8秒数えて

新 珠月

第1話

 昔から母には色々なことを教えられた。

 めちゃくちゃな話が多くてためになりそうなことは多分一部しかないかもしれない。玉ねぎを素早く切ると泣くことはない、とかお賽銭で10円は入れないほうがいい、とかそういう雑学ばっかり。かと言って母は知っている雑学を深く信じているわけではなく、私がお賽銭で10円を投げ入れたとしても何も言ってこなかったし、母も母で10円入れていたところは見たことがある。家族の元を離れた今では母から昔のように雑学を教わることはないけれど、何かをすると、ふと母の言っていたことが頭に過ぎってくるのだ。


 「課題、なかなか終わらないなー」

回転椅子でくるくる回りながら今週中締切の課題に弱音を吐く。

「こんなものを今週中に、てどうかしてるよ」

”近代デザインについて自由に述べよ” と冷たく書かれた課題に苛立ってくる。何が自由に述べよ、だよ。それを原稿用紙1枚にまとめるなんてどうかしてる、と思いながら論文のアイデアを裏紙に書こうとするもどうも気が乗らない。

「あーなんで私この学部に入ったんだ...」

 高校生の時、興味を持ったのはデザイン関係についてだった。実際に入ってみて最初の一年は課題や専門的な授業、実習に積極的に取り組んでいたもののそんな熱は短気な私からしたらもう失せてしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

8秒数えて 新 珠月 @Dark-of-moon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る