第55話 襲撃

 ゴーさんとアイアンゴーレム5体の変形によって作られたプレートアーマー。


 敬太の体にしっかりとフィットし、スキル「同期」(シンクロ)も使っているので動きを妨げる様な事はなく、逆に動きに合わせて補助してくれている。なので、見た目は全身金属鎧で重そうなのだが、中の人には重さが感じられないようになっている。

 もちろん刃が通る様な隙間は見られず、きっちりと鎧で全身を包み込んでいるので安心、安全だ。実は完全防水仕様にも出来るのだが、普段は空気穴を開けているので「完全」ではないが、そこそこの密封性がある。


 しかし今、空気穴を閉じ完全防水仕様になっている。何故かと言えば魔法の火で体が包まれメラメラと燃えているからだ。


「おらあああ斬刃!」


 火だるまになって地面に転がっていると、少し青みがかった1m越えの大剣が振り降ろされてくるのが、眼前で燃え盛っている火越しに見えた。

 敬太は咄嗟に避けるのは無理と判断し、仰向けに寝転びながらも、ボクサーがとるファイティングポーズのような防護姿勢をとる。


「い”い”ぃっ」


 大剣が振り下ろされると、体の前に構えていた腕に当たり、刃物が体内に入って来た時の独特の痛みが走った。


「盾突!」


 腕の様子や、大剣の対応を考える間も与えられず、視界の外から声がしたと思ったら、かなりの衝撃が襲ってきて体が空中に吹き飛ばされていた。もの凄い早さでコンテナハウスの上を飛び越え、そのまま何処かに打ちつけられる。背中からいったのか、肺の空気がひねり出され腹に鈍い痛みが走る。腹にチカラをいれながら藻掻いてしまって、息が吸えない状態だった。苦しみ悶えて体が酸素を欲し始めた時には、目の前に暗い幕が下りてきていた。


(これは、気を失うのか・・・)


 しかし、頭の中に「気絶したらまずい」という考えが浮かんだ頃には、意識は闇の中に落ちて行っていた。




「殺ったか?」

「分からん・・・」


 コンテナハウスの前からスキルで吹っ飛び、大きな岩にぶつかりそのまま動かなくなったプレートアーマーの元に、大剣の男と大盾の男が様子を伺いながら近づいていた。


「お前らちょっと下がってくれ、止めを刺しておくよ。」


 後ろから杖を持った男もやってきて、前に居た2人に声をかける。


「火柱!」


 杖を持った男が魔法を唱えると、プレートアーマーを包んでいた火が大きく吹き上がり辺りに熱風をまき散らした。


「あちち」

「うわ~ぉ」


 杖を持った男は、自分の唱えた魔法に満足そうな笑みを浮かべている。


「ここまでやっておけば、大丈夫だよね。」

「相変わらず、お前の魔法はえげつないな・・・ハハ。」

「おい、まだ気を抜くな。あの中にまだ2つ~3つの気配がある。」


 立ち上がる火柱の明かりに照らされながら、コンテナハウスを指差し弓を持った男も集まってきていた。



 この4人組の男達は、マシュハドの街の周囲に突然現れたゴーレム群の調査をしに来ていた、冒険者ギルドから遣わされた者たちだった。皆がシルバーランクを持っており、バランスが良いPT構成もあって、何かあったら真っ先に声をかけられるPTのひとつで、街の冒険者ギルドから信頼を得ている連中らしい。


 男達は冒険者ギルドから依頼を受け、モンスターを集団で狩っているゴーレムを探しに、目撃情報があった場所から範囲を広げて探索していた。すると声にならない女の叫びが聞こえて来たので、その場所に来てみたらコンテナハウスがあった訳だ。絶え間なく中から聞こえてくる女の声にただ事ではないと感じ、コンテナハウスに突入しようと試みていると、中から犯人と思しき全身プレートアーマーが出てきたので、連携した連続攻撃を叩き込んだという流れだ。




「斬刃!」


 プレートアーマーの真似をしてコンテナハウスの扉を開け中に入ってみると、小さなアイアンゴーレムが1体飛び掛かって来たので、大剣の男のスキルで切り伏せる。アイアンゴーレムはゴーレムの核ごと頭を一直線に切られると、崩れ落ち動かなくなった。


「シャアアアア」

「ひはあああああ!」

「もうMPきついのに・・・」


 この辺はさすがにシルバーランクと言った所なのか、冷静に対応してた。


「おらよっと」


バコッ


 奥のベットで声を上げる女の前に、威嚇するゴルベがいたが蹴りつけられ壁に叩きつけると静かになった。


「女がいたぞ~」

「助けられそうか~?」


 コンテナハウスの大きさは2,5m×2,5mで奥行きは12mの長細い形をしているので、4人全員で一気に入るには狭く、2人が中に入り残りの2人は外で待機している。なので声を出し外にいる組と、中に入った組で情報のやり取りをしているようだ。


「うわっ。ひでー傷だな。」

「あれ?そいつ獣人じゃねーか。」

「え?獣人なの?」

「なんだよ~。」


 マシュハドの街があるルシャ王国では、獣人は蔑まれる対象であり、見つかれば奴隷に落とされる存在だった。なので4人組は悲鳴の元が獣人だと分かると、途端に興味が削がれ、助けるという気持ちは無くなっていた。

 獣人ってだけでも関わりたくないのに、ベットに横たわる悲鳴の女は傷だらけで、ここから奴隷商に持って行っても稼ぎにならないのは明白だったのだ。


「どうする?連れてくか?」

「やだよ~。面倒くさい。」

「あれだけの怪我してちゃ売れないだろ、放っとこうよ。」

「そうだな~。」


 男達はコンテナハウスの扉付近で、この仕事の後片付けについて話し合いを始めていた。






 その頃敬太は、ようやく気絶から目を覚まそうとしていた。


「・・・ぁ・・・っ・・・。」


 杖を持った男から追い打ちの魔法を打ち込まれ、時間が経ちプレートアーマー越しにも熱が伝わり始め、切られた腕か部分からも熱気が鎧の中に侵入してきていた。


「があああっ熱い!!!!」 


 あまりの熱さに目を覚ます事が出来たが・・・熱すぎるわ!


