18.結成

 翌日の放課後。

 昨夜は終電間際で帰ってきたスタジオ組に気をつかって、もろもろの報告は今日に回すことになっていました。


「いやーきのうはトラブル続きだったねー」


 部室へ入ってくるなり朗らかに香耶乃かやのが言い放つと、むずかしい顔でテーブルを見詰めていたさくがべしゃりと脱力。


「三木田先輩がいうんですか、それ……」

「むしろ私だから、みたいな? なんだよぅ、私だって被害者なんだからぁ!」

「その話し方やめてください」


 ジトッとした恨み目に香耶乃はむしろ安堵したように肩をすくめると、同じくテーブルを囲む四夏、杏樹あんじゅをも見回して言います。


「でもね、落ち込むほどじゃない。いつだって私は良い報せを持ってくるのさ!」


 突きつけられたタブレットには四夏たち【三つ編み騎士団オーダーオブブレイズ】のSNSアカウント。


「ひとつめ、昨日の放送だけどまあまあ好評。少なくともフォロワーはプチ跳ねくらいに増えたよ。現在4000人、はい拍手」


 おー、とノリを合わせたのは四夏ひとり。


「あ、あたし後半ボロボロだったけど、ほんとに?」

「出来る限りのことはしたつもりですけど、とても上出来とは」


 実行した当の二人は半信半疑といった反応。


「そこはそれ、花の女子高生フィルターってやつでさ。もともと競技自体は日本のネットカルチャーと相性がいいんだ。派手だしゲームっぽさもあるし。広く電波に乗せられた時点で半分は成功なの。内容だってそう悪くなかったよ」


 感想のコメントはおおむね好意的で、朔たちへというよりは競技そのものへの興味が先行しているようでした。三人に言及したものは一部の心ないものを除き、りんへの称賛と驚きが一番多い様子。


「いやー彼女、救世主だったね。キャラは強いし英語もペラペラ、おまけにクール系美女なんてケガの功名? むしろあれがベスト? っていうか、あっ待って怒らないで! 反省してるから!」


 きっと眉をはね上げた朔に平謝りの香耶乃。寸でのところで座り直した朔は続きをうながします。


「いいから早く次を言ってください。まだまだ明るい気分にならないと練習になりません」

「朔っちゃんもそんな冗談言ってくれるようになったんだねぇ。じゃーパッパッといこうか。ホヤホヤの速報だ。なんと日本チーム2勝目!」


 これにはわあっと色めき立つ三人。

 スワイプされたトーナメント表には確かにJAPANの文字が残っていました。


「今日の午後の試合に勝てばセミファイナルだよ。相手はウクライナ」


 一転、あぁー……と誰からともなく交わされる視線。

 ウクライナといえばロシアやアメリカと並ぶかそれ以上の強豪に位置するアーマードバトル大国です。そのスピードと多彩な騎士のキャラクターは多くのファンを惹きつけてやまないまさに競技の顔、アイドル的存在。


