第12話
金属のぶつかる音、魔法が展開される音。その度に仲間のうちの―シャドウ・エクスも含めたその場全員の―誰かに傷が増えていく。前回はシャドウ・エクスに目立ったダメージは与えられなかったが、今回は違う。
シャドウを探すうちに強くなった一行、キュベリエからのアドバイスで知ったシャドウの弱点、何より前回と違うのは、レヴォルたちに迷いがないことだ。“シャドウ・エクス”も“エクス”も傷つけるんじゃない。“シャドウ・エクス”は倒して“エクス”は助けるという決断をしたのだ。
「――ねえ、エクス。私……私が戦うのは、私が戦う理由は……」
シャドウ・エクスの懐にぐっと踏み込むと、剣の切っ先が彼の腕をかすめた。ぴっと跳ねた血がレイナの頬にかかる。
「いままでの旅はもうどうでもいいなんて、そんなこと、絶対にエクスの口から言わせない。それを今度は私が証明する」
――いままでの旅になんの意味もなかったなんて、そんなこと、絶対にレイナの口から言わせない。それを証明するために、僕は戦う。
いつだったか、エクスがレイナに言った言葉。彼は、どんな運命を掴み取るのも自由だと最初に教えたのがレイナだとも言った。
――なら、私は何度でもそれをエクスに伝える。
レイナの声を聴いたシャドウ・エクスの動きが鈍くなる。レイナの声が響いたのか、それとも昔の自分の決意を思い出したのか。
「エクス! お願いだから、戻ってきて……っ!」
シャドウ・エクスの迷いが強くなったことに気付いたレイナが呼びかける。今なら、声が届くかもしれない。
「……何度も言うけど、残念ながら僕は君たちのもとへは戻れない……。…………戻っちゃ、いけないんだ……………」
「えく――」
シャドウ・エクスの頬を一すじの涙が伝う。レイナに向けた発せられた言葉には今までのどの言葉より悲痛な想いが込められていた。
レイナがシャドウ・エクスに手を伸ばそうとした瞬間、シャドウ・エクスの姿はどこかへ消えてしまった。エクスへと伸ばしたはずの手はさっきまでシャドウ・エクスのいた場所の空気を掴んだだけだった。
「なんで……『戻っちゃいけない』なんて、そんなこと……」
ぎゅっと握ったのはただの空気。まるで掴もうとしたら逃げていく未来みたいだ。レイナはその場にへたりと座り込んだ。
レイナの瞳にいっぱいの涙が溜まる。それが零れないよう慌てて手で拭い、ぎゅっと剣の柄を握った。エクスと同じ、片手剣の柄を――。
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