行ってきます
──ルーメンがいなくなってから、六年が経った。
ノームとはレガン又はバンシーさん伝いで手紙のやり取りをしているだけ。
会いたくなかったとか不安にはならなかったと言えば、嘘になる。
でもノームからの返事はいつも「まだ会えない」。
この六年の間にノームも十八歳になっちゃったし、シュトラール王国では勇者も四人揃ったと聞く。
シュトラール王国がテネブリスへ進軍してくるのも時間の問題かもしれない。
……私に、何か出来ることはないのだろうか。
「エレナ様、どこに行かれるのですか?」
ギクリ。
レイの手入れが終わり彼に跨がろうとすると、アムに声を掛けられた。
声かけられただけで取り乱してどうするの!
私は冷静を装って微笑む。
「ちょっと禁断の森に。ドリアードさん達と遊ぶ約束をしているの」
「そうですか。エレナ様、分かっているとは思いますが……」
「十九番目のタイムバードが鳴く前に帰ってくること! ちゃんと分かってるよ」
私はいつも子供扱いするアムに舌を出して、魔王城を出た。
禁断の森のいつも降り立つ〝憩いの場〟はレイの着陸の為に樹木さん達が避けてくれており、分かりやすい。
そしてその拓いた空間の真ん中にある切り株テーブルからドリアードさんとニクシーさん、そしてテネブリス探検隊の三人が私に手を振っていた。
私はレイから飛び降りる。
「皆! 集まってくれてありがとう!」
「話ってなんだよエレナ」
そうぶっきらぼうに尋ねてくるオリアス。やんちゃだった彼はすっかり照れ屋な反抗期に育ってしまった。
アイムは同じ種族のヴィネさんのように美人な女性に。
シトリは……十四歳になっても随分甘えん坊だ。今だって私を抱きしめて「いい匂いだ」なんて呟いている。でも流石吸血鬼。すっかり背も高くなって、唇からはみ出ている牙が可愛らしい美形さんである。
ドリアードさんとニクシーさんは相変わらずと言ったところか。基本妖精は老いたりしないらしい。
──さて、私が彼らをこの憩いの場に呼び出したのには理由がある。
「ドリアードさん、ニクシーさん、オリアス、アイム、シトリ……」
皆には知って欲しかった。私の、
「私ね。
「い、今からって……」
アイムが両手で口元を抑える。
これはずっと前から考えていたことだ。そしてテネブリスを去る前に彼らには絶対に伝えておきたかった。
……しばらくは、帰ってこれないだろうから。
パパには置き手紙を部屋に残しておいた。
進軍を止める為に王国に行くなんて、パパは絶対許してくれないもん。
「何か策はあるのか?」
「ない! でも、行ってみなきゃ分からない事だってあると思う。ノームのお父さんをなんとか説得してみせるよ!」
ドリアードさんとニクシーさんが顔を見合わせ、嘆息する。
テネブリス探検隊が私を一斉に抱きしめてきた。
「隊長!」
「わ!?」
「私達、隊長が居ない間は代わりにテネブリスを守るわ!」
「テネブリスはルーメンが帰ってくる場所だもんね。……だから、安心して」
優しい三人の言葉に私は愛しさが溢れ、思いきり抱きしめ返す。
「まぁ、エレナのことだからな。大人しく待つだけのはずはないと思っていた。……故に、我らも、ちゃんと準備をしてきたのだぞ?」
「え?」
「エレナ、これを……」
私はドリアードさんから小さな巾着袋を、ニクシーさんから透明の液体が入った小瓶を受け取った。
「これは?」
「エレナがもしピンチの時我らの代わりに其方を助けるモノじゃ」
ドリアードさんとニクシーさんからそれらの品の説明を受けた後、優しく二人に包まれる。
嗅ぎ慣れたお花の香りにここを離れたくないと思ってしまった。
「親愛なる友の
「ドリアードさん、ニクシーさん……」
「エレナ、気をつけるがよい。最近、妙に邪悪な気配を感じ取っておる。
「恐ろしい、ものって?」
「それは分からん。……あまり無理をするな。約束だぞ。必ず、ここに戻ってこい」
「……うん」
私は皆からエネルギーを充電すると、素早く離れた。
これ以上は離れられなくなってしまう。
ドリアードさんとニクシーさんのお守りは肩に掛けている鞄に押し込む。
「──行ってきます、皆! 私、絶対に進軍を止めるし、ここに帰ってくるから!」
──こうして、十六歳になった私は、六年ぶりにテネブリスを飛び出した。
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