大学生編
第12話 奇妙な友人、結
帝都大学の入学式の日がやってきた。
実は講義の開始の方が入学式よりも早いのだが、今日は一日講義無しで、例年通り武道館での式が執り行われていた。
「新入生代表、
「「はい」」
新入生代表のあいさつは、首席合格した学生が行うものなのであるが、どうやら今年は、僕ともう一人いたらしい。
それが、今僕の脇に立ち、ともに登壇しようとしている、結だ。
不思議な話で、結とはクラスも一緒になった。
クラス分けは、第二外国語の選択が基準となっており、僕らがいずれも第二外国語としてドイツ語を選択したからだとしても、理系ではドイツ語選択者は比較的多いから、クラスまで一緒になるということは、そうそう起こることではない。
ましてや、二人の首席を固めることは、クラス別の成績分布に偏りを生じさせかねないから、普通ならやらない選択だと思われる。
そう考えると、つくづく、この結と一緒になったことが、不思議に思われてくるのであった。
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退屈な挨拶も一通り済ませ、式は終わったので、僕らは解散した。
クラスでは入学記念コンパもやるそうだが、愛を再現するために必要なのは友人づきあいよりも知識である以上、そちらに足を運ぶ気はしなかった。
武道館の周辺に咲いている桜は、今年はやや早めに咲いたためかもうピークを過ぎていたが、その儚げな姿が、どこか、愛を思い起こさせ、僕の胸を締め付けた。
「ねえ、想君、だっけ?」
その桜を眺めていると、僕の背後から、誰かが声をかけてきた。聞き覚えがある声だったのでふりむいたら、立っていたのは、結だった。
結は、僕よりも大人っぽい容姿の女性である。まっすぐに伸びる、ほのかに染められた茶髪をなびかせながら、僕に向かって声をかけてきた、もう一人の首席。
少なくとも、今の時点で僕と同じぐらい頭のいい子であれば、話を聞くだけ聞いても面白いかもしれない。
悪貨は良貨を駆逐する。同じように、馬鹿と付き合えば自分も愚かになってしまう。
だから、僕は、自分より賢い部分が見いだせる人、自分の求める者の助けになれる人とのみ付き合おう、とあの日以来決めてきた。
結は、付き合っても構わない、例外的存在と言って良いように思われた。
「ああ。どうかしたのか?」
「不思議な話よね。私とあなたが、ともに首席だなんて。
ただ、私は一浪しているから、同じ年だった時の学力を基準にしたら、想君の方が私よりも上と言って良さそうね。
代わりに、私には、一年分だけ、余分な人生経験がある。
そんな私は、あなたを見ていて思ったの。
寂しく過ごしているあなた、私と同じく、ギリギリのところで満点合格を逃したあなた。
そのあなたが躓いたのは、私と同じ…評論の問題じゃないかしらって」
僕は驚いた。どの問題で躓いたかなど、何も語らぬうちに見破れるものではない。しかも、同点首席だった彼女も、同じ問題で躓いたと説明してきたのだ。
「ねえ、あなたは、A.I.と人間の区別は、どこにあると思う?そもそも、どこかにあると思う?」
やっぱり、僕と彼女とは、この問いへの考え方が違っていたとしても、いい友人になれそうだ。
「僕は、どこにもないんじゃないかと思う。
常識に照らせば僕や君は人間であって人工知能ではないものの、僕は、君とそっくりな架空の人工知能を君と区別できるとは思わないからね。
今いくつか存在する技術的な障壁さえクリアしてしまえば、人間と人工知能の区別は不可能になるだろう。ちょうど、チューリングテストをパスするチャットボットのようにね」
彼女は、それを聞いて、少し考えてから言った。
「ハードが違えば、当然同じように動くソフトも別物になる。仮にターミネーターのような、人体組織そのものすらも材質にするヒューマノイドロボットができて、そこに人間並みの知能を搭載できたとしても、私達は、どこかで思うんじゃないかしら。
何か、違うって。
それがたとえうまく言葉にできない者であったとしても、私は、そこにこそ、人工知能と人間の本質的な区別があると思うわ」
僕は、愛の再現を目指す以上、その違いすらも乗り越えなければならない。だから、言った。
「それなら、僕らで実証してみないか?どちらが正しいか」
彼女は、嬉しそうに目を輝かせながら、言った。
「面白そうね。やるわ」
こうして、僕ら二人の、奇妙な友情が始まったのである。
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