第18話 破壊神
諦めたらそこで終わりだ・・・。
マイナスドライバーとハンマーを手に覚悟を決める。
「負けへんで・・・。」
鍵がついている下部のパネルの端にマイナスドライバーをねじ込む。もちろんドライバーが入るような隙間などは無いので作るのだ。
マイナスドライバーをあてがい、上からハンマーで叩く。2度、3度と大きな音を立てながらハンマーで打ち込んでいく。
「ミャーミャー。」
どうやら寝ていたゴルを起こしてしまったようだ。
「起こしちゃったかぁ。ごめんな。」
話が通じる訳はないが、ゴルに謝っておく。なんせ、まだまだうるさくなるからね。
バンバンとハンマーを振るい続けているとグッとマイナスドライバーの先端が、パネルの端に滑り込んだ。よし、ここからは力技だ。てこの原理を使いパネルの隙間を広げていく。広げたら別のドライバーを差し込み、さらに広げていく。グイグイと力任せに大きくパネルを曲げていく。
指先が入るぐらいまで隙間を広げたら、今度はバール先輩の出番です。大中小で言えば中ぐらいの大きさで60cmぐらいのバール。先端を隙間に突っ込みパネルを曲げていく。
チカラを入れ、パネルの端の方から鍵穴に向かって先端をねじ込ませていく。つるはしで鍛えられた前腕の筋肉を唸らせて鍵穴の上までパネルを曲げていく。グイグイとバールを動かすとギシギシと金属音をさせながらパネルが歪む。
よし、ここからは鍵を壊すようにバールを暴れさせる。ちょうど鍵にチカラがかかるようなポジションに持ち込めたので、体重を乗せバールを押す。
勝負所だ。
勢いをつけてバールを押す、体重を乗せてグリグリグッグッ。鍵周辺からはミシミシと効いてる音がしている。
一度バールから手を放し、一撃必殺を狙い改札の上にあがり差し込まれているバールに向かって飛び降りた。
すると、バキンと派手な音がしたが壊すには至らず、バールと共に弾き飛ばされる。
「負けへんで~。」
もう一度だ。同じ位置にバールを差し込み再び改札の上へ。そこからジャンプして足を折り曲げ勢いよくバールを蹴とばす。
バキッ カララーン
何かが壊れた音がした。敬太は着地に失敗して崩れるようにして床に横たわる。そこで改札を見るとパネルが吹き飛んでいた。
無理やりこじ開けた鍵穴周辺は少し歪んでいるが問題ないだろう。見事に鍵を破壊したようだ。
吹き飛んでいたパネルは大きく曲がってしまっていて、再び改札に付けるのは無理そうだった。
何はともあれ、これで先に進める。
ペットボトルのお茶を飲みながら改札の内部を観察するが良く分からん。この辺はド素人の敬太が見た所で、何がどうなっているのか分かるはずもなかった。
チカラを使いすぎ震える手でスマホを操作して改札を撮影していく。
初手からいきなり時間を使ってしまった。このミッションには制限時間があるのに。始発が動き出す前、駅が開く前までには全てを完了させないといけないのだ。
急ごう。少し改札内部が暗いのでランタンを持ってきて照らす。
なるほど、鍵のパネルが開くと数珠つなぎのようにしてパネルを外していく事が出来るようだ。
手前のパネルから順番に外し、その都度スマホで撮影して記録する。
外側のパネル部分が大方外されると中身があらわになったので、ランタンを動かし配線の方を見た。目指すは大元だ。
電源から電気を盗るのが、このミッション。電気が来てない時間帯だからこそ出来るウルトラ技なのだ。
案外、改札の足元はスカスカで、根元部分は地面にボルトで固定されている。きっと電源は地面に埋まっているか、足元にコンセントがあると思うのだが、今の状態だと見当たらなかった。
しょうがない・・・ネットショップで買ったスパナセットを持ち出し、地面に固定しているボルトを外しにかかる。
一般家庭用のスパナセットの一番大きなサイズがボルトと一致したので、回そうとしたがクソ固い。でも、安心してください。こんな事もあろうかと鉄パイプ買ってあります。
