パパとバレンタイン

 

 ──とある日 禁断の森にて。


「ノーム、こちらが私の友達のドリアードさんとニクシーさんだよ」

「ふむ」


 ついに私はノームにドリアードさんとニクシーさんを紹介する事にした。

 その頃になると、もうノームは魔族の人達に噛みついたりはしなくなった。ちゃんと話せば、彼らが優しいことを理解してくれたようだ。

 ドリアードさんが初めて会うノームを睨みつけながら私の背中に張り付いている。

 ニクシーさんも少し怯えながら、やっぱり私の背中に張り付いていた。


「エレナ! 其方、友達が多すぎはしないか!? 会う度に友達が増えているではないか! 新しく友達を作る暇があるなら我にもっとかまえ!!」

「あ、あわわわわ……え、えええええエレナ、この人間、妾を睨んでいるぞ!」

「ははは。落ち着いてよ二人とも。ほら、自己紹介して」


 私はドリアードさんとニクシーさんの背中を押す。すると二人はお互いに顔を見合わせた。


「仕方ないのぅ。其方、ノームといったな。我はこの森の番人である妖精ニンフであるドリアードである。ちなみに我はエレナの友達である!」

「妾はニクシー。同じく番人の……妖精ぞ。ちなみに妾はエレナのだ」


 自己紹介をするなりまた私の背中に隠れる二人に私は苦笑した。

 ノームはまじまじと二人を見て、眉を顰める。


「うむ……エレナ、余にはこやつらの違いが分からん」

「えぇ、髪の色が違うじゃない! 話してみたら性格だって全然違うよ!」

「なにー! 其方、わ、わわわ我とこんな根暗妖精を一緒にするでなーい!」

「わ、妾だってこんな性悪妖精と一緒にされるのは心外じゃ!」


 ノームの言葉にプンスカ怒る妖精二人。


「えっと……ニクシーさんはちょっとネガティブで恥ずかしがり屋さん。ドリアードさんは……活発的な恋する乙女って感じ?」

「ほぅ」

「な、なななななな!? エレナ! 其方何を申すか! 我は別にアドラメルクの事などこれっぽっちも好きではない!」

「アドラメルク……聞いたことあるぞ。魔王城のコックだな。つい最近エレナに紹介してもらった奴だ。親しみやすく接してきたので覚えているぞ」

「ふふふ、流石我のアドラメルク。人間にもあの陽気さを発揮するとは……はっ!」


 ドリアードさん、自滅。でもまぁ、それがドリアードさんの可愛い所なんだけどね。

 ……それにしても。


「前から気になってたんだけどドリアードさんってアドっさんに告白とかしないの?」

「こっ!?」


 ドリアードさんの顔が一気に真っ赤になる。そして両手で顔を隠すドリアードさんは本当に可愛い。

 なんとか二人の距離が縮まるようなきっかけがあればいいのだけど……。

 

「うーん、バレンタインとかあればいいんだけどなぁ」

「ばれんたいん? エレナ、なんだそれは」

「えっとね、バレンタインっていうのは好きな異性にチョコレートっていうお菓子を贈って気持ちを伝える日だよ」

「ほぅ……菓子をな!?」


 妖精二人の目が輝く。ノームも興味深そうだ。

 ノーム曰く、チョコレートというお菓子は聞いたことがないという。

 つまりこの世界にはチョコレートはないと考えられる。……ちょっと残念だ。


「そうだ、バレンタインを作ろう! そして皆でお菓子作りをしよう!」

「お菓子作り!? よいではないかよいではないか!! 我ワクワクしてきた!!!」

「わ、妾も作りたいのだが、その、贈る相手は同性でもいいのか?」

「うん! 勿論だよ! お友達や家族にもOK! じゃあさっそく今から何を作るか考えよう!! 後でパパにも伝えて城中巻き込んじゃおう!」


 私の提案にドリアードさんとニクシーさんが興奮したように拍手した。

 ……私は除け者にされてポカンとしているノームのことをすっかり忘れてしまっていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る