第28話 ゴーレム2

 2つに割れてしまった「ゴーレムの核」を、ゴルの卵を入れていた宝箱型の箱に入れて、改札部屋の道具棚の上に置いた。なんとなく捨ててしまうのは忍びなかった。

 初めて魔法を使い作り出したゴーレムとは短い付き合いだったが、敬太の事を身を挺して守ってくれた奴の形見を、ぞんざいには扱えない。


 それから復活したゴルと話し合い?みたいな、通じているか分からないけど、そんな事をしてみた。

 その結果「一人でお留守番は嫌だ」「敬太についていきたい」と駄々をこねるような、そんな感じの一点張りだった。飼い主としては嬉しいような、困ったような複雑な心境だ。


 結局、話し合いの最後まで、可愛い子猫に強気に出られず、根本的な解決には至らなかった。


 しょうがないので、しばらくロウカスト方面に行く事は止めて、手が開いたらピルバグを狩ってレベルを上げていく感じにしようと思う。

 それとゴルにリュックの外に出て歩く練習もさせる。また混戦になった時に、リュックに入っているより何処か端っことかに隠れていた方が安全な気がするし、そもそも大きくなったらリュックから出ないとならないからね。

 まだ子猫なので独り立ちには早い気もするけど、徐々に慣れていってもらうようにしようと考えた。

 最近は出かける時に声をかけると自らリュックに入って行くぐらい、リュックのポジションを気に入ってる様なので難しいかもしれないけど、これもゴルの為だ。頑張ってもらおう。


「ゴル、行くよ~。」

「ミャー。」


 早速、出掛けようとゴルに声をかけるとハードシェルバッグに突っ込んで行き、頭だけを出して敬太の事を見ている。

 そういう顔されると困っちゃうよ「リュックから出ろ」なんて、とてもじゃないけど言い出せなかった。

 敬太は黙ったままリュックを背負い、つるはしを担ぎ、結局いつもの様にゴルはリュックに入ったまま部屋を出て行くのだった。



 改札部屋の扉を出て右手側へ。

 階段の手前で「ゴーレムの核」をウエストポーチから取り出し地面にめり込ませる。すると地面が盛り上がりゴーレムが飛び出してきた。

 1mぐらいの雪だるま型。短い足に、丸い手。顔の鼻の部分には「ゴーレムの核」が付いている。見た目は前に出てきたゴーレムと変わりは無かった。


「お前は、前と同じやつなの?」


 あまりにもソックリなので、気になった敬太はストレートに尋ねてみたが、ゴーレムに反応は無かった。

 もしも、前と同じあいつだったら、ここでシュタッって敬礼して答えてくれただろう。

 ちょっとだけ残念な気持ちになったが、出て来たゴーレムに階段を坂道にする作業を言い渡しハンドスコップを手渡した。


「じゃあ、頼んだよ。」


 敬太が言うとゴーレムは丸い手を動かし「了解」の合図をしてきた。

 やっぱりアイツじゃないか・・・。


 気を取り直し、階段を上り体育館ぐらいの大きさの部屋に着いた。

 今日はこの体育館部屋のピルバグを全部倒すのだ。

 ちょっと肉体労働になるが、ゴルとゴーレムがこれ以上傷つかない為の作業だ。頑張ろう。


 