「まーまー! 先輩がたには頑張ってほしいねってことでさ!」

「ですね」


 無難なところで香耶乃と朔がうなずき合う横で、事情を知らない杏樹がほかのブロックを指さします。


「じゃあじゃあ、もし準決勝であたるならここ? Bブロックはスペインと……ポーランド……」

「「…………」」


 やってしまった表情で固まった杏樹とほか二人の視線が四夏へ集中しました。


「へ、え? なに、みんな?」

「いえ……」


 言いにくそうにする朔に代わって香耶乃が反らした人差し指をこちらへ向け。


「まあ先の試合はおいといて。四夏っちゃんは何でずーっとカッコいい顔してるわけ?」


 ぺた、と思わず頬をさわる四夏。


「わたし、カッコいい?」


 目をそらした杏樹をのぞきこんで訊ねると。


「あー……うん、まあ、ちょっといつもと雰囲気ちがうかなって」

「というより張りつめてる感じです。おなかでも痛いんですか」


 朔にまで言われて無理やり頬をひっぱり上げます。


「えへへ、そうかな、自分じゃよくわかんないけど……」


 半分は嘘。自覚はなくとも原因に心当たりはありました。

 なんとなく察されているような気配はあるものの、自分から口にするのははばかられ。


「えっと、早く身体を動かしたくて」

「おおーやる気だねぇ。そんな四夏っちゃんに良い知らせのみっつめだよ」


 誤魔化しにすんなり乗ってくれた香耶乃が指を三本たて、朔へと視線を流します。

 まだ何か問いたげな朔はしかし、リーダーの顔になると切り出しました。


「そろそろ実戦練習を含めたメニューを始めようと思っています」


 ぴくっと身をこわばらせたのは杏樹。


「鉄のブーツがネックでさ。体育館はダメだったんだけどグラウンドに練習スペースを貰えたんだ。創部前だけど大会出場実績があったのがきいたね」


 補足した香耶乃へ杏樹は思わず、といった感じでたずねます。


「そ、れって、鎧を着て戦ったり……?」


 答えたのは朔。


「最初は重装備での運動や受け身からになりますけど。ゆくゆくはスパーリングもやっていきます」


 杏樹の顔がみるみる蒼白になっていくのを四夏はハラハラしながら見ていました。幼稚園時代の勇ましさはなりをひそめ、今の彼女は試合を見ただけで参ってしまうほどの小心です。


「あのね杏樹ちゃん――」

「たのもう」


 言いかけたその矢先、部室のドアが開きました。同時ひびいた幽かな声。

 細身のジーンズに白無地のシャツ、背中のナップザックまである黒髪をかきあげて部室を見渡したのは。


「アーマードバトル部、でいいの、ここ」

「凜ちゃんっ?」


 件の救世主、四夏と杏樹の幼なじみでもある陶凜すえりんちゃんでした。

 いどむように部室を見渡した視線が四夏のそれとぶつかった瞬間、ぷいと逸らされます。


(あれっ、ひょっとして忘れられてる……?)


「入部、しにきたんだけど」

「おおー五人目! ……っと、えっと、あっちゃんの知り合いなんだよね?」


 身を乗り出した香耶乃でしたが、微妙な表情をうかべた朔を気遣ってか話をそらします。朔が勧誘を続けていた山村さんからはいまだに色よい返事がないのでした。


「うん、あたしと四夏は幼稚園でいっしょだったんだ。……りんち、やっぱりここに入るんだ?」

「杏樹、昔から人の話をきかない。その人聞きの悪いあだ名は今すぐやめて」


 凛は出迎えた杏樹をむっつりと押しのけると四夏たちの前へ。

 入部届けが丸テーブルの上へ差し出されました。


「たしか、あなたが部長さん」

「あ、はい、そうですけど……」


 立ち上がった朔がプリントに目を落とします。

 大人びた筆跡ひっせきで埋まった記入欄にはたしかに、四夏とは離れたクラスの担任のサインがありました。近日中に転入してくるらしい、という杏樹の噂は本当のよう。


寡兵かへい、と、きいた」

「かへ……えと、確かに人数は足りてませんが」

「助力、する」


 薄く中性的な唇を最低限に動かして言うと切れ上がった目で朔を見つめます。

 気圧されたように黙り込む彼女へ香耶乃が助け船をだしました。


「どうしようね、別にあとから増えても困りはしないと思うけど」

「いえ……あの、理由を聞いてもいいでしょうか?」


 立ちなおった朔の問いに凜は迷いなくまっすぐに。


「困った人を助ける、それが私の騎士道」

「っ、もしかしてアーマードバトルの経験が?」

「アメリカのSCAで戦った。カリフォルニアの零式艦上戦闘機ゼロ ファイターとは私のこと」


 ふんすと薄い胸が張られたのを、


(あっ今のりんちゃんっぽい)


