うそつきピエロ
四宮あか
第1話 うそつきピエロ
学校からの帰り道、休み時間と同じくらい嫌な時間だ。
「あ~あ~お前はいいよなぁ。テストの点数低くても」
そういって、バシっと叩かれた背中が厚手のコートごしでもジンジンと痛い。
どういう意味だよとか、叩くの強すぎるだろとかは当然思う。でも、その言葉は俺の口からは出てこない。
そういうことを言われると当然傷つく。
でも、俺は今日も友達の輪から外れてしまうのが怖くて。
こんな扱いを受けていても、自分の心に嘘をついてヘラヘラと笑って流す。
ピエロと一緒、つらいことがあっても辛いだなんて言えなくて、怒りたくても怒れなくて、傷ついても傷ついたとは言えなくて、ヘラヘラ笑って笑いをとる。
それがこの
いつもの帰り道。
もう少しで帰り道が違うから別れられる。もう少しの辛抱だと言い聞かせて話を必死に合わせて歩く。
いつから、こんなに人の顔色を気にするようになったんだろう。
小学生くらいのときはもっと自由だったはずだ。
そんな時俺の視界にとらえたのは一人の女だった。
俺と違って目を引く整った顔。
髪も染めてるのだろうか、銀色の長い髪、白のワンピースに黒のチョーカー。
カーストが上のヤツは俺と住んでいる世界が違うのだ。
あんなに自分のやりたいようにしてても、きっと彼女は許される存在なのだ。
見過ぎた、目があってしまった。慌てて眼をそらした。
ソッともう一度チラ見したら彼女はこちらをじぃーっと見つめていた。
俺って第三者にはどう見られてるんだろう。
見るなよ、笑うなよ。
俺は下を向いて歩く。
「おい、どうした急に下向いて」
そういって、バシバシとかなり強く背中が叩かれる。
今いじられたくない。
人が見ている、やめて。
こんな俺のことを見ないでくれ。
恥ずかしい、悔しい、悲しい気持ちがごちゃまぜになる。
でも、俺はいつも通りヘラヘラとした笑顔を浮かべた。
いつもより沢山嫌な思いをして、ようやくわかれ道となった。心底ほっとした。
『ねぇ、あなた』
安堵していた俺に声が駆けられ慌てて振り向く。
そこには、さっきの女が立っていた。
なんだ? なんだ? さっき見てたことを何か言われるのか? ついいつもの癖で身構えてしまう。
彼女の瞳がまっすぐと俺を見つめた。
『あなたはどうして悲しいのにへらへら笑うの?』
顔が熱くなる。
彼女に答えず、俺は背をむき走り出した。
心を見透かされた、ピエロのようにヘラヘラとわらってごまかしてると見抜かれた。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。
体中が熱くなる。
久しぶりに思いっきり走った。
横腹が痛くて、呼吸が乱れて俺は立ち止まった。
本当の俺を見ないでほしい、まっすぐ心を言い当てないでほしい。
俺はその日あの女のことが頭から離れなかった。
もうあいつとは絶対に会いたくない。
こんな気持ちしているのを、あいつらにばれたらどうなる。
一人は嫌だ怖い。
布団をかぶった。
◆◇◆◇
「課題見せてくれよ」
今日も当たり前のように言われるセリフに。
「まる写しするなよ」
とだけいって、俺はあっさりと苦労してやった課題のノートを差し出した。
本当は見せたくない、コイツに見せることはあっても、こいつが俺を助けてくれることなんてないんだから。
それでも、その気持ちを押し殺して今日も笑う。
昨日の女の顔がちらつく。
『どうしてあなたは悲しいのにヘラヘラ笑うの?』
雑念を払うかのように頭を横に振った。
放課後、俺と須藤は先生に呼ばれた。
「お前達二人の課題が一字一句同じだ。どちらかが写したんだろう」
鋭い先生の視線が俺と須藤を見つめた。
こいつが写した、俺が頑張った課題をそう言えばいいのだ。
「こいつが朝してないから見せてくれって言ってきて、友達だしちゃんと少し変えて書くっていうから」
俺は信じられないと須藤をみた。
何言ってるんだ?
俺の課題を写したのはお前のほうだろう。
「須藤は帰っていい。斎藤お前は残れ」
「えっ」
「はい、先生。すみませんでした」
須藤はそういって小走りで走り去る、教室のドアの向こうにはいつものメンバーが2人待っていて須藤に小声で話しかける。
「課題をまる写しするだなんて、これじゃ自分のためにならないんだぞ」
反論しなきゃ、俺がやったんだって、俺があいつに写させてやったんだって。見てるやつだっていたって。
そう言ったところでどうなる。
唇をかんでいつも通り下を向いたその時だ。
『ねぇ、どうしてあなたは無実の罪をかぶるの?』
教室に昨日の女がいたのだ。
昨日と同じ白いワンピース姿でこんなヒエラルキーの高いところにいるやつにはわからないんだろう。
どうして反論しないのか? と俺を問い詰める。
うるさい。
うるさい。
うるさい。
「おい、どこを見ているんだ。斎藤ちゃんと聞いているのか、先生はお前のためを思って言っているんだぞ」
先生がそういって、俺はアレと思いだす。
おかしい、私服姿の女に先生は何も言わない。
『私? 私ならセンセイには見えないわよ』
なら何なんだよお前。
先生がいる手前その言葉は口にはでない。
『私はメル。メル・アイヴィー。時をさまよいしモノ』
青い瞳が俺を映した。
先生の話なんてちっとも頭に入ってこなかった。
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