第19話 決行

 準備は整った。

 沢山の材料を運び、時間をかけ道具を作り。多くの汗を流しここまで来た。後は上手くいく事を願うばかり。


「やるか。」


 手順は頭の中で考えシュミレーションしてある。十字路部屋の左手側、蜂の巣部屋に繋がる通路の傍で、薪を組み着火剤で火をつける。ここで持って来た薪は使い切る感じで、余った角材なんかも投入して火を大きくする。


 十分に薪に火が回ったところでタイヤの出番となる。タイヤは4本あるが、何本使うかはやってみないと分からない。最低でも2本は使いたいところだ。


 燃え盛る薪を大きなゴミ取りトングで掴み、火が付いている状態でタイヤの内側に入れる。余った着火剤もそれぞれのタイヤに入れておく。


 4本のタイヤ全部に、燃やしていた薪を全部入れ終わった時には、辺りは黒い煙が充満しゴムの匂いが鼻を突く状態になっていた。


 急がないと煙に巻き込まれそうだ。握っていたトングを投げ捨て、既に火が付いた状態のタイヤを転がし蜂の巣部屋に続く通路に投げ込む。すると、タイヤは転がり内側に詰めた薪をまき散らしながら転がっていった。黒い煙を尾に引きながら、火が付いたタイヤが通路の先を照らしていく。


 2本目のタイヤも転がし、3本目に手をかけようとするとニードルビーの羽音が聞こえてきた。ブーーーンブーーーンと通路内で反響しているが凄い数の音だと分かる。

 敬太は逃がしてなるものかと、急いで3本目のタイヤも転がし通路に入れていった。4本目のタイヤを見ると、手が付けられないぐらいの火をあげてしまっていたので、瞬時に諦めコンパネで作った自立する蓋を通路に押し込む。


 この時にはもう何十匹ものニードルビーが通路から部屋に溢れ出してきていて、敬太に纏わりついている。まだ通路内にいたニードルビー達は、通路を出ようと押し込んだコンパネの蓋にぶつかり激しい抵抗を見せていた。

 羽音と激突音が激しく響く中、敬太も負けまいと力任せにコンパネの蓋を体全体を使って通路に押し込む。その間、外に出ていたニードルビーからは体当たりとかの攻撃をされているが、それに構っている余裕はない。


 自立するコンパネの蓋を、ある程度通路の中に押し込めたので、ニードルビーの突撃で少しずつ動いてしまう蓋に、角材で作った杭を3本程ハンマーで打ち込んで蓋が押し返されないように地面に固定した。


 後は逃げるだけだ。中に入れそびれた4本目のタイヤが轟轟と火をあげ黒い煙をまき散らし、十字路部屋の中は煙が充満していて敬太はせき込んでしまった。急がないと危ないな。


 ニードルビーに纏わりつかれながら、モトクロスのヘルメットの口元の隙間を、袖で覆いなんとか息をして階段まで走った。

 走っている途中に煙にやられたのかニードルビーが地面にひっくり返っているのを見かけたが、敬太もひっくり返ってしまいそうなので無視して走った。

 階段を駆け下り体育館ぐらいの大きさの部屋まで来ると煙は無くほっと胸を撫で下ろした。大きく深呼吸して新鮮な空気を体に取り入れる。


 危うく煙に巻き込まれるところだった。これはもう少し方法を考える必要があるなと反省し、しつこく追ってくるニードルビーを追い払いながら改札部屋に戻っていった。



 改札部屋に着き扉を閉める。部屋の中にニードルビーが入って来ていないかを確認して、素早くATMに向かう。

 それからお引き出しボタンを押してススイカを所定の場所に置く。



残高 4,768,880円



 うわっ!確か最後に見た時は405万円だったから71匹分入って来てるのか。

 よしよし、急ごうか。


 まだ検証中なのだ。


 このまま外に出て過ごすと、その間の報酬はどう扱われるのかも知りたい。いや、そここそが知りたいのだ。


 急いでロッカーを開け着替えを始める。

 ふと上着を見ると煤が付き黒くなってしまっていた。そらなるわな~。

 ロッカーの鏡で顔が見えると、顔の方も黒くなってしまっていたようだ。時間が惜しいので適当に煤を払い、着替えを済ませる。ちょっと落ち切ってない黒い部分もあるが、そこは後で落とせばいいだろう。


