スペランサ王国へ行こう
「エレナ、気持ちいいか?」
「は、はい!」
ウィンディーネ女王によると、スペランサ王国は空飛ぶ馬に乗ればすぐに着くのだという。
私は今、ウィンディーネ女王に後ろから抱きしめられている形で乗馬している。
しかしその女王の愛馬には翼がなかった。
「あの、ウィンディーネ女王。この馬はどうやって飛んでいるのですか?」
「あぁ、魔女の軟膏を塗っている」
「魔女の軟膏!? 凄い、本当に空を飛べるようになるんだ!」
前世の絵本で読んだことがある。魔女を軟膏を箒に塗ることで、空飛ぶ箒になるんだとか。
私が感動していると、ウィンディーネ女王が私の耳に口を寄せた。
「もっとスピードを上げてみせようか?」
「え!? これよりも早くなるんですか!?」
「あぁ。我が愛馬の早さはこんなものではないぞ!!」
よく分からないけど、凄く楽しい! まるで遊園地のジェットコースター!
こんな流星のような速さで空を駆けることが出来るなんて──!
魔法、さいこーう!!
***
女人国スペランサ王国は本当に女の人しかいなかった。
あっちを見てもこっちを見ても女の人ばかり。
建物は皆丸っぽく、それぞれ色んな模様が描かれていて、私を飽きさせることがない。
なんだかお花のいい匂いがすると思えば、街の至る所にお花がたくさん育てられていることにも気づく。
あと女人国であることもあって、化粧品や香水のお店が多い。
そして何より、シュトラール王国に負けないくらいの活気があった。
新鮮な魚を宣伝する人、豪快に鳥を焼く人──市場は特に活気というより熱気すら感じる。
スペランサ名物らしき独特な形のアクセサリーも沢山見かける。ちょっと見てみたい……。
「女王様、すみません。あの
「あぁ、よかろう。許す」
「ありがとうございます!」
そっとその出店のアクセサリーを眺めれば、雫をモチーフにした木製のものが多かった。
「どの品もこのデザインがついていますね。これは……」
「あぁ、それはウィンディーネ女王を表しているものだよ」
店主の女性が気さくに答えてくれる。
「ウィンディーネ女王はこの国の英雄さ。まぁ、今はまだ建国したばかりで未熟かつ小さい国だが……あの人さえいれば、この国はさらに繁栄すること間違いなし。『我ら、ウィンディーネ女王と共にあらん』。それが、この飾りに込められた私達の決意と、願いだよ」
「……女王は本当に慕われているのですね」
私は当の本人を見た。
ウィンディーネ女王は国民の女性に囲まれて、嬉しそうに民達の話を聞いている。
この国はどうやら王様と国民の距離がとても近いようだ。
「スペランサ王国はウィンディーネ女王が建国したのですか?」
「あぁ、そうさね。最初は小さな村だったんだ。あの人は本当に凄い女だよ。まさに恐いもの知らず。そしてあの逞しさと美しさだろ? 国中の女があの人に憧れているさ」
「怖いもの、知らず……」
一人の女性が中心になって建国したなんて、本当に凄い事だ。
圧力とか色々重い地位に就いたというのに、あの人は平然としている。
……きっと悩みとか、ないんだろうな。
国中が憧れるのも頷ける。
するとウィンディーネ女王が国民達を押しのけ、私の所にやってきた。
「どうだエレナ。欲しいものがあればくれてやるぞ?」
「い、いえ、そんな。大丈夫です」
「そうか。遠慮するなよ。私の国は気に入ってくれたか?」
「はい! 本当に活気が……皆生き生きしてます! こんな素敵な国を治めているなんて、ウィンディーネ女王は素晴らしい人なのですね」
「ふふん。まぁそう褒めるな。だがその理論だと、シュトラールはこの国よりほんの少ーし栄えているが王がアレだぞ?」
「……ヘリオス王は確かに今は少し暴走しているかもしれませんが、長い間シュトラール王国を導いてきた方だと私は十分に理解しています。私はシュトラールでたくさんの心優しい方々に巡り会いました。そんな国の王が純粋に悪い人だとは思ってませんよ」
するとウィンディーネ女王が声を上げて笑った。
あれ、私何か可笑しな事を言ったのだろうか。
その時──カラスのような鳴き声が上空に響く。
そちらを見ると真っ黒いペリカン……なんだかあべこべな鳥が籠を咥えて飛んでいるではないか。
「女王様、あれは?」
「あぁ、あれはコウノトリだ。癒し家(※医者の住む小屋)に向かっているのだろうな」
「え!? コウノトリ!? コウノトリってあの、赤ちゃんを……」
「そう、赤ん坊を運んでくる鳥だ。コウノトリは妖精の使いでな。大きい子供も何羽かで一緒に持ってくる時もある。この国の三割はコウノトリから運ばれてきたのではないかな、おそらく」
嘘、この世界のコウノトリって本当に子供を運んでくる鳥なの!?
不思議な鳥だなぁ。一体どこから……。
私はポカンとして、羽ばたくコウノトリを見守っていた。
するとそこで、ウィンディーネ女王の側近らしき女性が走ってくる。
「女王様! また
「なに!? もう何回目だ! ちっ。捕獲しているんだろうな!?」
「はい! 村の女が返り討ちにして、檻に閉じ込めております」
「分かった、すぐに向かおう」
アーヴァンクって、たしかビーバーみたいな姿の幻獣だったっけ。
そんな生物が、どうしてこのスペランサ王国の村に……。
「……丁度いいエレナ。お前も来るか?」
「! はい! お願いします!」
私の返事を聞いたウィンディーネ女王がにっと口角を上げた。
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