・・・ ・  ・   ・    ・   

 一刻は、また旅に出た。


 探し物は、もうない。

 今度の旅は、あてどない旅だった。


 気になる雲の下へ。

 気になる建物の中へ。

 気になる看板の先へ。

 あるいは地図を持って、本や雑誌や旅行ポスターで見かけた、一度訪れてみたい、気になる土地へ。


 ただただ、気の向くままに。



 動かない懐中時計と共に、一刻は、旅を続けた。


 時を止めた世界の中で、一刻の時間だけが、流れていった。



 青い空の下の町を旅した。

 白い空の下の町を旅した。

 太陽に向かって進んだ。

 横顔に陽を浴びて進んだ。





 そうして、やがてまた、太陽に背を向けて歩き始めた。


 旅の終着点にしようと決めていた、その場所へと向かって。




 気ままで遥かな旅路の果てに、戻ってきたのは、あのオレンジ色の町だった。


 一刻は、しばらくの間その町で過ごした。


 そうするうちに、再びあのときの公園広場にたどり着いた。

 それからは、ちょくちょくその場所に寄るようになった。





 あるとき、一刻は、公園広場のベンチに座って、昔に見たのと同じ空を見上げた。


 オレンジ色のその空を、飽きるまで眺めたあと。


 一刻は、少しだけ歌を口ずさんで、目を閉じた。

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