第6話
シオサイトにあるランチバイキングの店に集結した元女子高生3人。プレートに、こぼれんばかりの惣菜を載せながらナミが言った。
「オキクもお母さんが再婚してから変ったわよね」
「そう、苗字が『青沼』に変わったと思ったら、下の名前まで変えちゃうし…」
「それまでの自分を帳消しにしたかったの」
テレサがプチトマトを素手で口に入れながら、希久美に話し続ける。
「お義父さんが、会社役員で、しかもお金持ちだからここまで変われたのよ」
「そうかしら…」
「教育と美容に惜しげもなくお金かけられたし、一流広告代理店に強力なコネもあったし…」
「全部お義父さんのおかげというわけでもないわよ。もともと素質があったの。美貌も仕事もね」
「はーい。そのとーりですねー」
「美貌はともかく…」
ナミがふたりの会話に割り込んできた。
「確かにオキクは、昔から準備や調査にマメな方だったから、それが仕事に活きたのよ」
「仕事でもなんでも、次に何が起こるかわからないと不安になるの。ナミもそうじゃない?」
「オキクほど神経質に不安にはならないけどね」
「そう言えば、ナミから聞いたわよ、オキク。半年つき合っていた彼と別れたんだって?」
「まあね…」
「まったく…。男たちを翻弄した揚句、見事に捨て去る『おあずけオキク』の本領発揮ね」
「そんなことないわよ…」
「この魔性も、もともとの素質だったわけ?」
「テレサはどうなのよ」
顔を膨らませて希久美はテレサに言い返した。
「ファッション雑誌の編集チーフの座を利用して、食べたい放題じゃない」
「まるで、今日のバイキングね」
希久美とナミがハイタッチしながら笑い合った。
「うるさい、黙れ」
テレサはテーブルナプキンで口元を拭きながら、すました顔で言い返す。
「ああ…、毎晩ラブレターを書いていたあの純朴な女子高生オキクは、いったいどこへ行ってしまったんでしょうね…」
ナミがテーブルの下でテレサの足を蹴った。ナミもテレサも当然、希久美の女子高時代のあの残酷な日を知っており、その日を思い出すような話題は今でもタブーになっていた。自分達がその日の遠因となった責任を少なからず感じていたのだ。ナミが慌てて話題を変えた。
「私なんか、小児科医なんかになってしまったから、親とこどもばっかりで、独身男が寄りつきもしない」
「確かにねー」
希久美とテレサが憐れむように声を揃えて同意した。
「それに男を漁りに行く暇もないしね。ねえ、オキク。広告業界って結構いい男が多いんでしょう。誰か紹介してくれない?」
「この業界の男は勧められないわね。派手好きだし、見栄っ張りだし、口がうまいし。とにかく誠実さがないわ」
「確かにナミのテイストに合うような男はいないかもね」
「そう…。ああぁ、オキクのお義父さんみたいな人と見合いでもするかなぁ」
「私も乗った!」
「ばかいわないでよ。年違いすぎでしょ…」
希久美は、今夜珍しくお義父さんに食事誘われていることを思い出した。今評判の創作和食の店らしい。
『あとでチェックしておこう。』
希久美は常に準備を怠らない出来る女なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます