告白

 水族館からの帰り道。チアキ先輩は西野を送って行くといって、2人で行ってしまった。手慣れているというか、ホントに感心する。

 残された俺たちは、並んで歩いていた。


「チンアナゴ、可愛かったね」

「そうですね。クラゲの水槽も良かったです。ずっと見てられます」

「そうだね」


 ひと通り、水族館の話題で盛り上がったあと、気になっていたことを聞いてみた。


「西野、何でオッケーしたんだろう?」

「おやおや、元カレとしては、気になりますか?」

「そんなんじゃないけど……いきなりだったからさ」


 俺の知ってる西野は、もっと思慮深くて、慎重に行動するタイプだ。出会ったばかりの人からの告白にオッケーするタイプじゃない。


「うーん、才加さんの本心はわかりませんけど、チアキ先輩のことはタイプだって言ってましたよ」

「いつの間に聞いたのさ」

「お昼です。レストランで、修くんとチアキ先輩が2人で話してた時です」


 俺たちが話してる横で、そんな話をしてたのか。全然、気づかなかった。

 みゆきが西野のことを名前で呼んでいるのには、ちょっと驚いた。


 話しているうちに、国道を跨ぐ歩道橋に差しかかった。俺がいつも、ツライことがあると来ていた場所だ。

 最近は、ここに来ることもなかった。それだけ、毎日が充実しているということだ。


「ここ綺麗ですね」

「そうでしょ。前から、俺のお気に入りの場所なんだよね」


 とっさにウソをついてしまった。まさか、死ぬつもりで来ていたと言う訳にはいかない。だから、ウソはしょうがなかった。

 みゆきにウソをつくと、心が苦しくなる。彼女にだけは、誠実でいたいと思うのだ。


 国道を一際大きなトラックが走って行った。ど派手なライトに彩られたデコトラだった。

 でも、恋に浮かれてると、イルミネーションに思えてしまう。


 トラックが巻き起こした風が、みゆきの柔らかな髪を揺らす。その姿を心の底から、綺麗だと思った。


「み、みゆき、俺と付き合ってくれないか?」


 まったく、そんなつもりはなかったんだけど、口から出てきた言葉は、ありきたりな告白のセリフだった。


「エェッ?!修くん、チアキ先輩の真似ですか?」


 あまりに突然なので、みゆきも戸惑っているのだろう。ふざけて、ごまかそうとしてる。


「違う。本気だよ。俺はみゆきが好きだ。付き合ってください」


 今度はちゃんと、自分の頭で考えて言えた。

 一瞬、みゆきは泣き出しそうな顔になった。だから、断られるのかと思った。


「はい。エヘヘ。よろしくお願いします」


 嬉し涙なのだろうか?みゆきは泣き出しながら、俺の告白を受け入れてくれた。

 7月7日。奇しくも七夕の夜。俺たちは、晴れて恋人同士になった。

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