鉄パイプにスパナを差し入れて、持ち手を長くすればどんなに固いボルトだろうと余裕で緩められるのだ。
鉄パイプが細くてスパナが入らないだと・・・。
予想外。ネットショップの悪いところが出ちゃったようだ。実物を見てないからサイズ感が分からなかった。ちゃんと太めの鉄パイプにしたんだけど、スパナセットの中でこの一番大きなスパナだけが入らないようだ。
あれこれ考えて大概の事に対応できるように色々揃えたつもりだったのに・・・ちくしょうめ。
いや、まだです。鉄パイプを潰して幅を広げるのです。諦めるにはまだ早かった。
鉄パイプを踏みつけてハンマーで先端を叩く。パキンパキンと甲高い金属音が部屋中に鳴り響き、大きな音にゴルが怯えている。
ごめんな、もうすぐ荒い事は終わるから。
はじめは鉄パイプも反抗してなかなか曲がらなかったけど、何度も叩いているうちに円形だった切り口が潰れて楕円形になって横幅が広がってきていた。
ここで一度入らなかった一番大きなスパナを当てて具合を見ると、もう少しで入りそうな所まで潰れて来ているのだが、荷物を運んだり、バールを使ったりしていたのでハンマーを打つ腕はもう限界だった。
チカラが入らずハンマーを振るとハンマーがすっ飛んでいきそうになる。
時刻は午前2時半、残り時間は1時間ちょっとかな?ここはポーションだな。制限時間があるのだから飲まない手は無い。
ウエストポーチを開きポーションを取り出し、腰に手を当て一気に飲み干す。
「くぅうううううううう。」
どうしても悶えてしまう、この熱さ。五臓六腑に染みわたり新たな力が湧き上がってくる。クセになりそうだ。
ポーション最高!テンションも上がったところで作業に戻る。
パキンパキンと力強い音を鳴らし鉄パイプを潰していき、どうにかスパナをねじ込む事が出来た。鍵を壊したり、鉄パイプを潰したり余計な作業が多すぎたが、どうにか作業を進められそうだ。
鉄パイプに差したスパナをボルトにはめて、緩める方向に回すとギギギっと音を立てながらボルトが外れていった。あれだけ固かったのに余裕でいけた。鉄パイプを連結するのに苦労した甲斐があったよ。
同じように地面に固定されている全てのボルトを外し、改札機を少し横に動かすと、改札機の脚と脚の間から地面の中に伸びる1本の配線を見つけることが出来た。
「あった・・・。」
間違いない、この1本だけが地中に埋まっているこれこそ電源の線だろう。
ここからは細かい作業になる。延長コードを持ってきて、差し込みプラグ側をニッパーで切り、被膜を剥がし中の銅線を出して捩じっておく。
改札機の電源の線もニッパーで切る、こっちも同じように被膜を剥いておく。
延長コードの銅線と電源の銅線を捩じり繋ぎ合わせる。この時収縮チューブを通しておくのを忘れてはならない。
銅線を捩じり合わせた所に圧着端子を被せて、圧着ペンチでかしめる。その上に収縮チューブを持ってきてライターで炙って熱を加えると、収縮チューブが収縮してピタッとなり線を締めつけた。
最後にその上から絶縁テープをグルグル巻けば出来あがりだ。
同じ作業をもう1本やって綺麗に絶縁テープを巻けば終了となる。
線を踏まないように改札機をボルトの位置に動かし、ボルトを締める。解体した時と逆の順番に、今度は組み立てていく。
スマホを見て撮影した写真を確認しながら外側のパネルをはめ込み、元の状態に戻していく。曲がってしまった鍵付きパネルは脇に置いておこう。
辺りを見渡し部品が余ってないか確認して作業終了だ。
いや~時間がかかったよ。時刻は午前3時40分。なんとか時間内に終わらせることが出来た。
ぶっ続けに作業をしていたので、お茶を飲んで休憩入れる。すると、ゴルがご飯ちょーだいと訴えてきたので、カセットコンロで湯を沸かしミルクを作ってあげる。
