失笑。
「構わない、そのまま走、れ」
日本側のベースラインにまでなだれ込んだとき。
「いいぞ、ドンピシャ!」
衝撃突撃の後方、ぴたりと張りつくように追随する二つの足音と、横から迫るもう二つ。
「
指示を飛ばし振り向いた瞬間。防御に構えた長柄を迂回する〈はたき切り〉。
「やぁ、あああああッ!」
溜め込まれ、たった今爆発する
「セト――シナツ!」
痛みと嫉妬で
「そういえば前の試合でもやっていましたね。フェイク、ですか」
香耶乃のメイスをかわしてミハウ。
四夏たちの中でも打たれ強い部類の香耶乃。上背とアクターで鍛えられた
「
「いえ、タイミングが合えば踏んだんですが」
凛とてアメリカSCAリーグの体格差に鍛えられています。予想を超えたパティの動きによってダメージを最小限に、とまではいかなかったものの。
「あの女、顔踏んでや、る」
「ははっ行かせるわけもないな!」
巨大な壁となって立ちふさがるアントニー。敵は計三人で後方の守りを固めてみせました。一方で。
「ふーっ、ふーっ」
単身、衝撃突撃という巨大な
「いい目ね。
「
忠告するレオも本気で心配してはいませんでした。ただ、あまりにもことわざそっくりな状況だったので口にしただけ。
「ぜんぜん違うわ、レオ」
ギアが変わったように急加速したパティはしかし、離れ
「あの子は自分で望んであそこにいるのよ」
猫に追い詰められたネズミとは覚悟の度合いが違うと。たとえ
「ちぇえいあああああっ!」
パティとの激突にあわせ一歩だけ踏み出される杏樹の足。攻撃の焦点をズラし自身の間合いへと変える攻防一致の歩法。その
「アナタがシナツの持ち物で、一番重そうね?」
遠心力とともに叩き込まれる
「、」
「――
「ッ……ぁ……」
ぼろりと目からこぼれた大粒の
叩きつけられるのはこれまでと段違いの圧力、殺意。絶対に倒れるものかという杏樹の決意と、その結果おとずれるであろう凄惨な
絶望的な折り合いをつけるのに彼女の戦士としての底はあまりに浅く。
それでも。
「あたしだってっ四夏を持ってるんだからぁ……っ」
訂正させたい言葉がありました。
親友たる彼女の心の一部を占有するのはとても嬉しいことで。けれど大切に
「ァ、ア、ァ、アアアアッ!」
「きぃゃぁあああぁあぁっ!」
削り滅ぼす嵐に悲鳴がのみこまれ、やがて聞こえなくなります。
「杏樹ちゃ――やぁああああッ!」
遠目にそれをみた四夏もまた、一段ギアを上げていました。
薙がれたナタリアのポールを転がるようにスピンしての
「わっ」
「ととっゴメン四夏っちゃん!」
同士討ち。ミハウを振り切った香耶乃は完全にナタリアの死角を狙ったにもかかわらず。
「いいアシストね。奇襲のつもりだった? 残念、全部聴こえてる」
立て直したナタリア。追ってきたミハウも加わったその向こうでブザーがひとつ。クリティカル判定。
フィールド角へ押し詰められぐったりとした杏樹の腋下からレオがダガーを引き抜いたところでした。彼はそれでやっと連撃を止めたパティの肩を叩くと、四夏たちのほうへ向き直ります。
(まずい、考えなきゃ、考え――)
焦りで空回りする頭を冷やそうとやっきになる四夏の肩へ香耶乃が体当たり。
「お願い、四夏っちゃん!」
(……! そうだ、4対5)
事前に香耶乃から授けられた作戦のひとつ。最悪のパターン。先に
弾きだされるように四夏は敵
「あぁシナツ! やっとその気になっ……、……?」
矢のように突進した四夏は寸前、カットを切りました。援護に加わろうと背を向けかけたレオに向かって。
「は……?」
「ぅごふっ、ちょっお姫ぇ、なぁんでブロックしてくれないのさ!?」
剣ごとぶつかる突撃につんのめるレオ。その長い手足にもぐり込むように四夏は接撃を重ねていきます。
「っ、~~~! レオ!」
「いや、ちょっ、それどころじゃ」
「どかないと
「つったってこの子、離してくれないんだもの!」
「だまりなさい
「怖っ、どこのことわざよそれ!?」
効果はてきめんでした。もしものときの作戦は、四夏がパティに仕掛けるフリをして他のメンバーを攻撃すること。二度もないがしろにされればパティも冷静ではいられないはずと。
――もし上手くいかなくても精神的な空白は確実にできるよ。その間に私がもう二人引き受けてあとのメンツで残った一人を狙う。ほんの一時、数的優位は逆転する。
作戦名はともかく。
あとは動揺するレオと激高したパティを四夏が防戦でどれだけ引き付けられるかにかかっています。ちょうどパティから見てレオの影に入るように立ちまわる四夏。
「背中ごと斬るわ」
「ちょぉいっ! だからヤなんだよお姫とオフェンスやんの!」
のけぞったレオの向こうから飛んできた斧刃を間一髪でかわして四夏は深く息を吐きました。
◇
そして――もっとも激しい剣戟は最後の一角から。
巨大な双腕から発された
「やあやぁ、自由騎士殿の右
「っ、
「……」
朔たちが彼に戦力を集中したのはけして倒しやすいからではなく、その逆。たとえ防戦を張ろうがけっして
重なって倒れた二人が起き上がるより早く、返す斧は香耶乃の背へと目標を定めています。飛びつくように復帰した朔がその太い腕へとつかみかかりました。