 うなされて目を覚ましたら火の中にいるって、どういう状況よ。慌てて飛び起きて目の前でメラメラと燃え上がっている炎越しに辺りを見回すと、ちょっと離れた位置にコンテナハウスが見え、そこでやっと状況を把握する事が出来た。


 色々思う所はあるが、まずはこの熱くなってしまったプレートアーマーをどうにかしないと焼け死んでしまうので、岩場を駆け出し大きく息を吸って川へ飛び込んだ。


 ジョワワーっと辺りに水蒸気を吹き上がらせながら、川底に沈んでいく。息を止めて飛び込んだのだが、完全防水仕様の鎧の中が水に満たされることは無かったようだ。


 じっと膝を抱え川底で鎧が冷えるのを待つ。魔法の火は酸素が無くなったからなのか、水に弱いのか理由は定かではないが、いつの間にやら視界から消え去っていた。


 ゴボゴボと水の音が聞こえてくる中、頭も冷やしていく。


 どれぐらい気を失っていたのか。ゴルと奴隷の女の子は無事なのか。あの襲ってきた男達は何者なのか。気絶する前の事を思い出し、対処がぬるかった事を反省する。


 異世界の知り合いモーブ。彼は追いかけて来た追っ手を絶対に殺していた。そこまでする必要があるのかと、モーブが追っ手を殺してるところを見て毎回思っていたが、異世界の命の軽さがそうさせているのかもしれないと、今回の襲撃を通じて考えが改められた。


 襲ってきた男達は、敬太の言葉に聞く耳を持たず、ただひたすらに攻撃をしてきた。初めから殺すつもりだったのだ。相手の言い分は聞かずに、暴力によるチカラで全てを正当化するのだろう。勝てば官軍負ければ賊軍、生き残った者が正しくて、死んでしまえば悪になる。まるで戦争だな。


 ならば、抗わねばならないだろう。




「ゴーさん。解除。」


 十分に熱は取れたので、プレートアーマーとして纏わっていてくれたゴーさん達に元に戻ってもらい、水深が胸元ぐらいまでしかない川をあがって行く。ジャバジャバと水の音がしてしまうが、なるべく小さくなるようにゆっくりとした動きで、目に付いた大きな岩の陰に身を潜める。後ろに続くアイアンゴーレム達も少し湯気を出しながら敬太の後を追って隠れてくれる。


 息をひそめ辺りを伺うと、小さく聞き取れないが話し声が聞こえてくる。どうやら襲ってきた男達はまだ近くにいるようだ。


 ゴルや奴隷の女の子の安否は気になるが、ここで慌てて飛び込むような真似はしない。まずは回復からだ。大剣で鎧ごと切られた腕を見ると、前腕部にパックリと大きな切れ目が出来ていた。少しジンジン痛んでいたが、熱さとアドレナリンが痛みを忘れさせていたようで、傷口を見たらなんだか痛くなってきてしまった。


「いつつ・・・。」


 「亜空間庫」からポーションを取り出し一口で飲み込むと、五臓六腑に染みわたり肉が見えていた傷口が塞がって行った。巻き戻しの映像を見ているようで不思議な感じがしたが、痛みが引いていくのは何とも言えない爽快さで気持ちが良かった。


 血まみれになり、腕の部分に穴が開いてしまった有印良品で買った綿のシャツは脱ぎ捨て「亜空間庫」にしまっておく。異世界に合わせ不自然じゃない格好として買って来ていた、有印良品の柄も無く天然素材の衣服。替えに数着持って来ているので1枚ダメになってしまったが、問題はない。


「大丈夫?」


 小声で後ろに控えるアイアンゴーレムに声をかけると、シュタっと敬礼ポーズをしてくれた。立ち上がっていた湯気も収まっているので、魔法の火の影響はなくなったと見ていいだろう。


「じゃあ、いきますよ。ゴーさん、セット。」


 解除したばかりで大変だろうけど、もう一度ゴーさん達に体に纏わりついてもらいプレートアーマー状態に変形してもらった。中は水ですっかり冷やされ、真夏の海の砂のように熱くはなっていなかった。それから大剣で切れ込みを入れられた前腕を見ても、空いていた穴は塞がり新品の様に直っていた。なんとも便利で役に立つ機能だと感心してしまう。


「探索」


 気を失ったせいなのか、切れてしまっていた頭の中の地図の光点を、スキルを使って再び反応させる。すると赤い光点が4つ纏まっていて、そこから少し離れた場所に青い光点が2つあった。コンテナハウスの中に居たはずのアイアンゴーレムの緑の光点が見当たらないのが気になるが、とりあえずゴルも奴隷の女の子も生きてはいるようだった。


 死んでいないのであれば、まだ取返しはつく。


 敬太の話も聞かず、ただ一方的に攻撃してきた代償は高くつくぞ。

 さあ、反撃の開始といこうか。

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