ミルクを人肌に冷ましていると時間がきたのだろう、午前4時ぴったりにATMの画面がつき、改札の緑色の矢印がついた。
「ちょっと待っててね。」
ゴルに断りを入れて哺乳瓶を持ったまま1回改札を使ってみた。
「ピピッ」
改札は使用できて、早朝の駅に戻ってきた。
電源を取るだけの簡単な作業だったので、心配はしていなかったが、一応の確認だ。
改札部屋に戻ると、ゴルがミャーミャー鳴いていたので、頭を撫でながら謝り適温になったミルクをあげた。
ゴルがミルクを飲んでいる間に、分岐させた延長コードをテストする。スマホの充電器をコンセントに差し込むと、ちゃんと充電マークを表示した。これで電気使いたい放題だ。
あ~電気があれば色々考えていたのが実現できるぞ。やる事がいっぱいありすぎて嬉しい悲鳴をあげてしまう。
ゴルの世話をしながら今後の事を考えていく。やっていく順番を考え、効率的にやっていく方法を考える。
何はともあれ、準備だけしてほったらかしにしている十字路部屋の検証が最優先だろうな。改札部屋の電源が落ちる前に、荷物を運搬だけしていたあの作業を続ける事にした。
まずは検証絡みから片付けていこうと思う。
ロッカーを開けて着替える。計画が上手くいけば、この辺もだいぶ楽になるだろう。いちいち面倒な着替えだけど、今は安全の為にきちんと装備を整えていく。
「ゴル行くよ。」
「ミャー。」
ハードシェルバッグに入ってもらい、ネットショップで買った物の山を見て忘れ物が無いか確認する。
「さて行きますか。」
扉を開け右手側の階段を上る、3個の体育館ぐらいの大きさの部屋を抜けて、また階段を上る。改札部屋でポーションを飲んだおかげで足の疲れが無くなっていたので、足取り軽く進むことが出来たので良かった。
階段を上りきると3方向の分岐がある十字路部屋に着いた。部屋の隅にはさっき運んだ荷物がまとめて置かれている。
さて、やりますか。
今日一日、随分と動いたのだが、ポーションのおかげで未だに気力が満ちている。
実験。何処までが敬太の報酬として扱われるのか?
まずは左手側の通路にコンパネ(畳ぐらいの大きさの木の板、合板)を合わせ、通路の大きさに鉛筆で線を引いていく。通路は綺麗に大きさが揃っている訳じゃなく洞窟を手掘りした感じなので、コンパネも大体のサイズにしておいて、通路を塞ぐ扉のようなイメージでノコギリで切って行く。
ノコギリもまた重労働だな。案外疲れるわ。
なんとか1枚切り終わり、通路と合わせてみて問題ないか確かめる。つっかえない大きさで、隙間が出来すぎず小さすぎないサイズ。
まぁこんなものだろう。
大丈夫なようなので、もう1枚同じサイズに切る。
ギコギコ・・・コンパネの下に角材を敷いて足で押さえつけながら切って行く。電動ノコギリが欲しくなるわぁ。
やっとの思いで2枚目も切り終え、サイズを確認する。ちゃんと1枚目と同じように切れているので問題ないだろう。
今度は角材をだいたい50cm~60cmの長さに1本切る。その切った長さに合わせて8本同じ長さで揃える。
そしたらテーブルを作るようにコンパネに角材の脚をつける。バランス良く8本コンパネの淵にそって立て、角材を釘で打ち付ける。そうすると簡易テーブルが出来あがる。
最後に簡易テーブルをひっくり返して脚の上にコンパネを被せて釘を打つ。これで自立する幅60cmぐらいの壁のような物が出来上がった。これを通路に置けば蓋のようになるだろう。
一応角材を斜めに切って杭の様な物も作っておく。自立する蓋が押されても動かないように杭で固定しておきたいのだ。
こんなものだろうか、作れるものは作り終わった。後は作戦を実行するだけだ。この作戦が上手くいけば、だいぶ前に進むことが出来るだろう。
この作戦が成功するか失敗するかは、神のみぞ知るのであった。
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