 ゆっくりと2時間ぐらいかけて一直線に連なる体育館部屋、3部屋全てに居たピルバグをつるはしで潰していった。

 汗をかき、呼吸が荒くなっているが休む事無く、全部で21匹倒しきった。

 このダンジョンに来たばかりの頃は4匹~5匹で「ヒーヒー」言っていたが、なんだかんだで基礎体力が若い頃に戻ってきたような感じがする。

 毎日ダンジョンで作業したり戦ったり、ずっと体を動かしていたのが地味に効き始めているのだろう。ポッコリ出ていたお腹も最近はスッキリしてきた気がするしね。

 ポンポンとお腹を叩きながらお茶を飲んだ。 


 部屋の中のピルバグを全て倒すと、次の日の朝4時にならないとリポップしないので、一旦つるはしを片付けに改札部屋へと戻る事にした。

 階段まで行くとゴーレムが丁度言いつけていた作業を終えたようで、階段が半分だけ坂道に変わっていた。

 半分階段、半分スロープって感じ、これならゴーレムも上り下り出来るだろう。


「ご苦労さん。んじゃ一緒に戻ろうか。」


 声をかけるとゴーレムは丸い手を動かし答えた。


 改札部屋に戻り、つるはしをロッカーにしまい、ちょっと休憩しようとリクライニングチェアに腰掛ける。

 背負っていたハードシェルバッグはチャックを開けて床に置いたのだが、中からゴルが出てくる気配はない。多分寝ているのだろう。

 一方ゴーレムを見てみると部屋に入って落ち着かないのか、ずっと丸い手を動かしていた。

 敬太が休んでる横で動かれると目に付いてしまうので「休んでいいよ」と声をかけたのだが、ずっと立ったまま丸い手を動かしている。

 前のゴーレムはこんな事なかったんだけどなぁと、しばらくその姿を眺めていたが、いつまでも道具棚の方向を向きながら丸い手を動かし続けていた。

 あまりにも長い事ずっと手を動かし続けているので、ちょっと心配になってきて「どうしたの?」と声をかけても、止まる事は無かった。


 そこでやっと気が付いた。あれ?これ何か訴えているのかもしれないと。

 ゴーレムのリアクションが手を動かすだけなので、いまいち分からなかったが、もしかしたら何かあるのかもしれない。道具棚の方を向いているので、その辺に何か・・・あっ今朝「割れたゴーレムの核」を道具棚の上に置いたんだった。


 「割れたゴーレムの核」を道具棚の上から取りゴーレムの前に持っていくと、丸い手をピンと突き出し「ちょーだい」って言っているように見えたので、渡してみる事にした。ゴーレムの習性で何かあるのかもしれない。

 突き出している丸い手の上に乗せてあげると、ゴーレムは顔の位置に「割れたゴーレムの核」を持っていき、そのままめり込ませた。

 ちょっとビックリしたので止めようかと思ったが、見る見るうちに「割れたゴーレムの核」はゴーレムの顔に埋まっていき消えてしまった。

 なんだかゴーレムが食べちゃった様に見えた。


 突然の理解不能な行動に敬太は、ゴーレムを見つめたままフリーズしていた。

 何で?そういうものなの?理解が追い付かないでいると、ゴーレムの顔が動き出し敬太の方を向いてきた。それから丸い手を上にシュタッっとあげて敬礼ポーズを決めた。

 え?あれ?どうして敬礼ポーズをしてきたんだ?もしかして・・・。


「お前、昨日のやつか?・・・。」


 ゴーレムはもう一度シュタッっと敬礼ポーズをとって、答えた。どうやらそう言う事らしい。

 「割れたゴーレムの核」を吸収して元に戻ったの?

 ゴーレムの生態なんて良く分からんが、そんな感じなのかもしれない。


「昨日は助けてくれて、ありがとうな。」


 まだ起こっている事についていけてないが、兎に角、お礼だけは言いたかった。

 自らの体を挺して敬太を守ってくれた、命の恩人。自分の体が崩れていってるのに、それでも前に出てロウカストの攻撃を受け続けてくれた。あの時ゴーレムが敬太を守ってくれていなかったら、今こうして生きてはいなかっただろう。

 本当に助かったし、ありがたかったのだ。


 一方、お礼を言われたゴーレムは照れているのか、ずっと丸い手をブラブラさせていた。


「フフフ。」


 いじらしいゴーレムの態度に敬太は微笑ましくなり、笑いがこぼれた。

 原理や仕組みなんかは全然理解出来ないけれど、こうやって戻ってきてくれたのだ。良しとしよう。

 不思議なやつだけど、新しい仲間なのだ。今度は大切にしていこうと思った。



 それからコミュニケーションがとれるゴーレムと話し合いをして、希望、要望なんかを聞きだした。

 聞きだしたって言っても「はい」か「いいえ」かの意思表示しか出来ないので、敬太が思いつく事を「はい」か「いいえ」で答えてもらっただけなんだけどね。

 それでも分かった事は色々とあった。例えば「仲間が欲しい」とか「仕事がしたい」だとか、ゴーレムの要望は分かったし、生態についても「眠らない」「ご飯は食べない」とかが分かった。

