第94話

 半年が経った。


 リオデジャネイロのアントニオ・カルロス・ジョビン国際空港の到着ロビーで、泰佑は希久美が出てくるのを心待ちにしていた。

 泰佑は、JOCの仕事で次回オリンピックの開催地となるリオへ赴任しているのだ。もっとも、なぜ遠いリオへの赴任に自分が選ばれたのかに関しては、希久美の義父の影響があることは容易に想像できた。

 やがて、サングラスをかけた希久美が凛とした歩調で出てきた。あいかわらずカッコいいな。泰佑はその姿に見惚れていた。


「ようこそ、リオへ」

「さすがに24時間の旅は身体にくるわね」


 希久美は、サングラスを外しながら泰佑の歓迎の言葉に答えた。


「久しぶりに見ると、オキク、綺麗になったな」

「なにが久しぶりよ、毎日スカイプしてるじゃない。長旅でむくんでるんだからそんなに見ないで」


 そう言いながらも、希久美もまんざらではなさそうだった。


「お疲れのところ申し訳ないが、付き合ってくれないか。荷物はアシスタントに家に運んでもらおう…。荷物はどれ?」


 希久美は、山もりの荷物を指し示す。


「ちょっと多すぎない?」

「女の旅は、こんなもんなの!それにおばあちゃんから頼まれた物も入ってるしね」


 泰佑は同行してきていた現地のアシスタントに、希久美の荷物を指示する。


「Bem-vindo esposa !(ようこそ、奥様!)」


 アシスタントは、希久美にそう言うと、苦労しながら荷物を運んで行った。


「ねえ、泰佑。彼なんて言ったの?」

「えっ、まあ、ウエルカムって感じかな」


 希久美は視線を合わさず答える泰佑に、妙なよそよそしさを感じた。

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