BirthdayPresent

さくら

BirthdayPresent


ぼくはまだ浅はかな夢をみていただけかもしれない。冬の訪れを感じさせる鮮やかな街で、ぼくは一体何をしているのだろうか。ただ一人ぼんやりと赤色の光を眺めていた。再び歩き出した時、それまで確かだった足が、急に頼りなくなった。一体全体、何が原因だというのか僕にも分からなかった。でも確かにぼくの足は、再び止まろうとしていた。漸く進み出せたというのに。


「ただいま」

「あっおかえり〜。いま夕飯作るね!」

「今日は早く帰ってたんじゃなかったのか」

「はは…ごめんごめんすぐ作るから!お風呂先入っといて!」


学生の頃から付き合って、もう5年。大学卒業と同時に一緒に住むようになった。彼女の周りには結婚する友達にも増えているようだ。この頃妙にそわそわして、会社に行くだけなのに、やたらおしゃれしているように思う。彼女に聞いても、「営業が可愛いと仕事受けたくなっちゃうでしょ?」と笑われるだけだ。


「いただきます」

「どう?美味しい?」

「うん」

「今日ね、チーフがね…新しい仕事任せる!って言ってくれたんだ〜」

「そっか」

「何それ?もっと喜んでくれると思ったのに」

「はいはい、おめでとう」

「もう…ホントに冷たい…」

何が冷たいだ。君が喜んでるのは、仕事を任されたことじゃなくて、そのチーフに認められたってことだろ。一緒に仕事できるってことだろ。毎日嬉嬉として遅くまで電話してることは知っていた。ぼくとの時間よりも…ずっと長く、一緒にいる、話している…ずっと…ずっと…。もうとっくに気づいていたのに黙っているぼくは最低なのだろうか。


「おかえり」

「ただいま〜。あれ〜もう帰ってたの〜」

「もう…って今何時だと思ってんだ」

「えへへー。チーフがね」

おいおいまたその話かよ。どーせさっきまで一緒に飲んでいたのだろう。ぼくだって君に話したいことが、沢山あるんだが…

「はいはい。明日はどっか行くのか」

「うーん。あしたゎーどこにも行かないよー」

「そっか」

「どーしたの?なにかあるのー?」

「いや特にはないんだ」

「ふーん。変なのー」

ぼくはついに決心した。特に行くあてなどない。だけどもう限界だ。明日あすの朝彼女が目覚める前にこの部屋を出よう。

これがぼくの『アイノカタチ』だ。


参考

ぼくの憂鬱と不機嫌な彼女/AAA


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