第301話 海洋圧迫戦略(2)(DAY5-19)
日米が共同で遂行する対中国必勝作戦『
それには、大きく3つのポイントがある。
その一つ目は、先ほど言った『中国艦隊殲滅戦』だ。
第一列島線を貫く無数のミサイルサイトからの飽和対艦攻撃と合わせ、水中からは世界一隠密性の高い日本の攻撃型潜水艦が中国海軍の大型艦を次々に仕留める。
日本はそのために、攻撃型潜水艦をそれまでの16隻態勢から22隻態勢に、十数年の歳月をかけて拡充したのだ。東/南シナ海という小さな海域に、これだけの数の精鋭
ちなみに海自潜水艦は常日頃からこれらの海域に出没し、中国潜水艦をつけ狙い、時には追い立てて彼らを恐怖のどん底に追い込んできた。平時だから実弾こそ撃たないが、常にこのゲームの最後は海自潜水艦が魚雷発射のためのアクティブソナーを彼らに叩き込むことで終わりを告げたものだ。それは有事の場合、即撃沈――すなわち「死」を意味する。
以前中国潜水艦が日本の領海に突然浮上したというニュースが流れて大騒ぎになったことがあったが、これは何のことはない、海自潜水艦に追い込まれた中国潜水艦が堪えきれずに浮上した――降参した――というだけの間抜けな話である。
開戦当時、海自潜水艦にトラウマを持っていた中国潜水艦部隊が、ほとんど出撃しなかった――できなかった――のは、こうした日頃の訓練の賜物である。
さて、中国艦隊殲滅には、さらにきめ細かな戦法が用いられ、徹底されることになっていた。海上自衛隊が配備を進めていた小型高速のミサイル艇隊による、中国沿岸への肉薄攻撃だ。
小型艇だから、さすがの中国もこれらに弾道ミサイルや巡航ミサイルは撃ち込んでこない。お陰で彼らはまさに神出鬼没、圧倒的機動力で主に警備艦や輸送艦、特務艦、偽装漁船などを次々に屠っていった。停泊している駆逐艦クラスを殲滅したのもこれらミサイル艇隊だ。
帝国海軍の時代から世界最強とも呼ばれた水雷戦隊の伝統を持つ海上自衛隊のお家芸に、中国艦隊は文字通り手も足も出ず、その体力を削られていったのである。
それに加えて米海軍の超長距離巡航ミサイル攻撃、海軍航空部隊による熾烈な空対艦攻撃。
継戦能力を確保するために、第一列島線の東側に遊
もちろん、日本本土からも多数のステルス戦爆連合が直接出撃していった。
続いて二つ目のポイントは『盲目化作戦』だ。
これはASBの、敢えて言えば「
トランプの時代になって、自衛隊は本格的に「宇宙部隊」を稼働し始めた。
最初の頃は“
キラー衛星とは、敵国の偵察衛星など軍事衛星を宇宙空間で破壊することに特化した衛星のことだ。
この時代既に中国は、独自の衛星測位システム『北斗衛星導航系統』を構築していて、米国の衛星に頼らない
中国の戦略は、第一列島線の国々へ「
このミサイル飽和攻撃を支えるのが、この中国独自の衛星網『北斗』だ。自衛隊の宇宙部隊は、これを緒戦で叩き潰す。
同時に行われるのが極めて高度な電子戦だ。現代戦はイコール電子戦・電脳戦だ。ありとあらゆる攻撃兵器が、電子情報によって制御されている。
電子戦部隊はこれらの敵電子情報にジャミングを仕掛け、火器管制システムにクラッキングを仕掛け、そのミサイル攻撃を攪乱するのが役割だ。
2019年になって、トランプが突然中国の電子メーカー
実際、このメーカーは人民解放軍のフロント企業だった。同社の幹部はすなわち中国共産党の幹部であり、外交特権を有しているから一般人のように空港で手荷物検査を受けることも一切ない。
だからこそ米国は、MPSにおいてブルーチーム陣営に
そして最後、3つ目のポイントが『
21世紀初頭から、なぜ日本の海上自衛隊が米海軍と完全にリンクしたイージス艦の大量就役を加速していったのか――
思い起こせば配備初期の頃、間抜けな革新系野党やプロ市民たちが「イージス艦は米空母を守るためのものだー! 集団的自衛権に抵触するー!」と叫んでヒステリックに反対していたものだ。
本当に間抜けな連中だった。
イージス艦配備の本当の狙いは、中国が仕掛けてくる
まぁ、彼らは元々中国共産党の工作員のようなものであったから、巧みに論点をずらして日本防衛の妨害工作を仕掛けていたのかもしれないが……
ともあれ、もちろんBMDはイージス艦隊だけでは成立しない。
当時陸上自衛隊が運用していた
さらには空中哨戒して敵ミサイルの発射を監視するいわゆる「ミサイル監視機」も、米空軍の
陸上配備型イージスシステム、いわゆる「イージス・アショア」も、こうしたBMDの一環である。
そしてついに日米が開発に成功したものこそ、BMDを完成させるものであった。
電磁バリアによる防御システム、同時に繰り出されるマイクロ波攻撃――
要するに、今までのBMDは、飛んでくるミサイルに迎撃ミサイルをピンポイントで当てて撃ち落とすという、極めて困難な対処法だったのだが、これはいわば、日本列島全体を巨大な
そんなことができるのか――!?