四夏は昔の名残に感じてほっとします。


「経験者かあ、渡りに船だねえ」


 香耶乃の感想に朔は眉根をよせて考えたあと、やがて決意した様子で凛を見返しました。


「あの、陶先輩」

何用なによう

「実は五人目の候補はもう一人いて……アタシとしてはその子を待ちたい気持ちもあるんです。でも一刻も早く人数を揃えるのが正しいとも思ってて」

「……補欠、六人以上でチームを組む方法は?」


 凛の提案に杏樹が消え入りそうな声をあげます。


「ぁ、あのっ」

「難しいです。最後の一人が埋まればもう一人はきっと来ないでしょうから」


 けれど朔にさえぎられた言葉はそれ以上続かず。


「……すみません。身勝手を言っているのは分かっています」

「当然。だれしも見ず知らずの他人より信頼できる知り合いが欲しい。それで、どうしたらいい?」


 気を悪くした風でもなく淡々と凜。

 朔がそれを見返しました。


「もしできるなら、あなたを知らせてください。一手、試合を」

「よかろう、よかろう」


 目を細め腕組みした凜は鷹揚おうようにうなずきます。



 道具一式をもって、五人で香耶乃が許可をもらったというグラウンドへ。


「グラウンド……グラウンドですか、ここ?」


 200Mトラックのある運動場の、用具入れと校舎のあいだ。校舎にそって細いセメントの通り道がしかれ、それは隣の技術棟へと続いています。

 香耶乃が示したのは幅数メートルほどある土の地面。


「もちろん! 書類にも第四グラウンド倉庫ウラって書いてあるし!」

「いや、通路だよここ。技術選択の子たちがここ歩いていってるよ」


 四夏のつっこみもどこ吹く風。


「大丈夫だって! 練習中は通行止めにしていいって言われてるから。ていうか必ずしろって言われた」

「そりゃそうだよぉ」


 杏樹が不安げに周囲の目を気にしつつ同意します。とはいえ放課後の今、通る人もいないここはちょっとした空白地帯のようでした。


「でもここ、ちょっとモンアルバンに似てる気がする」


 あたりを見回して四夏。

 技術棟からはみだした工作機械や金床、グラウンドから追いやられたタイヤやトンボに囲まれた小さな修練場は、並び立つ倉庫群にあるお城を思い起こさせます。かつても何がしかの部活に割り振られていたのか、見慣れないコートラインが地面に打ちつけられたままになっていました。


「……まぁ贅沢はいえません。剣が振れるだけでもよしとしましょう」


 気を取りなおした朔が部室から運んできたスポーツバッグを置きました。ドズンと重い金属音が響きます。凜も同様に背負ったザックを下ろし。

 セメントの通路の前と後ろにカラーコーンを立て【部活中・キケン】と張り紙をしておきます。

 鎧を着け、比較的広い場所で二人は向き合いました。


「ルールは?」

「そちらに合わせる、けど、手加減は、下手」


 朔は練習用の、装飾をはぶいた簡素な和鎧。対する凜は昨夜の放送で抱えていた黒鉄のヘルムを被っています。細身にぴたりとハマった同色のプレートメイルはモンアルバンの金庫番、野木女史をほうふつとさせました。


「なら、頭胴3点手足2点のスリーポイント先取で」


 細く十字に目窓のあいたヘルムがコクリとうなずくと、黒鉄に覆われた長い手足が低く重心を落とします。


「――私たちの名誉にかけてオン ユア オナー


 同時、するすると手にしたロングソードの刀身半ばまですべる左手。


(ハーフソード……!)


 色味を増していくかつての記憶。そう、たしかあの頃も凜ちゃんはあんな風に。けれど四夏の目にその構えははるかに洗練されて映ります。

 対する朔は正眼せいがんに太刀を構えました。


「…………」


 武器の間合いでは凜が勝るものの、ハーフソードの形をとればその優位は失われます。必然ふたりの間合いは朔の太刀が届かないギリギリを保つことに。

 スッと朔が剣先を下げてさそうも凜は微動だにせず。

 ならば、と上段上向・八相構はっそうがまえへと移行した一瞬の隙間に、凜が踏み込んでいました。


「っ」


 一拍おくれて振りおろされる太刀。

 受けたハーフソードはそれを外側へ押しらすと同時、剣先を朔ののど前へともぐりこませます。

 二人のシルエットが重なったとみえた直後、


「うっく!?」


朔があおむけに吹き飛んでいました。


鍵戸破りピッキング!」


 四夏はかつてお父さんの書斎でみた図解を思い出します。敵の剣をおしのけ入り身して、相手の後ろへ踏み込むと同時に喉を押しこむ崩し技。

 ちらり、と凛の目窓がこちらを向き、また戻されます。


(え……?)


