私の中で
「キヒヒヒ、ハヤク、エレナ、食べたいナァ。エレナが一番いいニオイがする」
不気味に身体を揺らすベルゼブブに私は歯を食いしばる。
「ちょっと待った! エレナちゃんを食べるにはまず僕を倒してからにしてもらおう。僕は今、彼女の騎士だからねっ!」
誰が誰の騎士よ。なんて、普段の私ならツッコんでいただろう。
その余裕すらなかった。フォルトゥナさんの治癒を進めないといけないのに……。
もはや、周りの音が小さくて、鼓動しか、聞こえなくなる。
フォルトゥナさんが心配そうに私の名を呼んで、私の身体を揺さぶっていた。
……彼は、ベルゼブブは、子供達が苦しむ様が彼の糧だと言った。
本当は食す必要なんかないのに、ただ苦しませることを目的として喰らった。
子供達はどれほど痛みと絶望に苦しんだだろう。
こんな怒りは今まで感じたことはなかった。だからこの怒りを消費する術を私は知らない。
自分が自分じゃなくなっていくような、そんな感覚に沈む。
蜘蛛の怪物に変貌し、私を餌として狩らんとするベルゼブブに私は怯えるべきものであるのに。
私の中には
──ユルシタラ、ダメダ。
──コイツヲ、ユルスナ。イカレ、モット、イカレ──。
「エレナ様!! しっかりなさってください!」
フォルトゥナさんの叫びに私はやっと意識の海面から顔を出す。
「フォルトゥナさん、」
「大丈夫ですか?! どこか、お体が……」
「だ、大丈夫。それよりシルフさんを!」
顔を上げると、シルフさんとベルゼブブは大広間という空間を最大限に使って戦闘を繰り広げている。
ベルゼブブの足をシルフさんが風の鎌によって二本ほど切り裂いた。ベルゼブブはそれに動じず、シルフさんに突進していく。
明らかにシルフさんが劣勢だった。私とフォルトゥナさんの事を気にしているからだろう。完全に私は足手まといだ。
どうにかしてここを出ないと。
でも。
足が、動かない。
それどころではないと脳が訴えている。
──怖い。
──自分が、怖い。
──助けて、ノーム。
──助けて……パパ……!!
「エレナちゃん!!」
「っ!?」
また、気を逸らしてしまった。
気づけばフォルトゥナさんの身体がベルゼブブに投げ飛ばされていて。
壁に激突したフォルトゥナさんはそのままズルズルと滑り降りる。
何かがベットリと私の頭に掛かった。
──ベルゼブブの、唾液だ。
「へへへへ、アハ、へへ、イタダキまぁす」
「────、」
ベルゼブブの何重もある牙が私の顔を囲んで──。
──赤に、染まる。
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