第11話 鬼哭

 おには基本死んだ人の魂が呪と絡み具現化した、怪奇かいき種。

 にくたいおにになるわけでは無い、死霊たましいが鬼となるのだ……


 ——3人の額から伸びている黒い角はなんだ……見るからに鬼そのものじゃないか。


(出口が開かないのなら仕方ない……)

「全員で固まるな! 隊列を組み土御門つちみかどとの戦闘を許可する! 指揮は宗方むなかたがとれ」


 小野目おのめ先生の口調が変わる。

 いつもは穏やかな口調なのだが、任務の場合はスイッチが切り替わる、緊張感を保つ為らしい。

 それだけ今の現状がどれだけ大ごとか、理解するのは早かった。


 それと指名された遊馬あすまさえ……眼の色が変わる。


「ご指名だからなー、久しぶりに頑張ってみますか……まずは俺が先頭に立ち土御門つちみかどの爆発を防ぐ、怯んだ所に遊撃で反射神経促進呪術オートブリッツ装備者が地上から接近戦に持ち込む、その補助を跳躍強化呪術オーバージャンプ装備者が空中での銃撃、他は空中組の補助! じゃ行くか……皆んな、よろなー」


 まるで戦闘慣れしている様であった。


「もぉいぃかぁしらあぁぁあ?」


 前方に火花が散らす、そこからは一瞬だった……


 爆発が起こる寸前、遊馬あすまは強く右足を踏み込み刀を抜刀した勢いのまま180度回転し、刀身に風の層を作り出し爆発を相殺していた

 俗に言う『鎌鼬かまいたち』である。


 僕らには遊馬あすまを爆発で発生した炎が避ける様に散り散りになって行く様にしか見えなかった。


宗方むなかた流派なんて知らねーけど、自己流で結構戦えるんだぜー俺」


 遊馬あすまの元からの身体能力、剣術それを全て含み上に立つ才能は流石なものであったが、それよりもだ遊馬あすまの潜在能力を見抜いた小野目おのめ先生もこの短期間でよく生徒を見ているんだなと思う。


「なんで……、逃げ切れたと思ったのに……何で! 何で!」


 これはミーハーの気持ちで入学してきた学生にとって絶望的であり、弱音を吐くものは多々いる様であったが、僕の隣で膝を抱え子供の様に声を漏らしていたのは……目を疑ったそこに居たのは犬神いぬがみ君であった。

 まるで自分を強く見せる為の傲慢たる鎧が崩れ堕ちて行く様な……。


犬神いぬがみ君! どうしたんだよ!」


 虚ろな目をして現実から逃げている様な犬神いぬがみ君の肩へ目を覚まさせる為に手を置く。


「さっ……触るな!!」


 酷く動揺している。


「もう駄目だ、リバイブが俺を殺しに追って来たんだ……」


 リバイブ……?


 ——【図書資料室】


「ありゃ、『リバイブ教団』のこと知ってる子いたんだー。

 こりゃーどうしよっかな、軽い戦闘実験だったけど〜ちょっと本気で潰しにいっちゃおうかなー」




 ——【戦闘訓練室】

 戦闘が始まってから5分……1人で2人の相手をしている小野目おのめ先生、大人数で連携して戦う生徒どちらもこちらが優位に立っていた。

 鬼化した3人の力は強大なものだったが、何処か身体が思った様に動かない様な素振りがあり、もう直ぐこの戦いも終わりに近づいていた。


 ……の筈だった。


 パキンッ


 何かを握り潰す音……そして土御門つちみかどは高く跳び上がり


「シィネェェェエ」


 この行動を察知した先生が、戦っていた2人を振り切り


「全員! 私の近く……」


 ドオオォォォン!!


 一瞬何が起きたか分からなかった……気付いた時僕は仰向けになり硝煙が漂う天井を見上げていた。

 全身が酷く痺れ、起き上がる事もままならなかった。

 だがそれも僕にとってはまやかし、一呼吸する頃には怪我が元からなかった様になる、そのままゆっくりと起き上がる。

 硝煙の臭い、そして硝煙に交じり臭ってくる血の臭い、硝煙が晴れると目の前に映る光景……

 皆んなが先生すら倒れている真ん中に立ち涙を流し笑う少女が1人


 皆んな数箇所に火傷を負い、爆発や火傷の痛みなどで気絶していたのだが、このままでは死んでしまう、それに土御門つちみかどにはまだ少しの感情が残っている……かわいそすぎる。


 この時僕の決断は揺るがない物となった。


「先生、ごめんなさいルール違反します」


 SDTから【魔力封印符】を抜き取る。


 皆んなの息や心臓の鼓動が弱まっているのが聴こえてくる、生臭い血の臭いが香りに変わる、そして泣きながら助けを乞う土御門つちみかどが良く見える……、そして左の額から角が伸びてくるのが分かる。

 以前僕は怒り、殺意が膨らみ角を形成し、鬼化おにかという着地点に到達する事が出来た。

 今は3人をこんな姿にした、いるかどうかも分からない黒幕に怒りの感情はあるが……今はただ皆んなを助けるその一心その気持ちがあれば鬼化おにかする事は容易い事だ。



 入学から2日、1年6組のみに訪れた絶望もしかしたら僕が呼び込んだ事なのか、そうでは無くとも周りから運がないねと言われてしまう事だろう、僕が入学した事は凶だったと確定しているということか?

 いや、少し前向きにいこう……僕が入学しなければ、皆んなは今死んでいただろう、それに土御門つちみかども報われない

それを今覆せるのは僕だけだ……これは傲慢だろうか? いや、それでも僕がいる今この瞬間は吉であるとそう信じよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る