「ダウン、は」

「……3ポイントです、もう一本!」


 即座に立ちあがって朔が構えなおしました。

 さきとは違って初めから八相構え。上からの斬撃はロングソードを持つ両手の間で火花を散らします。

 ハーフソードの強みはリーチを捨ててまで得るその『かたさ』。両手から体幹に直結した刀身はもはや剣の盾といっても過言ではありません。

 またも太刀は逸らされるかとみえたその時。


「ッ、ヒット!」


 凛がたたらを踏んでいました。上段より仕掛けたかに見えた朔の刀は、かすかな刃鳴はなりを響かせたあと中段半身はんみへと引きつけられていたのです。間髪かんぱついれずの刺突。

 腕を盾にそれを防いだ凛は、ふらふらと胸の前に剣を構え。


「やあーッ!」


 面頬めんぽおごしにも高く響く気声がその隙を追いました。ロングソードの先端をにぎる凛の左手を狙った打ち。

 凛はさらに大きくよろめいてかわすも、形勢は明らかとみえたその一瞬。


「――眩まし痺れさせる物Schlachenden Ort


 凜の剣の刃をすべります。をにぎった両手の間で朔の剣を受けた凜の身体が、踏み込みと同時に反転。

 梃子てこのように跳ね上がるロングソードの十字鍔クロス

 鉄ごしらえのそれは、あやまたず朔のこめかみを弾いていました。


「――――!」


 真横に倒れ込む朔の身体。

 ハンマーのごとく振り抜いた逆さ剣をかつぎなおし、凜はそれを見下ろします。

 四夏の隣で杏樹が小さく悲鳴をあげました。


「殺撃……!」

「ひえーあんなのアリなの? で、それって何?」


 思わずこぼした四夏に香耶乃が食いつきます。


「古い、現代いまじゃほとんど使われない騎士の技だよ。ルールで禁止されてたり有効じゃなかったりして」

「日本の古流剣術みたいなものってこと?」


 戦場ではむくりと起き上がった朔がかぶとの向きを直したところ。


「ごめん、武器の有効部分をきめてなかった」

「……っいえ、お見事、です」


 ずれた面頬をはずして立ち上がると鎧についた土を払います。


「激しい剣ですね。どなたかに教わったものですか?」

再現派リエナクトメントは【泉の騎士団】、プロフェッサー・フィックが私の師匠」


 こともなげな答えにその目が大きく見開かれました。


「……もしかしてヒュー・フィック氏のことですか? 再現派第一人者の?」

「そう、私は教授プロフェッサーの主催する勉強会の生徒だった。今はもうやめたけど」


 杏樹がおずおずと手を挙げます。


「えっとその、リエ……ってなに?」

「スポーツとしてというより、歴史上の戦闘技法や精神を甦らせることを目標にする人たちのことです。最も原初的な会派で、標榜ひょうぼうする団体も武闘派から学術系まで様々です」


