僕と死神の約束

白鏡紗月

プロローグ

 僕は無意識に、一人である男を待っていた。迎えに来てくれると約束した男を。手に持っている赤い丸い石を眺める。


「一人って寂しいもんだな……」


 僕宛のお見舞いの品を眺めながら、一人病室で笑みを浮かべる。健二へ、と手書きで始まっている手紙には励まされている。僕は肺がんになった。ステージ4。まだ25歳なのにな。運って奴か。すっかり体は痩せてしまって力が入らない。しかし、痛みも抗がん剤のおかげか感じない。死ぬのが怖いかと言われたらあまり怖くない。今はもう未練なんてない。……いや、一つだけある。未練というのか分からないが……あの男が迎えに来るのを待たないと。約束はいまだに覚えてる。あの男が僕を送り出してくれるのを待っている。

 あの男、か……昔の出来事を思い出す。当時は怖かったけど、今となってはいい思い出になっていると思う。僕が今手に持っているこの赤い石もその男からもらった。透き通ってはいない、けれども奇麗に丸い形をしている石。ずっと大事にしてきたものだ。僕の身を守って来てくれたお守り。……病気はさすがに無理だったみたいだけど。

 僕は、ふと様子が気になって外を見た。


「……お、夕焼けだ……」


空は夕焼けの赤色に染まっていた。奇妙なほど赤い夕焼け。奇麗な風景だと一人で感動した。出来るものなら外に出てこの景色を見たい。でもこの体では外に出ることはできない。体が動かないことへの虚しさを感じていた時、あることを思いついた。

 あの出来事を書き残そう。残しておきたい。親が何故か買ってきたノートを使うときが来た。親は僕に日記を書いてほしかったのかな。何かをこんなに熱心にしたいと思ったのは入院してから初めての事だった。体に力が入った気がする。

 座ってその辺にあったノートを開き、ペンを手に取る。赤い石は転がらないように机に置く。いざ書くとなると緊張するなぁ……。


「書き終わるまでは死ねないな……」


石やお見舞いの品の果物に夕焼けの赤さが写り、赤く染まっている。僕は自虐的な笑みを浮かべて、ノートに一文字目を書いた。

 同時にあの時に戻った気持ちになった。当時の感覚がよみがえってくる。過去にさかのぼる感覚。あの日もこんな奇妙なほど赤い夕焼けだったなぁ……。

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僕と死神の約束 白鏡紗月 @Leia0514

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