魔物の子ども、育てます。◆世界を救ったそのあとに◆

ガハラッド

第0話 幸せに暮らしましたとさ。


 十年くらい前までは、魔物と人間と、そりゃあひっでぇ争いをしていてな。


 王都近辺は、結界の魔法だの、王城付きの精鋭の兵だの、整っちゃあいたからよ。だがアンタ、ちょっとはずれの村に行ったら、ひでぇありさまだったぜ。ボロボロの柵は魔物除けの役割も果たしてねえ、形だけのもんだ。ヒトも家畜も、みんな枯れた木と見分けがつかねえんだもの。

 何が悪いって、魔物ってのはよ、人間とおんなじもんを食うんだって。いっちばん襲われたのは、街道を通る荷馬車だったとさ。商人はみぃんな震え上がっちまって、端っこの村にゃあ、パンの一切れも届かなくなったって話だ。


 さて王様としちゃあ、交易が止まっちまうのも困るが、自分とこを守る兵隊さんを減らすわけにもいかねえってんで、有志で魔物の討伐隊を募ってだな。商人の護衛をさせるようにして……キャラバンっちゅうんか? ま、そういうのを募ったんだよ。すると、そっから腕っぷしの強えのや、度胸の据わったのも、当然出てくるわな。

 そうそう、“勇者”サマも、元はキャラバンの出っていう話よ。若ェのに、よく知ってるな、アンタ。隊商に入って、いろんな領地に赴いては、志高き同士ってやつを探したのよ。王都の学院の主席やら、敬虔な修道女やら、果ては遺跡荒らしにまで声かけたっつぅんだから、なりふり構わねえもんだよなぁ。ともかく、そういうのを集めて、魔物を根絶やしにしてやろうってんで、王様からも援助もらって旅に出たんだ。似たような輩も後追いで数え切らねえほどに出てきたが、ほとんどは援助金目当てだったか。だがまぁ、魔物を世界の隅っこに追いやるには、数合わせのぼんくら共でも十分役に立つわな。

 結局、魔物の王様を倒して帰ってきたのは、そのはじまりの勇者様ご一行だった、ってわけよ。


 その後は、アンタも知ってのとおりさ。三年前のパレードは、この辺りに住んでいたなら、さすがに見たことあるんじゃねえか?


 世は天下泰平、ひもじくて黴の生えたパンを齧る子どもなんざ、もうどこにもいやしねぇ。時折、お目こぼしもらった魔物のガキが、居酒屋の裏で残飯漁ってるがね、こっちからちょっかい出さなきゃ、向こうもまあ、おとなしいもんだ。


 あ? 変なこと聞くね、アンタ。


 ……さあて、なぁ。路地裏で見かけた、ってやつもいるが、好き好んで探そうとするこたぁねえし。今どこにいるか、ってのは、ちょっとなぁ。

 いや、悪いこたぁ言わねえ、興味本位で探すのはやめときな。どんな病気もってるかも、分からねえんだからさ。




 おい、ちょっと、アンタ! 釣りを忘れてるって!


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