発覚


 翌日。ドラゴンがいるという問題の洞窟に辿り着いた。

 洞窟は外からでも分かるほど、臭かった。少しだけ甘い臭さだ。

 レイの糞の匂いに少し似ているので、おそらく……。

 サラマンダー王子がここぞとばかりに私の背を押して、嘲笑している。


「俺とフォルトゥナ一切干渉しない。お前が対処しろ」


 私がその言葉に素っ頓狂な声を上げると、サラマンダー王子はますます嫌な笑みを浮かべた。


「なんだよ魔族の姫。お前、手助けされるものだと思っていたのか?」

「いえ、逆にありがたいです」

「は?」

「……下手にドラゴンさんを傷つけずに済みますから」


 そうだ。変に干渉されてドラゴンを傷つけるよりはやりやすい。

 豆鉄砲をくらった鳩のような顔のサラマンダーに可笑しくなっていると、洞窟の奥から地鳴りに近い唸り声が響いてきた。

 兵士達が震え上がり、「恐ろしや恐ろしや」と身体を仰け反らせている。

 私は──唇を噛みしめ、洞窟の奥へ走った。


「あ、おい!? お前、急に何を!」

「──ドラゴンさんが苦しがってる!!!」

「はぁ!?」


 私は声の導かれるままに洞窟の中を進んだ。

 寒い、苦しい、痛い。

 唸り声を通して、そんな声が私の脳に反芻する。

 早く、見つけてあげないと!!

 洞窟の際奥の空間は真っ暗でかろうじて大きな岩があることが分かる。

 ……いや、これは岩じゃない。

 声はここからだ。と、いうことは──。


 私の目の前に私の顔ほどの目玉が二つ、ギョロリと現れた。

 突然洞窟内が明るくなる。誰かの魔法のようだ。

 背後から兵士達の情けない泣き声が聞こえた。

 私は──目の前のドラゴンをただ見上げる。


「魔族はお友達なんだろ?」


 サラマンダー王子が冷笑する。

 私は無視してドラゴンへと地を踏み出した。


『こんにちは』


 ……あぁ、そうそう。

 レイに初めて話しかけた時も、彼はこんな顔をしていた。

 ドラゴンさんが戸惑ったように首を揺らしている。


『私の言葉……分かるの?』

『分かるよ。私、ドラゴンのお友達がいるもの』

『ドラゴンと人間が友達? そんなの、嘘よ。人間は恐ろしいわ……私達ドラゴンの肉は喰らえば不老不死に、その血は千里眼を取得するための儀式の材料に、その目玉は──あぁ、そう、彼らは私達を隅々まで貪るつもりなのよ!!』

『人間もあなたを怖がっている。あなたはどうして苦しいの? 私に話してくれないかな?』


 ドラゴンさんの話を聞きながら、私は彼女に許可をもらって、その身体に触れた。

 皮膚がやけに固い……いや、これは病気?

 洞窟の異臭の原因はやっぱりドラゴンさんの糞のようだ。でも、レイの糞でもこんなに臭くはなかった。やっぱりおかしいのかも。


『ちょっと口の中を見てもいい? お願い。あなたを救う為に必要なの』


 ドラゴンさんが戸惑いながらも頷く。

 私はドラゴンさんの牙を上下に広げて、口内に頭を突っ込んだ。


「な、なにをしているのですかエレナ! 首を噛み千切られたいのですか!」

「すみませんフォルトゥナさん。その光魔法で口内を照らしてもらっても?」


 フォルトゥナさんが戸惑いながらも光の玉を私の方へ飛ばしてくれた。その玉は私の手のひらに着地し、灯りの代わりになる。

 便利な魔法。私も使えるようにならないかな。

 私はそのまま口内の匂い、舌の色を確認する。

 舌の色、レイより黒いかな。あと……あ、口内炎がある。


 ……間違いない。


 この子、ドラゴンのだ。

 レイがどんな病気にかかってもいいようにドラゴンの病についての本を漁っておいたのが幸いした。

 ドラゴンの低体温症は外部からのばい菌が原因で発症してしまうもので皮膚が凍ったように固くなってしまう病気だって本には書いてあった記憶がある。

 ドラゴンさんの首と足に人間から受けたという切り傷があったから、それがおそらく原因だろう。

 口内炎や糞が異常に臭くなってしまうこともこの低体温症の症状の一つらしいので、まず間違いないと思われる。


 ──さて、どう対応したものか……。

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