 改札部屋を出る前に、気になってしまったのでもう一度残高を確認する。



残高 4,978,880円



 お~増えていってる、増えていってる。

 敬太はニヤリとしながら改札を使い駅に戻った。




 家に戻るとゴルからのミルクの催促が始まり、ゴルの世話、敬太のお風呂の順番で済ませる。

 お風呂から上がると、お昼になっていたので父親の世話をして、翌日に備えて早々に眠りについた。



 寝ている間にゴルに起こされるので、爆睡とまではいかないが、それなりに眠れたのか頭はスッキリとしていた。昨日ポーションを飲んだおかげかもしれないが、兎に角気持ちいい目覚めだった。


 

 今日も仕事は休みなのでダンジョンに向かうのだが、昨日のニードルビーの報酬はどのように反映されているのか、期待半分、心配半分で何とも言えない心境だ。


 家の事を済ませると、早々に駅へと向かった。



 冷たい弁当は食べたくないので、今日もスーパーには寄らずに駅の駐輪場に到着した。ちゃんと稼いでいるので、これぐらいの贅沢は許されるだろう。

 さて、昨日の罠の様なもので倒した分全部ススイカに入っているのか、最後に確認した497万円で止まっているのか運命の分かれ道だ。


 改札を使い改札部屋に到着した。ゴルをダンボールに移し頭を撫でると眠たそうな声でミャーと返事をしてくれた。その際ロッカー脇の物置の黒い四角の上が点滅していないのが目に入った。

 今までニードルビーとピルバグでお金以外に何かドロップした事は無いのだが、あの蜂の巣部屋の中の全てを倒す様な罠で、それだけの数を倒しても何にもドロップが無いと言うのはおかしい様な気がする。

 ダンジョンから離れると報酬が入らないのか、罠が途中でダメになったか、ドロップが無いのか。


 今回は、失敗した可能性が高まってしまった。


 ちょっと嫌な空気になりながらも恐る恐るATMの画面を見ると、文字が出ていた。


『レベルアップおめでとうございます。』


 おぉ来た来た。って事は~。早く残高を見て確認したいが、この画面からは戻る事が出来ない。強制的に何か選ばないと残高確認が出来ない状態だ。


『レベルアップボーナス』



自動マッピング

椅子

ヨシオ音声

トイレ



 変わったな。ロッカーのツリーが消えてトイレが出てきたようだ。なんか部屋を作るような項目が増えていくなぁ。自動マッピング、前からずっとあるけど必要性を未だに感じない。ヨシオ音声はいらんな。


 2択かぁ。


 敬太はしばらく悩み椅子の方を選んだ。これと言って理由はない、なんとなくだ。


「ピン」

『カードを置いて下さい。』


 ススイカを置く。


『登録が完了しました。カードのお取り忘れにご注意下さい。』


 すると部屋の中に何かがフッと現れた。インターネットカフェにあるような大きなリクライニングチェアだ。黒い革張りのような高級感、大きな背もたれに足置きも付いている。ひじ掛けのところにはタブレットも付いていて、買うとしたらそこそこのお値段がしそうな物だ。


 背もたれのない丸椅子とかがポツリと出てきたらどうしようと思っていたのだが、まぁまぁ良いのではないだろうか。


 とりあえず、椅子の座り心地は置いといて、先に残高確認だな。


『レベルアップおめでとうございます。』


 へ!?


『レベルアップボーナス』



自動マッピング

椅子➡テーブル

ヨシオ音声

トイレ

 


 どういう事なのさ?え?

 ニードルビーを倒しまくっていてレベルが上がりまくったって事なの?そういう事なのか?