「むぅん!」
凛がハーフソードに構えた剣を
「やられた、なかなかやるな!」
「……!」
驚くべきタフさにさしもの凛も目をみはります。転がった朔が耳打ちしました。
「二人でかかりましょう」
「心得、た」
◇
両側から打ち付けられる長柄武器。膝を
「ぐぁああっ!」
悲鳴を上げるその頭上を薙いでいくミハウの斧。ふらついた足は力尽きる直前のように一歩、二歩と前へ。
たまたま手をついたと言わんばかりに視界を塞いだ盾を打ち払ってミハウが告げました。
「ナタリアさん、乗せられています僕ら」
「どうりで、グニャグニャするわりにイヤな位置にばかりいると思った!」
通常フットソルジャーはその攻め気でもって相手に目を切ることを許さないもの。しかし香耶乃の場合あと一撃で倒せそうなフリをすることで目的を果たしているのでした。体幹をわざとグラつかせる受け方はさながら時代劇の斬られ役のよう。
「ものごとの
ミハウの重心がわずかに沈み、合わせて香耶乃も盾を下げます。途端、彼の姿が消失。
「左腰を痛めていますね」
「っ……!?」
盾の影に
(まだ戦って数分だけどなー。数合わせか隠し玉かと思ってたけど後者だこりゃ)
振りまわした盾でかろうじて斧刃をしりぞけて香耶乃は一歩だけ後退します。
「あんましっ待たせないで、よっ、朔っちゃん……!」
◇
朔は
そうすることで自分にアントニーの注意を集め、ダガーを折られた凛の攻撃機会をも増やそうという算段。ただ。
「っ、こ、の……いい加減!」
脚裏、頭部、
「さて怖いものだな。だがそのナイフでは俺の間合いに入れまいな?」
羽虫を払うようにポーリッシュアクスを振りまわしつつアントニー。言う通り、
「どうにか似たような事をやれるかどうか……いえ」
差した魔をふりはらいます。勝ち目の薄いギャンブルはむしろ相手に好都合。時間がないとはいえ焦れば勝機自体を潰しかねないと。
「はあっはあっ、ィァあッ!」
横あいから殺撃をふりかぶった凛が柄による打突を受けくの字に屈みます。その様子に朔はひとつの決断をしました。
◇
自分の斬撃が、衝撃が目の前の巨影の芯にまったくといっていいほど通らないのを凛は感じていました。
(大きくて、重い)
単純残酷な壁の名は質量差。たとえば頭蓋骨ひとつ取ってもその分厚さと
(どうすれば――)
プレートの隙を狙うもそれすらどれだけ効果があるものか。自分たちはオフェンスで、守勢の四夏や香耶乃がつくった時間を食い潰しているという事実が気をはやらせます。
(――四夏)
これはまるで前の試合の再現。体格で勝る趙天佑に圧倒され、四夏に文字通り犠牲を
(四夏、なら)
手も足も出ずダウンした自分が見続けることになった四夏と趙天佑の戦い。
「なに
飛び込んだアントニーの斜め後ろで手首が強く引かれました。
「っ……な」
振り向けば間合いの外縁を回り込んできた朔。合流などすればまた二人いっぺんに薙ぎ払われる危険も承知の上で。きつく肩が抱かれヘルム同士が触れ合います。
「作戦です。陶先輩が頼りの。捨て身で相手の
「なにを勝手、に――ッ」
兜ひとつ越しの大衝撃。
振るわれたポーリッシュアクスが朔の頭部を横打ちにしていました。防御に立てられた野太刀がぐにゃりと曲がり、
「ぐっぅ」
凛もまた
(何を……)
不貞腐れている? 自分が? 何に対して?
自問と
(……私は四夏のようにはできない)
そもそも上背のある四夏とでは戦型が異なるのは当然のこと。
「むうん!」
振ってくる斧刃。それに
「くお!」
ほぼ金的に近い腰骨での体当たり。本能的に腰を引いたアントニーのあご下、ヘルムと頭部を繋ぐレザーベルトへ凛は指をねじ込んでいました。
アントニーの後頭部へかかる凛の全体重。自ら後ろへ倒れこむ捨て身投げ。
それでもなお。
「はあっ、はっはっはぁ……ッ!」
宙づりのまま静止する凛。首と背中の筋力でもってもちこたえたアントニーは大笑。
「注文通りです、さすが」
瞬間、きらめく鎧影が仰向けになった凛の視界をおおっていました。
すわ砲の着弾かと間違うほどの撃音。グワリと掴まった凛ごと持ち上がるアントニーの
かつてキックの鬼と呼ばれた格闘家が得意とした、自身の全質量と脚力・加速力を一点に集中させる人間砲弾。
――真空
「ばアッ、は……ッッ!」
決め手は和甲冑ゆえの
地面へ落ちた凛にかぶさるように巨体が倒れます。意識を失ったその
「手を貸します、さあ」
「ん……ご苦労」
下敷きから引きずり出されながら朔の顔を見上げます。
「……?」
何が作戦か。自分が偶然ぶら下がったから良かったものの、噛み合わなければどうするつもりだったのか。そんなギャンブルを楽観的にうってみせた胆力も含めて。
「どこかの軍師に似てき、た」
やっかみ半分の
「それは、不本意ですね」
「二人とも、はやーく!」
香耶乃の悲鳴。言われるまでもなく駆け出していた朔がナタリアへと突っ込み、凛もまた周囲へ目をはしらせたその時。
「凛ちゃんッ!」
四夏の絶叫。振り向けば目前、パティのポーリッシュアクスが迫っていました。
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