 ただゴーレムの核を顔にめり込ませたのはどういった事なのかは、聞いても本人も分からない感じだったので、断りを入れてから「鑑定」させてもらった。



『鑑定』

ゴーレム

スキル 同期LV1 吸収LV1

森田敬太の使い魔



 なるほど、あれはスキルが関係しているのだろうな。何となく分かった気がした。

 それから使い魔ねぇ。確かゴルは契約獣とかいう表示になっていたと思うのだけど、それとは何が違うのだろうか?知らない単語がたくさん出てくるから覚えきれないよ。

 そのうち解明できる日は来るのだろうか・・・。




 話し合いの結果決めた事が何個かある。

 敬太が寝る前にMPが余っていたら「土玉」を使ってゴーレムの核を作り、仲間を増やしていく事。これはゴーレムの要望にもあった「仲間が欲しい」ってのもあるけど、魔法の「土玉」にはレベルがあって、使い込むほどレベルが上がって行く仕組みらしく、当然レベルが上がればゴーレムが強くなり危険が減る。一石二鳥なのだ、やらない手は無い。

 次にゴーレムに仕事をさせる事。どうやらゴーレムは何か役割が欲しいらしく「仕事がしたい」って考えが強いらしい。なので罠の見回りや、ダンジョンに付けた蛍光灯が切れていないかとか、雑用みたいなのしか思いつかなかったのだけれど、それでもシュタッっと敬礼ポーズをして、やる気を見せてくれたので任せる事にした。

 それから最後にゴーレムの名前を付けた。「ゴーさん」だ。なんとなく敬太が、ゴーレムとかお前とか呼ぶのに抵抗があったから勝手に名付けたのだけれど、名前を呼ぶとシュタッっと敬礼ポーズをしてくれるので、まんざらでもない感じがした。



 午後になり、話し合いも一段落したので、作業に出ることにした。

 ゴーさんに仕事をやってもらうのでダンジョン内を自由に移動できるようにしておかないといけない。

 2か所の階段は既にスロープ付きにしてもらったんだけど、後1か所、体育館部屋から蜂の巣部屋に行くのに上り階段があるので、そこも土を盛ってゴーさんの短い足でも上れるようにしておかなければならない。


 ネットショップで運搬用一輪車(通称ネコ)とシャベルを買って、ゴルとゴーさんを連れて体育館部屋を突っ切り、蜂の巣部屋へと上る階段まで来た。

 ゴーさんはもう手にハンドスコップを持ち臨戦態勢だ。


「よし!やろうか。」


 敬太の声と共にゴーさんは動き出した。短い足でテコテコ移動して、壁際の邪魔にならない所の地面をほじくり、小さなハンドスコップいっぱいの土を持って階段まで行き、その土で段差を埋めるように盛り、短い足を使ってトントンと土を固めてテコテコと壁際まで戻って行く。

 なるほど、こうやって少しずつ少しずつやってくれていたわけか。


 今回は敬太も手伝いをする。シャベルでゴーさんと同じところを掘り、土を一輪車に載せて階段まで運ぶ。そしたら、一輪車を傾けて積んでいた土を全て降ろして、シャベルで土を撒く。

 ふむ、ゴーさんは足が遅いから移動に時間が取られるようだな。


「ゴーさん。俺が土運ぶから、ゴーさんは運んだ土を盛る係ね。」


 ゴーさんは階段で土を踏み固めていたが、敬太の方に顔を向けてシュタッっと敬礼ポーズをして返事をしてくれた。


 それからは敬太がひたすら土を掘っては運び、ゴーさんはペシペシと階段に土を盛り固めていった。

 階段の踊り場まで作業が進むと、階段を上りきった十字路部屋から土を掘り、階段に降ろしていく事で作業効率を上げた。


 2人でチカラを合わせると2時間かからないぐらいで、階段をスロープ付き階段に変える事が出来た。

 これでゴーさんがダンジョン内を自由に行き来出来るようになったわけだ。


 ついでに、蜂の巣部屋の前まで来ているので罠についての説明をした。ゴーさんには分からない話かもしれないけど、一応一通り説明しておく。

 その後、あそこのランプが消えてたら教えてねとか、この中に蜂が居たら教えてねとか、見ておいて欲しいポイントだけを伝えておいた。

 これに対してゴーさんはやる気満々で敬礼ポーズをしてくれたので任せてみようと思った。

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