学園魔法アカツキ
桃月ユイ
図書室の亡霊編
第一章
ただ、今までとは違うような出来事に出会いたかった。
そんな単純な理由で、
「亜華音は望みが高すぎると思うけど」
亜華音の友人、
「そんなことないよ! 美鳥だって思ったことない? 『 脱、平凡!』 って」
「ない。別にこういう毎日でも十分よ」
「えー。美鳥って意外と寂しい子なんだー」
「さらっと失礼なことを言うのね、この子は……」
美鳥が眉を歪めて呟くが、亜華音は聞こえていないようで軽やかな足取りのまま美鳥の一歩先を歩いていた。彼女たちが向かうのは、放課後の図書室。
「亜華音、本当に会いたいの?」
「もっちろん!」
にっと歯を出して笑う亜華音。そして、その笑顔のままで図書室の扉を開けた。
夕暮れ時の図書室。誰もいない静けさに包まれた室内には、夕日の濃い橙色だけが明かりを灯していた。
「どう? 見つかりそう?」
「うーん……」
問われた亜華音は目を凝らして室内を見るが、何も見当たらない。と、思ったときだった。
「あ!」
美鳥が声を上げて、人差し指を図書室の奥に向ける。慌てて亜華音は美鳥の隣に立ち、同じ方向を見る。
「え、いた?! 見えた?!」
「あ……いや、一瞬それっぽいのが見えた気がしたけど……」
指を引っ込めながら美鳥は亜華音に言った。亜華音は表情をむっと曇らせたが、すぐに大きく息を吐いて肩を落とした。
「あーあ……。やっぱり、私には見えないのかなあ……」
「普通幽霊って人に見えないものでしょ? そんな簡単に見えないって」
「とか言いながら美鳥は見たくせにー」
「まあ、そう言われたらそうかも、だけど……」
ふて腐れるような亜華音の横で美鳥が苦笑いを浮かべた。
暁翔学園には、有名な噂がある。
『夕暮れ時の図書室には亡霊が現れる』
いわば七不思議のようなものであるのだが、この亡霊を目撃する生徒がとても多いのだ。二ヶ月前に入学してきた一年生のほぼ全員がその亡霊らしき影を見たというのだ。ただ、それが『全員』にならないのはたった一人、目撃していない生徒がいるためだったが。
「なんで私だけ見られないの? そんな不公平な幽霊なんて、聞いたことないよ」
ほぼ毎日、放課後になれば図書室に向かっている亜華音だったが噂の亡霊らしきものは一度も見たことがない。
「私がこの学園にきたのはこのためなのに! 何が何でも亡霊さんを見るんだから!」
歩幅を大きめに、亜華音は図書室に向かう。一歩一歩進む足音は力がこもってやけに大きく聞こえるような気がした。
「……あれ?」
亜華音が進む先、図書室の扉の前に二人の生徒の姿が見えた。一年生の校舎では見かけない姿に、先輩だろうかと亜華音は首を傾げた。
「こんな放課後に、先輩も……亡霊探しかな?」
そんなことを呟いている間に二人は図書室に入り、扉が閉ざされた。亜華音もそれに続こうと、図書室の扉を開けた。が、
「……あれ?」
そこには、誰もいない図書室が広がっていた。差し込む夕日だけで照らされた室内は、薄暗かった。
「先輩たち、どこか行ったの? でも……」
図書室の出入り口は一つだけ。窓は閉ざされていて、カーテンは一切揺れていない。
「先輩? いらっしゃらないですかー?」
亜華音が室内を歩きながら声をかける。奥の本棚へと向かうが、人がいる様子はない。カウンターの裏ものぞいてみたが、やはり先ほど入っていった生徒の姿はなかった。
「まさか、さっきの二人が『図書室の亡霊』?」
呟いてみたものの、『図書室の亡霊』が図書室の外の出ているという噂は聞いたことはなかったし、二人もいるという話もないはずだった。亜華音はうーん、と唸りながらぐるぐると図書室の中を歩き回る。
――その時、鐘の音が図書室の中に響き渡った。
「え?」
学校のチャイムとは違う鐘の音に、亜華音ははっと目を見開く。今までこんなに大きな音が鳴っていただろうか、どこから鳴っているのだろうか、などと思いながら亜華音は腕時計を見た。
「今何時? 鐘が鳴るような時間……?」
亜華音は、自分の腕時計を見て言葉を失った。腕時計から針が消えていたのだ。
「何これ、どういうこと……?」
亜華音が腕時計から顔を上げると、周りの風景が一変していた。
どう見ても図書室ではないその空間には、本棚どころか建物らしきものは一切なかった。足元も木張りの床ではなく砂漠のようなさらさらとした砂になっていて、周りは夕陽――ではなく、天上に浮かぶ真っ赤な付きで赤く染まっていた。
「……ここ、どこ?」
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