雲行き

 

 ──テネブリス 魔王城にて。


 魔王城の中庭に降りるなり、私とリュカを出迎えてくれたのはテネブリス国王右補佐官アムドゥキアスだ。


「魔王様がそろそろ来るだろうと。お待ちしておりました。エマ様」

「アム……」


 私はもじもじする。

 だってこのアムドゥキアス──アムは私の大好きな人だもん。

 私はアムのお嫁さんになる為に産まれてきたの!!


「アム! 好き! 大好き! 結婚して!!!」

「ははは。エマ様、またまた御冗談を」

「冗談じゃない! アム独身でしょ!? そろそろお嫁さんをもらわないとやばいわよ! だから私がなるの! 私はもう立派なレディなの! もうこの際命令するわ。アム、私をお嫁さんにしなさい!!」

「そうですね。あと五年程したら考えましょう」

「それ五年前にも聞いたぁ!! アムの馬鹿ぁ~!!」


 私は八つ当たりでリュカの尻を蹴りながら玉座の間へ行く。

 そこには私の大好きなおじいちゃんの魔王がいる。

 とっても大きくて、骸骨頭の、私の自慢のおじいちゃん!


「──エマか」

「こんにちはおじいちゃん。お母さんが早く婚約者を作れっていうから家出してきたの」

「む? 婚約者だと……?」


 おじいちゃんの身体が大きく震える。

 私はそれに気づかずに、ため息を吐いた。


「でも私はアムと結婚するから駄目なの。なのにお母さんったら私の話を聞かないのよ」

「ちょ、ちょちょ!? エマ様ぁ……」

「……アムドゥキアス。後で話がある。いいな?」

「ひぃいっ」


 「エマ様のばかぁ」と怯えるアムは本当に可愛い。

 ま、アムへのお仕置きはここまでにするとして。

 退屈だ。私はおじいちゃんの手を握った。


「おじいちゃん、一緒にテネブリスをお散歩しよう! ね?」

「あぁ、勿論だエマ」


 おじいちゃんが立ち上がる。

 このように、おじいちゃんはとっても優しい。見た目は怖いけど。

 私の世界一自慢のおじいちゃんなのだ。

 ちなみにお父さん方のヘリオスおじいちゃんも私にとっても甘いのでいいお財布……否、自慢のおじいちゃん。

 

 魔王おじいちゃんの治める魔物の国テネブリスはいまや人間に友好的な国として有名だ。

 まだシュトラール王国以外との国交は薄いけれど……でもいつかはきっと、ね。

 

 おじいちゃんと手を繋いで、ゴブリンさんの村、竜人さんの森、セントウ研究所、色々歩いて回る。

 あぁ、平和だ。こんな日々が、この先もずっと続くんだろう。


 ……そう、思っていたのに。




***




 ──その日の夕方。

 

 アムに諭されてリュカにシュトラール城まで送ってもらうとママもパパもいなかった。

 使用人の人に尋ねれば二人とも玉座の間にいるらしい。

 シュトラール城の玉座の間は出入り口が沢山あるから聞き耳を立てやすい。


「──ルシファーが、近々現れます。ヤツは既に六百以上の悪魔を繁殖させている」

「六百!? そ、そんな!」

「ひとまず大元であるルシファーを封印するべきなのです。しかし私達大天使では手が出せない。そこで勇者はいるのです。が、」

「……サラマンダーはもういない。シルフは、完全にルシファーに食われてしまっている、か」

「ふん、つまりはルシファーを倒し、六百以上いる悪魔達を私とノームで根絶しろというわけか? 随分無茶な話だ」

「ウィンディーネ女王……」

「……まぁ、エレナの為に受けてやろう。ルシファーがいそうな場所を教えろ。調査する」


 どうやらウィンディーネ女王とミカエル様もいるみたい。

 ルシファーって、聞いたことあるようなないような……。

 意図的にお母さんたちが私に聞かせないようにしているのかな。

 ……もしかして今って結構危ない時期だったりするの? 悪魔が繁殖って……。

 私が考え事をしていると突然目の前の扉が開いた。

 出てきたウィンディーネ女王と目が合う。

 ウィンディーネ女王はポカンとしていたが、すぐにその凛々しい顔がふにゃりと緩んだ。


「エマぁ!」

「うわっぷ」


 豊満な胸が私を殺しに来る……。そう、このウィンディーネ女王様は何故か私を異常に愛してくれているのだ。


「今日も愛いのぅ! 愛い! 愛いぞ! すーはーすーはー」

「お、おい女王! 余のエマに何をする!」

「何って、お前が我の愛しいエレナを娶った故、こうしてエマを可愛がっているのではないか。なぁ、エマ。将来は我の嫁になるがいいぞ。愛でてやろう」

「あ、あはは……」

「そ、そんなの余が許さんぞ! エマは余のお嫁さんになると幼い頃言っていた!!」

「パパ、何年前の話? そんなわけないじゃん、気持ち悪い」


 パパが石になった。涙目になって、ママに泣きつく。

 するとここでミカエル様と目があった。

 何か意味ありげな視線だ。


 ……そういえばあの人、重要な会議の時はいつもいるなぁ。

 名前しか知らないけど、国の重要な人なのかな。

 なんか胡散臭い雰囲気あるけどなぁ。

 私はウィンディーネ女王に激しく愛でられながら、結局その日は皆で夕ご飯を食べる事になったのだった。

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