いや、事実出来たのだ。なぜなら、ミサイルはすべて電子制御されているからである。この電磁バリアとマイクロ波攻撃は、それら電子制御を完全に無力化するものだ。当然、敵ミサイルは
ASBとは、こうした様々な戦術やシステムが有機的に縦横無尽に組み合わさって成立している、鉄壁の作戦なのだ。
だが――
これだけ何重にも何通りにも組み上げたMPSであるが、それでも被害は免れない。
中国海軍を緒戦で徹底的に叩き、そのミサイル飽和攻撃を攪乱しながらBMDでいくら叩き落したとしても、それでも着弾そのものは防ぎようがないのだ。何せ数千発のミサイルが飛んでくるのだ。目標を逸れたミサイルが、万が一人口密集地に着弾したら、甚大な被害を蒙ってしまう。
そこでMPSでは、こうした直接的な攻撃/迎撃ドクトリンと合わせ、以下の方針もワンセットで取り組むよう定義されていた。
そのひとつが「経済封鎖」だ。“
既に米国は、2018年から中国に対し貿易戦争を仕掛け、事実上の経済封鎖を開始していた。これにより中国の経済成長は致命的な打撃を受け、対日米洋上決戦に大きな支障を与えることとなった。
あるいはそのこと自体が、中国に危機感と焦りを覚えさせ、戦端を開くきっかけになったのかもしれないが、結果的に中国はイケイケのタイミングではなく、ジリ貧になってから戦争に突入した。彼らの攻撃密度がそれによって相当薄くなったのは事実であろう。
そしてもうひとつが「懲罰攻撃」だ。
開戦初頭、第二列島線のさらに東側に後退し、温存していた米空母打撃群は、当初の想定通り一切被害を受けることなく健在であった。
緒戦をサバイブしたこれら米海上戦力が、完全に殲滅された中国海軍亡き東/南シナ海を遊弋し、今度は直接中国本土を攻撃したのである。
もちろん、この時点で陸上に配備されていた中国の弾道弾発射基地はすべて無力化されていたから、ICBMによる米本土直接攻撃は一切行われなかった。
かくして日米両軍によるMPSドクトリンは、中国に完勝したのである――
***
結局我々は、第一列島線をとうとう乗り越えることができなかった――
これは何かの呪いなのだろうか!?
日本という国は、千年以上の遥か昔から、我が偉大なる中国の冊封体制下に入ることを拒み続けた。そして今回もまた、我らが軍門に下ることはなかった。
やはりこれが、半島国家との違いなのか――
朝鮮半島は、その地政学的特徴によって、時にランドパワーの支配下に入り、時にシーパワーの前哨基地となった。常に周辺大国の顔色を窺い、その時代時代の力関係によってどちらの陣営に与するか、
それはある意味彼らにとっても不幸なことであったと思う。中国のように完全に大陸国家であれば、あるいは日本のように完全に海洋国家であれば、彼らも自分たちがそのように生きるしかないことを十分自覚し、覚悟が出来たはずなのだ。
だが「半島」という地理特性は、彼らを優柔不断で中途半端な人格に作り変えてしまった。まだ十分に科学技術文明が発達していなかった近代までは、彼らはやはり陸続きの超大国――中国に隷属して生きるしかなかった。下手に反抗すれば、すぐにでも大軍が押し寄せ、彼らの国土を蹂躙したからである。
だが、やがて人類が文明を発達させ、簡単に世界と行き来できるようになると、半島の人々は中途半端に海洋通商の旨味を知ってしまった。
シーパワーはそこに目をつけ、彼らに「自分たちの目の前には無限のマーケットが開けている」という幻想を抱かせた。「いつまでも強圧的な大陸国家に卑屈に従う必要はない」と囁き、自分たちの側につけば、自由で開放的で、実力だけでいつでものし上がれる、と説いたのだ。
もちろんそれは、シーパワーが大陸に楔を打ち込むための甘言であった。ここを橋頭保とし、大陸の経済を牛耳れば、シーパワーは莫大な利益を得ることが出来る。
それにもし、自らの勢力圏にシーパワーが蚕食してくることを嫌った中国が、腹を立ててこれを排除しようとしても、最悪半島を生贄にして時間を稼げば、シーパワーは安全に撤退することが出来る。
所詮半島は、使い捨ての駒に過ぎなかったのだ。
もちろんシーパワーはその本質が商人であるから、自らの利益に相当する対価はキッチリ支払う主義だ。だから半島は今まで十分その恩恵に浴してきた。
20世紀初頭には、日本がその近代化に圧倒的な役割を果たした。人々に文字を教え、教育を施し、水道や電力・ガスなどインフラを整備し、重工業をはじめとする産業を導入して、近代国家の体裁を整えてやった。
その結果として半島の人口は激増し、それまでの中国冊封体制下で辛うじて生き永らえていたみすぼらしい弱小国家は、まがりなりにも文明化への道を歩み始めたのである。
第二次大戦が終わると、そこに米国も加わっていった。軍事的にランドパワーと対抗できるだけの戦力を配置し、ただの橋頭保から前哨基地へ、そして要塞へとその役割、立ち位置を強化していったのである。
その間、日本は彼の国をより一層支援した。自らが血と汗で作り上げた様々な産業や科学技術の核心を惜しげもなく与え、少なくとも組立工場としては自立できるまでに育成したのである。
半島は、シーパワーにとっても十分利用価値のある、戦略拠点に育ちつつあった。
彼らが思い違いをするまでは――
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