 モンアルバンが所属するIMCFも元をたどれば再現派の模擬甲冑戦闘から別れたもの。


「【泉の騎士団】は学術寄り、でも、教授自身はとても強い戦士」


 黒いヘルムの十字目窓がこんどこそハッキリと四夏をとらえます。


「それに、私も。たぶんこのなかの誰より強い。それでも、世界の壁は高くて広い」


 その言葉は堂々として少しの虚飾もうかがえず。


「私が【泉の騎士団】をぬけたのは、その目標に意味があるのか分からなくなったから。会って確かめたかった、四夏に」

「わ、わたし……?」


 すっかり忘れられていると思っていた四夏ははじめて名前を呼ばれドキリとします。


「四夏はどうして騎士を目指すの。今の世界で、それにどんな意味があるの」


 投げかけられた問いは偶然にも四夏が抱えていたものと同じでした。面食らいながらも、真剣な凛の口調に聞き返すこともはばかられ。

 しばし言葉を探したあと、四夏はとつとつと話し始めます。


「えっと……子どもの頃、わたしは騎士道物語が好きだったの」


 シャルルマーニュの勇士たちに、円卓の騎士。寝物語にお父さんが聞かせてくれた勇ましくときに可笑しい冒険譚は、しぜん四夏の心を惹きつけていきました。


「しってる」

「うん、でもね、そのうち冷めちゃって。こんなこと現実にはないし、皆から浮いちゃうし、マネしたって良いことないって」


 ちょうどそれは朔がモンアルバンを去ってすぐ。けれどカウントダウン自体は小学二年生のあの時から始まっていたような気がします。

 黙って耳をかたむける凛。


「……正直今もそれは変わってないかもしれなくて。意味はないのかもしれないけど」


 朔が物言いたげに睨んできます。いつもは肩身を狭くするばかりの視線は、ぐずぐずになりかけた四夏の心を縛りつけて元の形に戻してくれるようでした。


「でも、わたしたちにとっては意味があるんだ。誰かのためだったり自分の目的のためだったり、中身はそれぞれ違うけど」


 にごした言葉はしかし、朔によって引き継がれます。


「アタシは、祖父のつくった鎧を世界に披露するために」

「私はまー、勝つこと自体が目的っていうか? あとははく付けかな、アクターとしての」


 香耶乃までが乗っかると、慌てたように杏樹が口を動かします。


「あっあたしは……つ、強い気持ちをもちたくて……」


 消え入るような言葉尻をはげましたい気持ちをぐっと抑えて、四夏は凛へ向き直りました。


「騎士道じゃない、自分の決めた道のためにわたしたちは騎士になりたいんだ」


 たとえ時代錯誤じだいさくごでも、確かにそれぞれが求める何かがそこにある。今ではそう思えます。


「……四夏は」

「え」

「四夏の道は、なに?」


 たずねられ、はたと考え込む四夏。

 きっかけは朔の助けになりたかったからでした。自分を変えたいといった杏樹の背中を押したかったからでした。その気持ちは今も変わらず、でも。

 陽光に透けるような金色と、揺れる十字のきらめきが脳裏をかすめます。


「……みんなと仲良くすること、かな。もっといい方法があるかもだけど、強くなきゃ伝わらない言葉もあると思うんだ。だから」


 行かないと、行くべきだ、という思いが強く胸にあることにこの時はじめて気付きました。

 ガチャリ、と四夏の手をとる黒鉄のガントレット。


「よかった、四夏は変わってない。昔から。私、四夏のそういうとこ好き」

「へ……いた、いたた」


 プレートの継ぎ目は内側に対しては細心の注意でカバーされているものの、外側についてはその限りではありません。力いっぱい握られるとあちこちに手の肉が挟まれてギリギリ笑顔を保てないくらいの痛みがありました。


「ずっとガマンしてた、けど、限界」


 熱っぽいつぶやきと共にフルプレートメイルが目の前で大きく腕を広げ。


「会いたかった、私の王子さま……!」


 ぎゅうううううっ


「あぁだだいたいたぃたい!」


 いきなり抱きつかれた四夏はパンパンとその背中をタップするも、凜はおかまいなし。


「……王子様ぁ?」

「やーほら、今日の四夏っちゃんに限っていえばまぁシリアスだし?」


 朔が胡散げに眉をひそめると、面白がった香耶乃がフォロー。


「うわぁん体じゅうにあとついたぁっ」


 からくも抱擁ほうようを脱した四夏をかばう位置へ杏樹が割り込みました。


「ちょっと、乱暴なことしないでよ!」

「ごめん、感動の再会。ふう……それで」


 やりきった表情でヘルムを脱いだ凜が朔をみます。


「どう、わたしは。必ず力になれる、けど」

「……そうですね」


 問われ、朔は迷いを断つように一度つむった目を開けて全員を見渡しました。


「すみません、アタシのわがままに付き合わせてしまって。ぜひ一緒に戦ってください」

「承知、した」


 凛はその場で左足を引くと頭を低くします。


「陶凛。推しは四夏、友情から人生のパートナーまで対応可。愛と義によって助太刀しよ、う」

「待ってください考え直します」


 ささいな物言いがついたものの、ここに五人のチームメイトが集まりました。細長く高い空へ熱い風が吹き上がっていきます。


 



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