第18話

 希久美はホテルのベッドの上で目が覚めた。


 希久美は昨夜の記憶をたどったが、どうも乾杯のあたりから思い出せない。どうやってこのベットにやってきたかが思い出せない。希久美は室内を見渡して、枕元に一枚のメモを発見した。


「まずいカクテルご馳走さま。あらためて嫌われている自分がよくわかった」


 結局10年経った今も、希久美はあの日と同じように乱れたベッドにひとりでいた。ただ違っていたのは、部屋は明るく小奇麗なホテルのツインルームで、希久美は服を着たままだったということだ。

 石津先輩は、今度は希久美に何もしなかった。ほっとした、恥ずかしい、悔しい、そして訳もわからず無性に腹が立つ。様々な感情が入り混じり、二日酔いの頭痛とミックスされて、起きたての希久美の頭を混乱させた。

 なんでこうなるの? 希久美はひとり残されたベッドの上で、また声をあげて泣いた。石津先輩に泣かされたのは、これで3回目だ。


 PCのウェブカメラを使ってグループチャットをしている3人は、それぞれに夜のお手入れに余念がない。

 テレサが、フェイスパックのずれを気にして、口をなるべく動かさないで言った。


「オキクもドジね。薬入れたのバレちゃうなんて」


 小さな綿で顔に美白水をしみ込ませながら希久美が答える。


「我ながら情けない。なんでバレたのかわからないわ」


 ナミは濡れた髪にタオルを巻き、足の爪にマニキュアを指してため息をつく。


「もう警戒してオキクのおごりは口にしないわね」

「でも、またヤラレなくてよかったわよね。これでヤラレてたら10年前と何の進歩もなかったってことだもの」


 無神経なテレサの発言に、ウェブカメラ越しにナミが目をむく。希久美のがため息混じりに、テレサに応える。


「悪党も大人になったのか、それとも私の魅力が衰えたのか…」


 綿を放り投げて、希久美がふたりに訴える。


「ねえ、この先どうその気にさせたらいいと思う?」

「復讐を断念するわけにはいかないわよね?」

「ナミ、何言ってるの。あたりまえじゃない!」

「もうやりたくなる薬も使えないし…」


 フェイスパックを剥がしているテレサの手が止まった。何か思いついたようだ。顔にパックの皮を半分ぶら下げて、彼女は言った。


「それなら、薬なしでも男をその気にさせる専門家に聞きに行こうぜ。みんな、今週の金曜の24時に六本木に集合よ。」

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