飴あがり
士田 蚕
「「飴だったらいいのに」」
最近雨ばかり。登下校が疲れる。そんな一部の人類の疲労なんざ、神様には関係ないんだろうな。
じっとりとした空気の教室での授業を終え、すぐに教室を飛び出す。下駄箱の隅に立て掛けたビニール傘を手に取りすぐさま帰路より一本手前の通りへ駆けてゆく。
雨の中、裾が濡れても気にしない。
息を切らしてたどり着いたのは神社脇にひっそりとたたずむ一軒の駄菓子屋。
この駄菓子屋で帰りに飴を買うのが小学校時代からの日課だ。
飴と言っても色んな飴がある。今日は練り飴。慣れたもんだ、あっという間に桃色から白へ変わった練り飴を舐めながら隣の小さな神社に足を運ぶ。
「あ、神さん、これ。」そして飴玉を一個供える。これも日課。
一向に止まない雨。「これ全部飴だったら良いのに。」なんて子供じみた事を口にした。
また雨が降った翌日、いつも通りビニール傘を引っ掴もうとしたら…
おかしい。傘がない。外は土砂降り。こんな中濡れて帰るなんてごめんだ。
どうしようか考えてきたその時、「傘、無いの?よかったら入る?」
聞きなれない声がした。
「えっと…?」
「私、駄菓子屋のそばに住んでるの。君 あそこよく行くでしょ?」
「あ、あそこね。」
ん?あの辺に駄菓子屋以外の家なんてあったか…?まあ、入れてくれるんなら有り難いが…。
結局、一緒に駄菓子屋まで行くことになった。
「ねえ、たまに思わない?」いきなり話しかけられた。
「なんて?」
うーんとね、と考えながらその子は言った。
「この雨、全部お菓子の飴ならいいのになって。」
変な奴。自分もそうだけど。
「思う。やっぱいいよな、飴だったら。」
その子はニコニコしながら「じゃあ、決まり!」と言った。
「決まりって何が…」
横を見たらその子はいなかった。自分の手にはビニール傘がしっかりと握られていた。
…幻覚かよ。
いつもの駄菓子屋で今日は、くじ飴を引いて、舐めながら神社へ飴玉を一個供える。雨は気付けば止んでいた。
「なあ、さっきのは神さんか?」冗談まじりに言ってみた。
すると、青空からポツンと顔にいくつかの水滴が落ちてきた。そのうちの一粒が口に入った。
それは、飴玉みたいに甘かった。
飴あがり 士田 蚕 @ningentteiina
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます