恋愛なんてバカバカしい。

ぱんすと

プロローグ

これはまだ小学に上がる前の幼稚園児だった頃の話。

俺の名前は小湊陽太。

陽太なんて名前のくせに陰気で泣き虫だった俺は、よく周りの男子達にいじめられていた。

まあ今になって思えばそれも当然の事であったとも思うのだが。

家が少しばかり金持ちで、周りの奴が持っていないゲームやカードのスーパーレアをこれ見よがしに自慢しているクソガキなんぞ気に食わないと思われて当然だよな。

だけどそんな俺にも優しくしてくれる奴がいたんだ。


俺がいつものようにいじめっ子達にちょっかいを出されていたある日のことだ。

「こらあ!そこなにしてるの!」

茶みがかったショートカットを揺らしながらそいつは駆け寄ってくる。同じ制服を着ているのですぐに同じ幼稚園の女子であることが分かった。

そうしていじめっ子達の前に立ったその少女は憮然と言い放つ。


「いますぐそのこをはなしなさい!」


するとそれを見たいじめっ子は最初は驚いたようだったが、一人でいる事を確認すると

「なんだおまえもこいつのなかまか?」

口の端をゆがめいじめっ子がニヤニヤ笑う。


「よわいものいじめなんてゆるさない。」

そう言うと彼女はいじめっ子に飛び掛かりあっという間に大将格の子供をのしてしまった。


確かに幼少期の頃は女子の方が成長が早いとはよく聞くがそれにしても彼女は圧倒的で、いじめっ子を倒すその姿はさながらアニメのヒーローのようだった。


大将がやられるのを見た取り巻き達は焦りを見せ騒ぎ始める。

「やべえよっちゃんがやられた!逃げろ!」

一目散にいじめっ子たちは駆け出していく。

そして終始その様子をぼーっと見つめていた俺は彼女に声を掛けられやっと正気に戻った。


「だいじょぶ?たてる?」


手を差し出しながら優しくはにかむ彼女を見て顔が熱くなった。

当時の俺は、これが女子に助けてもらったことへの恥ずかしさによるものか、それとも別の何かだったのかはこの頃の俺には分からなかったが。


しかし今になって思えばあの時の感情はまさしく「恋」だったんだと、そう思う。


それから俺たちはよく遊ぶようになった。

もともと友達がいなかった俺はもちろん、気が強い彼女も女子グループの輪には馴染めなかったらしく二人で毎日日が暮れるまで遊び倒した。


ヒーローごっこ、砂遊びにおままごと。二人で出来る遊びは何でもやった。彼女となら何をしていても楽しかったんだ。

「今日も楽しかったよ。やっぱり陽ちゃんと出会えてよかった」

そう言って微笑む彼女のひまわりのような優しい笑顔を見れることが当時の俺には何よりの喜びだった。


彼女さえいれば他に何もいらない。

卒園したら彼女とは別々の小学校に行くことは彼女から聞いて分かっていた。

その前にこの気持ちを伝えよう。

とんだマセガキっぷりだとはわかってるよ。

でも日を追うごとに大きくなっていく気持ちにこの気持ちは本物だって思った。

期待と不安に駆られながら今までと同じように彼女と過ごし、そして迎えた卒園式の日。


「○○ちゃん、しゅ、好きです、付き合ってくださいっ」

稚拙で幼稚でチープなセリフをところどころ噛みながらも最後まで言い切る。

内気だった俺が告白なんてほんとによくやったと思う。

顔は羞恥で真っ赤に染まり、体も震える。彼女の表情を見るのが恐ろしくて顔も上げることができず俺は銅像よろしく硬直していた。

この時の俺にはこのほんの数秒が永遠にも感じた。

―――そして次の瞬間、彼女から帰ってきた告白の返事は


「ごめんね陽ちゃん。―――あなたなんて大嫌いよ。」


訳が分からなかった。

その瞬間銃弾で胸を撃ち抜かれたような激しい胸の痛みに襲われて、俺は目の前が真っ暗になった事だけは覚えている。

そこからがどうなったのかは覚えていないし思い出したくもない。

そしてもちろんそれ以来彼女とは会っていない。当たり前だが。

なんで今更こんな事を思い出してしまったんだ。


ああ―――恋愛なんてバカバカしい。

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