 しばらく考え、時間をかけて状況を飲み込み、興奮と、恐ろしさで少し震える指先で画面をタッチする。


「ピン」

『カードを置いて下さい。』


『登録が完了しました。カードのお取り忘れにご注意下さい。』


 フッと大きな物が現れた。テーブルだ。

 トイレにしようかと悩んだが、矢印の先はいい物の法則に従ってこっちを選んだ。


 ガラス質の天板で、大きさは畳み4枚分ぐらいあってかなり大きい。テーブルの端には50cm×50cmの高さ30cmぐらいの白い箱が付いてる。

 8人いや10人ぐらいは座れそう。金属製の太い脚は無機質で、科捜研とかのテーブル、近未来のテーブルって感じがする。なんだか一気に改札部屋が華やかになったよ。


 まぁまぁ、テーブルの感想は置いといて、今度こそ残高確認だ。レベルが2つも上がってるのだからきっと残高も天元突破しているに違いない。


『レベルアップおめでとうございます。』


 ふぁぁあああ。


『魔法解放ボーナス』


 ふぇぇぇえええ。


『スタートボタンを押して下さい。』


 何か知らない言葉、いや知ってるけど知らない言葉があったのだが・・・。

 画面は「スタート」と書かれた文字があるだけで、相変わらず押さないと進まない一方通行の仕組みらしい。


「ピン」

『スタート』


 色んな文字が目に見えない早さでシャフルされている。


『ストップボタンを押して下さい。』

「ピン」

『テ・テ・テ・・・テテーーーン』


 シャフルされていた文字が止まった。「クイック」って書いてある。


『カードを置いて下さい。』


 敬太は言われるがままに、操り人形のようになってススイカを置いた。

 画面が切り替わり待機時間のパワーゲージが出てきて「しばらくお待ちください」の文字が点滅している。

 ゲージが動き出すと、前にもあった挟まれるスポンジケーキの感覚が襲ってきた。

 されるがままに身を委ねていると、スポンジケーキの感覚が消えた。


『登録が完了しました。カードのお取り忘れにご注意ください。』


 置いてあるススイカを手に取ると、魔法「クイック」の使い方を理解出たのが理解できた。


 何やら「クイック」とは時間魔法で、時間の流れの理を破り違う時間の流れに乗るらしい。要は一人だけ時間の進みが遅くなり早く動けるようになるみたい。


 なんだかよく分からないが兎に角凄いようだ。


 ATMの画面を見ると、ようやくデフォルトの画面に戻っていたの、だが・・・。



チャージ   お引き出し

スキル    ネットショップ

魔法     デリバリー



 何か増えてるし・・・。百歩譲って「魔法」は分かるよ。なんか覚えたから。

 「デリバリー」は何処から来た?

 どうなってるんだよダンジョン端末機ヨシオさんよ~。説明不足にも程があるだろうに。分かった事より分からない事の方が増えるのが早いってのはどうかしてるよな~。


 一旦、新しい項目の2つは置いといて、何はともあれ残高だな。やっと見れるよ・・・。

 お引き出しボタンを押す。



残高 12,028,880円



 一十百千万・・・。1千万円!いやいや落ち着け。一十百千万・・・。


 間違いない1,202万円。確か買い物した後は405万円で、昨日最後に確認した時で497万円だったよな。

 えっと・・・計算が上手く出来ない。えっとおおおお、797万円か?797匹も倒したのか?

 そりゃあレベルも上がるわなぁ~。



 これで分からない事の2つが分かった。

 

 罠を仕掛けて倒すような間接的な報酬でも、何処に居ようと敬太に入る。

 それから、ニードルビーはお金以外落とさない。

 


 ヤバみ~。


 凄いねこれ。


 一番気になっていた残高が確認出来たので、残りの項目もチェックしてみる。

 「魔法」のボタンを押した。



火玉   ¥10,000,000-

水玉   ¥10,000,000-

風玉   ¥10,000,000-

土玉   ¥10,000,000-


光玉   ¥100,000,000-

闇玉   ¥100,000,000-


スロウ  ¥500,000,000-

空間   ¥1,000,000,000-



 ぶぶぶっっ!

 なんねこれ?0が多すぎて分からんわ。

 えっと安いのが上の4つで1千万円。それから1億円に5億、最後は10億って・・・どういう事?非現実的な数字で何とも思わんわ。これはオレには関係ない項目のようだな。


 とりあえず、こんな物もあったねと記憶の隅に留めておこうか。


 最後は「デリバリー」ね。想像がつくけど一応さ。

 デリバリーボタンを押すとピザ、ラーメン、そば、うどん。はたまた寿司やBBQとかデリバリーサービスをしているものなら何でも表示されていた。特に安かったり高かったりはせず、予想通りの値段で普通のデリバリーだった。


 何で獲得したのか分からない謎項目だから、別に文句もない。機会があったら使ってみようかなって思ったぐらいだった。


 

 なんだか色々ありすぎて頭が一杯になってしまったな。

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