生まれには抗えないってもんでしょ?

 朝目を覚ましたら、世界は劇的に変わっていた。それはまるで、物語のように。


 二度寝してしまいたい気持ちを我慢して、布団から出る。重たい瞼をこすり、むくんだ足を引きずって、わずかな頭痛を引っ提げながら、やっとのことでリビング辿りつく。コーヒーを淹れたいな、と思いつつも億劫で、ついついXXXを起動してしまう。これをしてしまうと、少なくとも三〇分はその場を離れられなくなるのが毎朝のオチだった。


『政府は、きょう行われた閣議において、戸籍から性別欄を削除する方針を固めました。この変更について与党内でも反発が強く、政府と与党のあいだで法案作成に向けてどのような調整がなされるのかが注目されます。

 政府は性別欄削除について、現在の文化、社会を鑑みれば性別による区別は時代遅れであり、もはや不要になったと説明しています。しかし与党内の反対派は、全国民をいかなる方法でも区別しない戸籍制度は行政の負担が大きすぎると主張、性別欄を削除した場合には代わりとなる生来的な区別を加えるべきとしています。

 これに対し政府は、「犬派」「猫派」を記入する欄を設けることを提案しています。政権幹部のひとりは取材に対し、「犬が好きか猫が好きかは生まれながらに決まっていて、自己の意志では変更しがたい、行政上合理的な区別である」と話し、理解を求めました。党内からは「ウサギ派やハムスター派には選択肢が与えられず、抑圧的だ」「犬派から猫派に鞍替えしたという報告は多い。本当に生まれながらの性質なのか」といった批判の声が上がっており、党内議論の紛糾は必至です』

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